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進路

フローライト第九十三話。

美園のデビューの準備があれよあれよという間に進み、大きく雑誌に取り上げられ更にテレビでも取り上げられた。学校では大勢の人が美園を見に来たり、話しかけられたりで慌ただしくなった。


その日の帰りも学校の玄関で朔と待ち合わせしていたのに、数人の男子に呼び止められているうちに朔が先に出て行ってしまった。


「朔!!」と美園は慌てて後を追いかけた。


朔が振り向きもせずにずんずん歩いていくので、美園は少し頭にきた。


「朔!!」と横に並んで腕をつかんだ。


それでも朔が無視しているので「ちょっと!何で先に行っちゃうの?」と美園は咎めるように言った。


「・・・・・・」


「朔?」


「美園の邪魔になると思って」


「は?」と美園は朔の前に立った。朔が立ち止まり美園の顔を見る。


「邪魔って何よ?」


「俺みたいなのが美園といたら邪魔だから・・・」と朔が美園から目をそらして歩き出そうとした朔の腕をまたつかんだ。


「邪魔っていう考え捨てて!」


美園が大声で言ったので周りの下校途中の生徒もこちらを見た。朔がそれを気にするように周りを見ている。


「あなたは対象じゃないの!主役なんだよ?」


美園の言葉に朔が「えっ?」と驚いた顔で美園の顔を見た。


「誰かのために邪魔だとか必要だとか、そんなのないんだよ。朔は朔だけで完璧なの」


朔が驚いた顔のまま呆けたように美園の顔を見つめている。その腕に自分の腕を絡めて美園は歩き出した。


「美園?」と朔がまだ周りを気にするようなそぶりをした。


「朔、朔の世界の主役は朔なんだよ。朔は私の邪魔になりたい?」


「なりたくないよ・・・」


「でしょ?じゃあ、その邪魔になるって考え今すぐ捨てなさい」と美園は言った。


「う、うん・・・」と朔が戸惑った様子のまま言った。


「よし。じゃあ、このままうちおいで」


「えっ?でも・・・美園は忙しいでしょ?」


「今日は何もないよ」


「そうなの?」


「うん」


電車に乗っている間も美園はチラチラとみられた。朔が少しずつ美園から離れようとしたので、美園はがっしりと朔の腕をつかんだままでいた。


自宅マンションに向かって歩いている時も、朔はトボトボと美園の後ろから歩いてくる。どうやらすっかり気後れしている様子の朔に美園はため息が出た。立ち止まり朔が追いつくのを美園は待ってから言った。


「あのね、うちは代々ていうの?利成さんから始まって奏空も芸能会に行っちゃったし、一時期私もテレビ局に行ったり、うちにテレビ関係の人が来たり、そういうことが日常茶飯事だったから言えるのかもしれないけど、テレビに出ようが、人にキャーキャー言われようが、まったく自分には関係ないことなんだって言い切れるわけ」


「関係ない?」と朔が解せない顔をした。


「そう。関係ない。言ったでしょ?朔の世界の主役は朔なんだよ。それと同じようにすべての人がそれぞれの世界の主役なの。だからその世界から私を見ているだけ。自分勝手に思い描いた自分の世界をみんな見てるだけなの」


「・・・・・・」


「つまり私本人とはまったく関係ないところでみんな騒いでるのよ」


「じゃあ、俺も?」


「そう。朔も、自分の自己世界観の中で”邪魔になる俺”なんてドラマを作り上げて、その世界観に酔ってるの!」


「・・・・・・」


「朔は本質を知ってるんだから、幻に惑わされないで」


「幻?」


「そう、朔の前にいる私、この事実以外は全部幻」


「・・・・・・」


「わかった?私は朔といたいの」


「・・・うん・・・」と朔がようやく嬉しそうな顔をした。


 


自宅マンションに着くと咲良が「おかえり」と言ってから「あら、朔君。久しぶり。元気だった?」と言った。


「はい・・・」と朔が頭を下げる。


美園はその間にキッチンに行って冷蔵庫からペットボトルのサイダーを二つ持った。


「行こう」と朔に言うと咲良が「ごゆっくり」と言った。咲良も朔が気に入っているようで、最近は何も言わなくなった。


部屋に入ってベッドの上に座ると朔にサイダーを「はい」と渡した。


「ありがとう」と朔が受け取り床に座った。


「鞄、おろしたら?」


通学用のリュックを背負ったままの朔に言う。朔は「うん」とペットボトルを床に置いてから鞄をおろした。


美園はペットボトルに口をつけながらわざと足を組み替えた。朔が気がついてからうつむく。前ならすぐにそばに来て触って来たのにそれもなかった。


(やれやれ・・・)


美園は朔に「ここきて」と自分の隣のスペースを手でポンと叩いた。朔が立ち上がって美園の隣に座ると、美園は朔の膝の上に自分の足をのせた。朔が驚いた顔をして美園を見ている。


「何も変わらないんだよ。私は」


「・・・・・・」


「絵、描いてる?」


「・・・うん・・・」


「どのくらいでできる?」


「一つはもう出来てる」


「そうなんだ。じゃあ、持ってきてよ」


「うん・・・」


美園が足を引っ込めようとしたら朔がその足をつかんだ。


「触りたい?」と美園は朔の顔を見つめた。朔も見つめ返してくる。朔が黙っているので美園はつかまれている足を引っ込めようとした。すると朔が美園を押し倒してきた。


「わっ、ちょっと、こぼれる」と手に持っていたペットボトルを上に上げた。そのペットボトルを朔が受け取ってサイドテーブルの上に置いた。


「ねえ、二人でやるのは何にする?」と美園は上から見下ろしてくる朔に言った。


「わからないよ・・・」


「んー・・・何がいいかな・・・」と美園が考えていると、朔が口づけてきた。


舐めるようにまたしつこく口づけてくる。それから美園のスカートをめくり上げて太ももを両手で撫で上げてきた。


「美園」と名前を呼ばれながらする朔とのセックスは久しぶりだった。美園が表に出れば出るほど、朔が暗いところに引っ込んでしまう。その中はきっと何も見えない世界だ。だから美園は朔を呼び止めるように「朔・・・」と名前を呼んだ。


朔・・・どうか迷わないで・・・・・・。


 


夏休みの間にテレビ出演の話が来た。しかも奏空のグループと一緒だ。


「何で一緒の日なの?」と話が来たときにマネージャーさんに聞くと「まあ、仕方ないね」と言う。


わざとそうしているのはわかっていたが、奏空のグループには晴翔もいる。何となく会うのが億劫だった。


朔に「テレビに出るから」と言うと「ほんとに?」と驚いていた。出る日時と番組名を教えると「絶対見るね」と言う朔。


奏空にあまりテレビ番組に出たくないと言うと「まあ、仕方ないね」とマネージャーさんとまったく同じことを言われた。咲良は「何言ってるの?出たくても出れない人もいっぱいいるんだから」と普通のことをいつものごとく言っていた。


当日、早速テレビ局の廊下でばったりと晴翔に会った。


「美園ちゃん、ひさしぶり」と言われる。


「うん、久しぶり」


「すごいね、最近」


「すごくはないよ」


「すごいって。今日はよろしくね」


「うん、よろしくお願いします」と美園は頭を下げた。


出番は中盤頃。その後に奏空のグループ○○〇が続く。


本番が始まってさすがに少し緊張した。自分の出番の時に奏空のグループも一緒に並んで出て来た。


「天城美園ちゃんです」と司会者に紹介される。


「よろしくお願いします」と美園は頭を下げた。


「美園ちゃんは何と奏空君のお嬢さんなんだよね」と男性司会者が奏空に隣に来るように言う。


美園が歌う前に奏空がいつもの調子で「頑張って」と言った。


緊張していたが歌いだしたらそれをすぐに忘れた。歌の世界に入れば観客も自分も関係ない。ただそれがあるだけだ。


拍手の後すぐに奏空のグループが歌いだす。美園は席に戻ってそれを見つめた。


(晴翔さん・・・彼女とどうなったんだろう・・・)


そんなことを思いつつも、以前より晴翔に対して思いがない自分に気がついた。あんなに好きだったのに何故なんだろう・・・。


(あ、ヤバイ・・・)と急に美園は思った。


(私って朔が好きなんじゃ?)


今更だけどそんなことを自覚する。


番組が終って奏空が話しかけてきた。


「美園、もう帰るよね?」


「帰るよ」


「三十分くらい待っててよ。そしたら俺も帰れるから。一緒に帰ろ」


「わかった」


メイク室に入ったが特に着替えの必要もない。アイドルじゃないので衣装と言っても普段着と変わらなかった。スマホを取りだして楽屋の角に座った。


<何してる?>と朔にラインを送った。


<テレビ見たよ。すごかったよ>とすぐに返事がきた。


<すごくないから。明日は会える?>


<会えるけど>


<けどとは?>


<進路のことで少し今揉めてるんだ>


<朔の進路?>


<うん>


<そうなんだ。じゃあ、その話も聞かせてよ。それと来れるならできあがった絵も持ってきてよ>


<わかった>


 


「お待たせ」と三十分をとうに過ぎてから奏空が顔を出す。奏空の車に乗り込んむと、美園は欠伸をした。


「どうだった?テレビ」


「テレビは面倒」


「アハハ・・・何で?」


「時間で区切られてるし・・・やることこなさなきゃならないし・・・気を使うし・・・」


「気を使うの?」


「うん、使うよ。何となく」


「そうか・・・。そういえば朔君どうしてる?」


「朔?朔は何か私に気を使ってるよ」


「どんな風に?」


「自分が邪魔になるかもって・・・そんなしょうもないこと言ってきたよ」


「そっか・・・」


「朔はせっかくいいところにいるのに、固く目を閉じて見ないようにしてるみたいでじれったい」


「そうだね・・・」


「何かいい方法ないかな・・・」


美園は車の窓から流れていく街の明かりを見つめた。


「一緒に何かやるんでしょ?それすすめたら?」


「うん・・・そうだね」


「美園の腕の見せ所じゃない?」


「私の腕?」


「そう。俺は全体的に光を送ってるけど、美園は朔君を目覚めさせる役目かもよ」


「・・・んー・・・そうかな?」


「やってみればわかることだよ」


 


そんな奏空の言葉が何となく残った。次の日の午後、朔が美園のうちにきた。咲良は明希の店が〇周年記念だとかで特別セールをするらしく、その手伝いに出かけていた。


「誰もいないからリビングで話そう」と美園は言った。


「うん・・・」と朔が後ろからついてくる。


「じゃあさ、まず・・・話し合いの前に、朔が今揉めてるという内容は?」


「・・・自衛隊に行けって・・・」


「は?自衛隊?」


「うん・・・父親が・・・」


「それで?」


「行かないって言った」


「そしたら行かないで何やれる?お前には何もやれることなどないだろって・・・」


「ひどい。言い返した?」


「うん・・・そしたら・・・」


「そしたら?」


「殴られて・・・母親が泣いて・・・」


(あー・・・)


「修羅場ってわけね」


「うん・・・」


「朔は絵が描けるじゃない?そのこと言った?」


「言ってないけど・・・お前のわけわかんない絵で食べてけるわけないだろって・・・」


「あーサイアク・・・」


「うん・・・」


朔が目の前のグラスに入ったサイダーをじっと見つめている。


「食べて行けるかを指針にするからおかしなことになるのよ」


美園はグラスの中のサイダーを飲んだ。


「でも、食べていくために働くんでしょ?」


「”働く”って個人的なことじゃないんだよ。それぞれ役目があるから。でも”食べてくため”だけに必死で働くのはそもそもずれてる話なんだよ」


「どういうこと?」


「んー・・・仕事って全体的なことだと思わない?例えばお店に行っても商品がなければ何も買えない、商品を売る人や店の管理をする人、商品を運んでくれる人、更に言うならその商品を作るための工場や農家やそんな人、そんな連係プレイなわけよ」


「うん・・・」


「この世界に生まれて基本的に人間は何か食べていかなきゃ生きられない仕様になってるなら、まず”食べる”ことは普通に当り前のことで、何かの報酬で得るようなことじゃないってわかる?」


「・・・うん・・・」


「権利だとかそんな大袈裟なことじゃない。普通に食べ物はあるのよ。それを大気汚染だ、温暖化だ、挙句の果ては戦争?わざわざそんなことで狭めて食べれない環境にしてるんだよね」


「・・・・・・」


「食べることに対しての心配がなくなれば、やっと人は普通に悩み始めるの。食べてけない状況ではそのことをまず確保しなきゃならないから、悩み何て吹っ飛んじゃうわけ」


「うん・・・」


「”働く”=”仕事”=自分のステータスだと思ってるから、いつまでも争い続けるんだよ。大きな声では言えないけど、そんな社会の歯車から”一抜けた”って言う人が今後増えてくる」


「・・・・・・」


「朔は抜けたくない?」


「・・・よくわからない・・・」


「そうか~・・・難しいもんね」


「うん・・・」


「ていうか、朔はもう始めから抜けてるんだよ。後はそれに気づくだけ」


「・・・・・・」


「まあ、自衛隊なんて無茶振りする朔のお父さんは論外だわ」


「・・・でも、進路は考えないと・・・」


「大学は?」


「お前にはもう学校に行く金は出さないって・・・」


「じゃあ、働く?」


「ん・・・」


「行きたいところかやりたいことあるの?」


「・・・コンピューターグラフィックス・・・」


「あーCG?」


「うん・・・それを少し勉強してみたいけど・・・」


「それ言った?」


「言ってない・・・」


「言ったらいいよ」


「無理だよ・・・もう学校には行かせないって、早く家を出て行けって・・・」


「あー頑固おやじってやつだね」


「・・・仕方ないんだ・・・俺、絵を描く以外はまったくダメで・・・」


「でも普通に高校に入って通ってるよね?」


「勉強も数学以外はぎりぎりで・・・」


「数学できれば十分じゃん」


「・・・・・・」


「オッケー、じゃあ、朔は今度お父さんにCG勉強したいって言うこと。何か言われたら私に言うこと」


「美園に?」


「そう。私が説得してあげるよ」


「お父さんを?」


「そう」


「それは無理だよ」


「何でよ?」


「美園のお父さんとはまるで違う・・・」


「そうだね、だから?」


「だから無理・・・」


「無理じゃないよ」


「無理だよ」


「無理じゃないって」


「無理なんだって!!」と朔が声を荒げた。朔がそんな風に声を荒げたことは初めてだったので、美園は少し驚いて口をつぐんだ。


「美園のうちとはまるっきり違うんだ!だから無理なんだ!全部!!」


そう言って急に朔が立ち上がってドアの方に行こうとしたので、美園は焦って朔を止めた。


「朔!ごめん!そうだね、もう一回話そう?」


朔が立ち止まった。


「私が悪かった。朔の気持ち考えないで・・・」


「・・・・・・」


「もう一回話そう?」


朔が黙ってソファに戻って来たので、美園はホッとして座った。


「・・・先にユーチューブで何するか考えようか?」


「・・・うん・・・でも・・・」


「でも?」


「先にしたい・・・」


「あー・・・そう?」


「うん・・・」


「じゃあ、ここはまずいから私の部屋でしよう」


「うん・・・」と朔がやっと顔を上げた。


 


美園の部屋に入ると、美園は先に服を脱いだ。ここは手っ取り早くやろうと思ったのだ。朔の性欲は強めだ。普段からかなり大変らしい。


下着も取ってベッドに入ると、すごい勢いで朔が上に乗ってキスをしてきた。全身を唾液でべたべたにされる。特に足に対してはしつこい。それからしばらくは反応した下半身を太もも辺りに押し付けられる。どうやらそれは朔の儀式らしい。必ずそうしてからでないと入れない。


入れてから「美園・・・」と名前を呼ぶのもどうやら儀式らしい。


「美園がイクにはどうしたらいい?」と聞いてくる。


「・・・そんなの気にしないで・・・いいよ」


「イって欲しい・・・」と朔が身体を動かす。


「あっ・・・いいから・・・」


しばらく朔は美園に絶頂感を感じさせようと頑張っているようだったが、「あ、もうダメだ・・・」とそのまま果てる。


後始末を終えてからも、美園はなかなか起き上がれなかった。朔も隣で横になっている。


(あー何か激しかったな・・・)


何だかだんだん激しくなっていくような・・・。


少し経ってようやく「シャワー浴びてくる」と美園は起き上がった。


朔もシャワーを浴びて、ようやく落ち着いた顔を見せた。すっかり薄暗くなったリビングの電気をつける。


「朔は歌ダメなの?」


パソコンを開きながら美園は言った。


「ダメだよ」


「歌ってみて」


「やだ」


「楽器は?」


「できない」


「んー・・・」と美園は首を傾げて考えた。


(朔の顔出し・・・二人で何かをやる・・・)


利成の条件を考えてみる。歌ダメ、楽器ダメ、アニメーションだと顔でない・・・。


(何やれば?利成さんはどういう意味で言ったんだろう・・・)


朔がソファに横になってパソコンを見ている。


「朔も少し考えて」


「ん・・・」


「利成さんの意図を」


「天城さんの意図?」


「そうだよ。利成さんはただ一緒にやれって言ったんじゃないんだよ。何か意図がある」


「意図・・・」


「ややこしい人なんだから」


マウスを動かしながら美園は言った。


朔が美園の背中に指で何かを描き始めた。


「ちょっと、くすぐったい」


美園が言っても朔はやめずに描き続けている。そのうち首の辺りに口づけてきた。


「朔、真面目に考えて」


「ん・・・」と後ろから抱きしめてきた。放っておくと今度は耳を舐めてくる。


(犬みたい・・)


美園は朔の舌がペロペロと美園の耳を舐めるので、そう思って少し可笑しかった。


更に放っておくと、朔の手が太ももに伸びてきたので「ストップ」とその手をつかんだ。


「足はダメ。また朔がやりたくなるでしょ?」


「・・・・・・」


朔が不満そうな顔をしてから言う。


「またしたい・・・」


「ダメ・・・」


「・・・・・・」


「もう咲良が帰って来る」


そう言っていたらほんとに咲良が帰ってきた。リビングにいる二人を見て「あら、朔君、こんにちは・・・あ、こんばんはか」と言った。


朔が「こんばんは」と頭を下げている。


「ご飯食べてくでしょ」と咲良は機嫌がいい。


「え・・・その・・・」と朔が戸惑っている。


「遠慮しないで。今日は奏空も早いって言ってたから」


「食べて行きなよ」と美園も言った。


朔が「うん・・・」と美園の方を見て頷いた。


ご飯が出来上がった頃、奏空が帰宅した。朔の姿を見て「こんばんは」と笑顔を見せる。それから「美園~ただいま」といつものように奏空が美園に抱きついてきたのを見て、朔が驚いた顔をした。


「奏空はいつまでも子供なのよ」と美園は朔に言った。


奏空がその言葉にはまったく動じず、今度は咲良のところに行って抱きついて「ただいま」と言っている。朔がじっと見ているのを見て美園は「奏空はいつまでも咲良に片思いなんだよ」と言った。


「え?」と朔が驚いて奏空と咲良の方を見た。


「美園、また余計なこというんじゃない」と咲良が言ってくる。


美園はこっそり朔に向かって舌を出して肩をすくめた。


 


四人で食卓を囲むと咲良が「何か朔君も、もううちの家族みたいだね」と言った。


「そうだね」と奏空もご飯を口に入れながら同意している。


「男の子いたらこんな感じだったんだね」と咲良が朔の方を笑顔で見た。朔は恥ずかしそうに下を向く。


「美園、こないだの○○〇(テレビ番組名)評判良かったみたいだよ。めちゃ視聴率も良かったって」と奏空が言ってきた。


「ふうん・・・」


「何、その感心なさそうな言い方は」と咲良が言う。


「だって感心ないからね」


「あんたってどんだけ偉いわけ?」と咲良が咎めるように言う。


「まあ、少なくとも咲良よりは偉いね」とすまして言うと、咲良が拳を作り殴る真似をした。すると急に朔が吹き出した。そして「アハハ・・・」と笑い出す。皆が一瞬きょとんとして朔を見つめたが、朔がご飯をこぼしていたのに気が付いて美園は言った。


「ちょっと、こぼれてるよ」


それでも朔が「アハハ・・・」と笑い続けてるので、「何?何かツボった?」と咲良が言った。


その咲良の言葉が面白かったのか、朔がまた吹き出す。


「だから汚いって」と美園がティッシュペーパーを朔に渡した。


「美園と咲良の漫才が面白かったんだよ」と奏空が楽しそうに言った。


「漫才?」と咲良が奏空を一瞬睨みつける。


すると朔がまた笑いだした。それにつられて何となく美園も笑ってしまった。


 


食事が澄んだ後、咲良が「泊まっていきなよ」と朔に言った。朔が戸惑った顔をすると「どうせ夏休みでしょ?」と咲良が続ける。


「私、明日は午後からだから朝はゆっくりできるよ」と美園が言うと、「じゃあ・・・」と朔がうなずいた。


「美園のうちは楽しいね」と部屋に行くと朔が言った。


「そう?」


「うん、咲良さんも楽しいし」


「あー咲良はこの家で一番おバカさんだからね」


「そんなことないよ」と朔が言う。どうやら朔は咲良が気に入ったらしい。


「それよりさぁ・・・何やる?結局決めてないじゃない」


「そうだね・・・」


「朔はCGの他に興味あることない?」


「んー・・・」


「あっ!」と急に美園は叫んだ。朔が驚いて美園の方を見る。


「アニメーションは顔でないけど、演技なら出れる・・・」


「演技?」


「そう。MVだよ」


「・・・・・・」


「昔、奏空のグループの○○〇のMVに咲良が出たんだよ。それが縁で結婚まで行ったんだけどね」


「何やるの?」


「イメージビデオ。それに朔が出演するんだよ」


「イメージビデオ?」


「そう。それなら歌えなくてもいいし、演技って言ってもセリフがあるわけじゃないし・・・」


「セリフはないの?」


「MVだから、歌が流れてるだけ。それに合ってる動画を作るだけだから」


「・・・・・・」


「そうかぁ・・・それで行こう」


「でも・・・」


「問題は歌か・・・。次の新曲?んー・・・どっちにしても事務所の許可がいるか・・・そこが面倒だな・・・」


「・・・・・・」


「やーとりあえず決まって良かった。寝よ」


美園がベッドに入ると、朔も隣に入って来た。二人で仰向けになって手をつないだ。


「朔、朔は素敵なんだからそこのところ忘れないでよ」


美園が言うと朔が「素敵じゃない、素敵なのは美園だよ」と言った。


「じゃあ、それ間違ってるから今日から改めること。朔は素敵だよ」と美園が朔の方を見た。


「俺・・・ビデオ・・・やだな・・・」


「何で?」


「あんま自分の顔とか好きじゃない・・・」


「んー・・・何で?」


「・・・美園は綺麗だからいいけど・・・」


「そう?朔は自分が汚いって思う?」


「汚いっていうか・・・不細工・・・」


「そうなんだ。じゃあ、それも改めだね」


「・・・・・・」


「この世界、人の頭の中の”考え”でできてるんだよ。だから簡単、その”考え”を改めればいいだけ」


朔が美園の方を見た。


「そうかな・・・」


「そうだよ」


「・・・ん・・・」と朔が美園を抱きしめてきた。それから口づけてくる。


「美園・・・有名になっても一緒にいてくれる?」


唇を離すと朔が言った。


「有名か・・・私は変わらないよ。朔と一緒にいるから」


そう言うと朔が嬉しそうに頬に口づけてきてから唇を舐めてきた。


「ちょっと、犬じゃないんだからさ」と美園は笑った。


「・・・ずっと一緒にいて・・・」と言ってから朔が美園の耳も舐めてくる。


「うん・・・オッケー」と美園は目を閉じて朔の背中に手を回した。


── ずっと一緒にいよう・・・・・・。


美園は朔を抱きしめて眠りに入っていった。


 

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