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養殖天然の彼女  作者: 天川
偽善者の彼
24/26

彼と早稲泉とその彼氏

~お礼編~

部活が終わり、さっさと帰ろうと校内を歩いていたら、思わぬものに捕まった。


「す、すいません!」


急いで駆けてくるそれに、ゲッと顔をひそめてしまう。

しかし彼女はそんな俺に気付かないのか、息を切らし、頬を赤くして、そして立ち止まったかと思うと、思いっきり頭を下げてきた。


「あ!あの、ありがとうございました」


頭を上げ、しかし視線は恥ずかしげに下を向いている。

俺はそんな彼女に、とぼけることにした。


「は?なんのこと」


たちまち彼女の表情が驚きに固まり、視線が俺に向く。


「え?」


「俺、あんたと関わったことあったっけ?」


あえて、柄悪く絡んでみる。

これ以上、彼女と関わりたくなかった。あれは必要最低限の交流にすぎなかったし、打算的な行動だったのだから彼女に感謝を言われる筋合いもない。


彼女は戸惑いながらも、ああ忘れてしまったのかとぎこちない笑みを張り付けながら、言う。


「あ、あの、この前、放課後に、たまたま教室で会って、それで飴くれて」


なんとか思い出してほしいようだ。

俺はうんざりとばかりに、顔をひそめた。


「あのさぁ、それきっと俺じゃないよ」


全く身に覚えがないと、否定の態度を取る。

すると、彼女を見るからに最初の高揚も消え、項垂れてしまった。


「そう・・・なんだ。ごめん、なさい。勘違い、しちゃったかも・・・」


自分を納得させるように、自分に言い聞かせるように、ゆっくりとした口調で彼女はそう呟く。

そこで少し、嫌な予感がした。

しかし、既に遅かった。


「泉!」


駆けてくる足音と必死な声が聞こえてきて、反射的に振り返る。

その人物に、思いっきり顔をしかめてしまったのはご愛嬌だ。

まさか、いじめの原因になっている、俺が毛嫌いしている本人くだじょうじが登場してくるとは思っていなかった。

久田條二は俺と早稲泉の間に入ってくると、思いっきり俺を睨みつけてくる。

明らかな警戒心に、うわ、めんどうくせぇ、と感じるのはどうしようもなく仕方ないことだった。

大方俺が早稲泉にちょっかいでもだしたと思っているのだろう。濡れ衣もいいところだ。

だから俺は久田條二が何か言い出す前に、早稲泉に告げた。

さっきまでの不機嫌な様子を一ミリも出さず、あくまで爽やかな一面を装って、


「ま、お前も頑張れよ」


と、慣れない励ましの言葉をまた言って、その場をごまかして、逃げた。


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