彼女と大学
朝、隣の部屋も気にしないアラーム音で目が覚める。じゃないと、起きれないからだ。
ちなみに大学まで徒歩5分で着く場所のアパートを借りているため、アパートの住民はほぼ同じ大学の学生である。
朝食はシリアルで、ボサボサの髪も気にせずボリボリと咀嚼音を響かせながら、ふとしんみりと考えてしまう。
どうしてこうも、一人暮らしは面倒くさいことばかりなのだろう。
洗濯、食事、掃除。
特に、ゴミ捨て。
ゴミ出しの日も限られ、さらにはゴミの分別もしなければならない。
そこまで気を使えない私では、部屋がゴミ部屋になるのも時間の問題だろう。
料理も、得意じゃない。
自分好みの味付けもよく分からないまま、赴くままに調味料を突っ込んでみる。が、度々反省することがあるぐらい美味しくはない。
シリアルを食べ終わった後、皿を小さいシンクに置いておく。
パジャマを脱ぎ捨てて服を着替え、髪を梳かす。昨日と全く同じ中身のカバンを掴み、家を出た。
そして慌てることなく講義開始ぎりぎりの時間に大学に着き、空いている席に着く。
その隣にすかさず座り込んできたのは、通山加奈子。
大学でできた友人・・・ではない。
正しく言えば、私に付きまとっている人、だ。
「今日もギリギリだったねぇ」
なんて、慣れ慣れしく話しかけてくる。
正直、私はこいつの馴れ馴れしさと執着に辟易としていた。
いつも私に付いてきて、講義では常に私の隣をキープしたがる。
何の接点もない、見ず知らずの人に突然付き纏われ始めたことに、最初こそは戸惑いと苛立ちを感じていたが、今では慣れ始めているから怖いものだ。
昼食は常にコンビニ弁当である。
しかし、親から送られてくる仕送りだけでは、買い食いする生活を持続することは到底できない。
かといって、朝にお弁当を作ってくる余裕など、到底私にはない。
そのため、様々な利点と消去法により、私自身も驚きだが、コンビニでバイトすることにした。
バイト時間は、日によって違うが基本的に学校が終わった後と休日。
本当は休日まで働きたくないが、通山加奈子が隙あらば予定を詰め込もうとしてくるため、仕方なしだ。
時間帯は、平日は夕方5時から9時まで。休日は変則的だが、早朝は絶対入れないようにしてある。
そして、学校近くのコンビニであるだけに、学生が多い。
私服だからなんとなく判別しているだけだが、どちらにしろ客層は若い。
そして必然的に、バイト仲間も学生ばかりだった。
「早川さぁ~ん、品出しお願いしていいですかぁ~」
間の抜けた話し方をする男、葛城涼。
彼は私より年上の学生である。身長は私と大して変わらず、茶色に染めた髪と天然パーマ、さらには人懐っこい表情をする、バイト経験2年目のバイトの先輩でもある。
私は内心、彼を『愛玩犬』と呼んでいる。
なぜなら、どうにも常連客には彼の友人が多いらしく、よく顔を見せに来ているからだ。
だから、久田條二が早稲泉を守ろうとする忠犬だとすれば、葛城涼はみんなに可愛がられる愛玩犬だろう。
「分かりました」
私はそう返して、店内をグルッと見まわしてから少なくなっている商品を取りに裏へ回った。
裏にはもう一人いて、真剣な表情で電卓をたたいている。
私は声をかけることもなく、商品を引っ張り出す。
彼は楯清和。28歳のフリーター。
何故彼が28歳にもなってコンビニバイトを続けているか、それは誰も知らないところである。
いくつかの商品を台車に乗せ、店内に戻り、商品を置いていく。
葛城涼は接客をしており、相変わらず人懐っこい笑みを浮かべて対応している。
私はそれを盗み見しながら、ゆっくりと商品の品出しを行う。
それがいつもどおりのコンビニ風景だった。




