【超超短編小説】深海魚の群れ
朝
川沿いにあるバラック小屋造りの居酒屋から見える違法中空テレビはノイズ混じりのニュースを映している。
AIキャスターが言うには月の裏側にある第三帝国の遺構から奈良時代の銅剣が突き立ててあるのが見つかったとかで、明け方の店内は地球内空洞説にも俄かに真実味が帯びてきたと騒ぐ労働者たちで盛り上がるのを俺は他人事みたいに見ていた。
全てが他人事だった。
労働も生活も人生も他人事だった。
二十歳の頃に西側連邦政府によって代執行されたセックスはまるで現実味が無かった。
VRゴーグルの中で笑う褐色の肌をした女子高生の白い唇からはいずれ真言でも出てくるのでは無いかと待っていたが、結局そんな事は無く解脱はできなかった。
誰にも気付かれずにバラック小屋を出ると、人に隠れた性欲を斬るジャスティス男と言う不名誉なレッテルが剥がれ切らないまま、朝帰りのギャルサーに巻き込まれた。
ギャルサーに入るにはギャル文化との和解が必要だったが、俺は付け爪に馴染めずパージされてしまった。
俺はギャルの織りなす早い会話によって寸断されるとバラバラ遺体となって排水溝に流れ落ちていった。
仕方がない。
モンゴリアンデスワームの棲む街では日常茶飯事だ。
その頃、バラック小屋の中では誰かが咽せて噴飯した机の上にある米粒が、誰にも気付かれない涙を流した。
昼
冷凍と解凍を繰り返してスカスカになった半額の刺身を漬け込む。
陳列罪の刑期を勤め終えた赤い肉と、それに向かって伸ばす私の手は疲労の色濃く、黄色から黄土色へと変化していく。
買った方が早い。買った方が美味しい。
手間をかける時間を金と等価交換して得た味を飲み込む。
曖昧になっていく歴史とか文明文化、それは大袈裟で曖昧になるのは私の存在そのもの。
技術が消して行く手首の線について考えながら溶かしたローションを洗い流す。
アラームが鳴り、男に終わりを告げる。
金が払われる。
それで終わり。
関係性の構築、告白と言う確認、維持をする為のセックス。
それら全てをスキップする金は取り半。
それら全てをスキップする愛は虚無。
疲労だけが排水口に詰まって私を見ている。
夜
この世界に本当の眠りや完全な眠りなど無く、胃袋に物を詰めたり血糖値を尖らせたり酒や薬で攪拌しながら偽物の眠りを積み重ねていくしかない。
柔らかい乳房に顔を埋めると髪の毛が刺さる。
遠くに血の匂いを感じる。
つまり終わりだ。繁殖に直結しない関係性を保つことは出来ない。
「さようなら」
今日のそれは垂直に遠ざかる錯覚だった。
ふり返る女の真夜中は別の顔で、たぶん僕の顔も変わっているだろう。
自分の寝顔は自分で見られないように、それを知ることは出来ない。
知識と想像があれば鏡も要らない。
真夜中の顔は夢で成される妄想。
深夜
わたしの眠りが代行される事は無い。
それは起きるまでは死と大差無いと言うことで、屋上に出て夜風を数えながら夜空の星をかき混ぜる。
そうやってマンションとか民家の窓に散らばったそれを集めてみたけど、何にもならなかった。
だから飛ぶの、低い燕になって八の字に。




