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巡り合わせ

朝飯を食って学校にいく。

それは毎日同じ光景だったが、今日は少し気になった。

公園に佇む男の子と、木に引っかかったおもちゃの飛行機を取ろうとする少女。

「ほっ、ほっ」っとジャンプしながらも全く届いてはいないが。

俺は背が高かったので、そこに近づいていって飛行機を取ってやる。

「お兄ちゃん、ありがとう!」

男の子が無邪気な顔でお礼を言う。

「いやいや、大したことじゃないよ。

次からは気をつけような。」

そう言って飛行機を渡すと男の子は満開の笑みを浮かべて走っていった。

「蒼介くん、ありがとうね。

私じゃ全然背が足りなくてさ。」

見ると先ほどの少女がにこやかに笑っている。

長い黒髪、白い肌。そして、透き通るような大きな瞳。

危うく飲み込まれるような、そんな危機感を煽るような瞳に耐えきれず、俺は目を逸らした。

そこで俺は少女が着ている制服がこの地域では秀才で有名な女子校、緑山女学院のものであることに気づいた。

「なんで俺の名前を知ってるんすか」

「ほらそこ。鞄のキーホルダーに書いてあったから。

失礼だったかな?」

「いや、全然大丈夫です。」

「そっか。それはよかった。

また会えるといいね。

それじゃ。」

と言うと彼女は去っていった。

寝起きなのもあるが、ひどくさっぱりしたような出来事だった。

突風のように急に来ては、急に去った。

それにしても、あの少女、かわいかったな。

しかし、なぜかはわからないが、謎の既視感があった。

前にもどこかでこんなことがあったか?

言いようの知れない違和感を抱えながら学校に向かった。


「蒼介、遅かったじゃん。何かあった?」

「いや、なんもねーよ。一本乗り過ごしただけだって。」

「めずらしいっていうか、初めてじゃないかな?

蒼介が遅れるの。」

「細けぇこと気にすんな。

祐一はまだ来てねぇだろ。」

「いつも遅刻ギリギリの祐一と比べてどうすんのさ。」

「「ハハッ、そりゃそうだ」」

ガラガラッ「おい、今俺の話してんじゃねーだろーな!」

「なんでわかるんだよ、お前。」


どうにもすっきりしない。

拭いきれない違和感が頭を支配している。

あのにっこり笑った顔。

授業中も、飯の時もサッカーをしてる時も頭の片隅にその顔はある。

どうして。理由はわからない。

見覚えもない。

そもそも小学校最初の頃は兎も角として、小学校の最後の方や中学時代、俺はまともな友達すら作らなかった。

いや、作れなかったと言った方が正しいか。

髪の毛を染めて、あちこちにピアスを開け、毎日喧嘩に明け暮れた。

元来体がデカかったこともあり、俺は暴力では負けなかった。

かすり傷は日に日に増えていったが。

母親はどこか諦めたような寂しい笑みを浮かべて来る日も来る日も俺の傷を治療していた。

飢餓状態にあるかのように夢中で喧嘩をしていたことから「餓狼」なんてあだ名もついた。

結局、イキがっておきながら酒もタバコも怖くてできなかった自分のダサさを痛感したことと、母親が「私のせいで蒼介が」と影で泣いているところを見たことで不良はやめた。

不良になったのは母さんのせいじゃねーのにな。

いや、待て。もう一つ、無意識に覚えているものがある。

電灯が照らす道で、怯えたような少女の姿。

その時の、俺を魅了するあの瞳———


「うすけ!おい、蒼介!」

はっと気づく。

俺の机の周りには、順平、浩太郎、そして祐一。

「お前なんか今日変だぞ。」

「あー、ちょっとな。考え事してた。」

「いや、考え事だとしても没頭しすぎでしょ。

なにかあるならなんでも話しなよ。」

「そうだよ蒼介。僕たちなんでも力になるからさ。」

「いや、ほんとなんでもないんだよ。

ただちょっと深く考えただけだから。」

「そっか。

なにか話したくなったらいつでも言ってよ。」

「そうだぜ蒼介。

やっぱお前は考えるより騒ぐ方があってるしよ!」

「祐一はもっと考えた方がいいけどね。」

「「「ハハハッ」」」


過去のことは誰にも話していない。

もちろんこの3人にもだ。

知っているのは母さんと、不良時代の奴らだけ。

どこまで話せばいいのかわからないし、それに話して、その後何を言われるのかもわからない。

もし、俺が不良だったことを知ってあいつらが離れていってしまったら。

そう考えると、俺は踏み出すことができない。

そして、俺たち4人組の中で、俺だけが後ろめたいものを抱えている。

そんな感覚はいつも俺を縛り付ける。

一般人という体裁を整えた今の俺は、過去の奴隷なのかもしれない。


「お疲れ様です。」

「こんにちは山井くん。

今日はバイトは君1人だから、お客さんが来たら少し忙しくなるかもしれないけど頑張っておくれよ。」

「了解しました。」

今日はバイト1人か。

とはいえ、この店は客で埋まるようなことはあまりないから1人でも負担にはならないだろう。

榊原先輩の快活な声が聞こえないのは少し寂しい気もするけれど。

チリンチリンと鐘がなる。

お客さんが来たようだ。

「いらっしゃいませ。

何名様でいらっしゃいますか?」

「1人です。

って、あれ?蒼介くん?」

「えっ」

驚いて見上げると、そこには今朝の少女が大きく目を見開いて佇んでいた。

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