表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
養殖天然の彼女  作者: 天川
偽善者の彼
23/26

彼と早稲泉

性転換しています。苦手な方はブラウザバックをお願いします。

ちなみに性転換しているのは

早川京子→早川京介

だけです。

話の流れは本編と同じです。


第一話~出会い編~


誘われて入った部活が終わった後、忘れ物をしたことに気が付いて、教室まで戻っていた。別に明日でもよかったが、忘れ物を取りに行くという名目でそのまま一人で帰った方が気が楽だった。だから、誰もいないはずの教室の片隅で、まるで湿った場所にキノコが生えてきたように、じめじめと泣く女いるだなんて思ってもいなかった。


ガラッと音をたてて扉を開け、自分の席に視線を移すと同時に、人の気配がして振り向いた。

そこには、涙に濡れた目を見開いて、驚いてこちらを見る女がいた。

なんでこんなところに、と思う前に、彼女の机に置かれたもので納得する。

ああ、あれか。いじめか。

自分とはかけ離れたそれをただ漠然と認識し、こいつが噂のいじめられっ子かとやっと思い当たることが出来た。

クラスでは有名な話だ。たしか、名前は早稲泉、と言っただろうか。

いかんせん興味がなかったため、クラスメイトの名前も怪しい。

正直、出会いたくなかったなと舌打ちも隠さず、忘れ物を取ろうと自分の席に向かう。

彼女は突然現れた俺に怯えたように、挙動不審ながらも机の上のものをぎこちなく隠した。

俺は確かにその瞬間を見て、それが何か分かっていたが、何も言わなかった。

面倒事に関わるのはごめんだ。

そう思って、何も言わず教室を出ようと思った時だった。


それでは『普段の俺』とは違う。

普段の俺は、『ぶっきらぼうだけれど、基本的には良い奴』ぐらいのイメージを保っていた。

それぐらいが一番扱いやすいのだ。しかし、今泣いている彼女を見て舌打ちをした上に、忘れ物を取って無視して帰ったとなれば、いささか心象が悪くなるかもしれない。

いや、あいつの中の俺の印象が悪くなることが、今後に影響するはずがないと思い直すが、すぐさま、あいつがどうしていじめられているのかを思い出す。

早稲泉がいじめられている理由。それは実にくだらないことだった。

この学校一イケメンと女子の中で囃し立てられる、久田條二を付き合っているからだ。

本当に、女という生き物はよく分からない。確かに男の中でも憧れている奴がいるが、ただそれだけだ。久田條二という、一人の雄のために周りの人間は馬鹿みたいに囃し立て、心酔する。それを本当にバカみたいだと、俺は思っている。

さて、問題はもしも俺が無視したことを早稲泉が久田條二に話したら、それはそれで面倒なことになるかもしれない、ということだ。

さっき述べたように久田條二を慕う人は大勢いる。もし久田條二が俺に対して悪い印象を抱けば、それはもれなく周りにも影響するだろう。

まぁ、悪い影響と言っても、大したものではないだろうが。

しかし、それはそれで面倒くさい。早稲泉に言葉をかけることよりも、面倒だ。

だったら、面倒事の種は今つぶしておくことに限るだろう。

振り返れば、扉に手をかけて止まっていた俺を、早稲泉は怯えながらも不思議そうに見つめていた。


「おい」


愛想のない声で、彼女に呼びかける。

彼女は体を震わせながら、「は、はい」と答えた。


思ってみれば、なんて声をかければよかったのか。

そもそも励ましの言葉など、言ったことがなかった。

きまずい雰囲気の中、ふと、ポケットの中にもらった飴が入っていたことを思い出す。

俺はそれを取り出して、そして早稲泉に放り投げた。

彼女は驚きながらも、突然投げつけられたそれを反射的に受け止めたようだ。

一度ぎゅっと握りしめたそれを、そっとこぶしを開け、確認する。

そして、また心底驚いたとばかりに、俺を見返した。


俺は慣れない行為に、気恥ずかしくなりつつも、


「まぁ・・・それでも食って元気出せ」


と、視線を逸らしながら告げ、そのまま彼女の姿を見ないまま教室を出た。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ