蒼い軌跡
「ここでは背理法を使って答えを導くのであるからして、√3を有利数と…」
俺の通う私立襄陽学園高等学校では、いつもの通りの退屈な授業が行われている。
俺は窓の外を見ながら聞き流す。
慣れてきた毎日の光景に、思わずため息をつく。
授業が終わったら飯を食って…その次は何の授業だ?
今日の学食の日替わりメニューを思い出しながら、そんなことを考える。
入学をして一ヶ月、この平和な日常には徐々に俺の生活の一部に溶け込んでいる。
そんな感覚はどうにも気持ちがいい。
「蒼介、今日もサッカー、するんでしょ?」
「蒼介、今日は俺と1on1。キーパーは祐一で」
「え、俺キーパーかよ…」
俺、山井蒼介とこの3人、後藤順平、吉野浩太郎、牧田祐一は入学してからよくつるむようになった。
俺は体躯や見た目からか怖がられることも少なくないのだが、3人は初対面から俺をすんなりと受け入れてくれた。
朝は挨拶から始まり、昼は一緒に飯を食って遊び、最後に一緒に帰る。
俺はこの4人の中に俺の居場所を感じている。
惜しむらくは、ここが男子校ということだろうか。
「おい蒼介、帰るぞ一緒に」
「あ、わり。
今日俺バイトあんだよ。」
「マジかよー。
お前もこの時期からバイトかぁ。
俺も探さないとなぁ。」
「いや、祐一には無理だと思うよ。
バイトって面接あるんだよ?」
「そもそも履歴書すらまともに書けないでしょ。」
「お前らぁ!」
3人と別れて俺はバイト先へ向かう。
古風な感じの漂う喫茶店で、初見で俺が思ったよりは繁盛しているらしい。
「山井くん、こんにちは。
着替えたら会計をお願いするよ。」
「はい。わかりました。」
この初老の男性が店長だ。
初バイトで緊張もあったが、この人はずいぶん俺に良くしてくれている。
「あ、蒼ちゃん!聞いてよ〜うちの男子がさぁ〜」
「仕事してください。」
榊原藍先輩。
茶髪を下ろした美人で、気さくな性格をしている高校2年生。
しかし仕事中にかまってくるのは勘弁してほしい。
ほら、今だってお客さんが困惑してるだろ。
いい人ではあるのだが。
コーヒーとケーキの匂いが混じり合ったこの雰囲気は、俺を落ち着かせてくれる。
この時間がゆったりと流れていく感じが俺は好きだ。
騒がしい学校と、落ち着いた喫茶店。
この正反対のような、それでいて俺に落ち着きを与えてくれる場所。
中学の時には見えていなかった、新しい風景。
前とは違う、安心感。
そして、それとはまた違った、ずっと変わらない場所。
家では母が料理を準備して待ってくれている。
無邪気に遊んだ小学生の時、少しグレた中学時代、そして今。
ずっと変わらないものもまた、俺の中の一部として存在感を放ち続ける。




