推し登場!
ええ、ええ。そりゃあもう!
騎士! 騎士ですよ!
年のころなら20代後半。高い身長、広い肩幅、長い脚。きっちり着込んだ騎士服。腰に下げたサーベル。青みがかった黒い短髪。
そしてなにより、切れ長の目! 切れ長! 何を隠そう、わたしは切れ長の目に滅法弱い。歴代のカレシも、好きな芸能人もみんな切れ長。
その切れ長からのぞくのは、あざやかなブルーの瞳。くうーっ。やばい、たまらん。
背筋を伸ばしてピシッと立つ姿は、絵にかいたような騎士です。騎士の見本がここに!
クマさん、浮気をゆるして。
「王国軍、第一部隊大隊長のレジ―=D=コンラート卿です」
レジ―=D? Dですと? Dの一族!
すごい! 最強! しかもなんか肩書が偉そう!
そしてダダ洩れる、頼れるアニキ感! 少々のワイルド感。若造どもならひと睨みでだまらせそう。魔法少女もいただき女子も、この人には逆らわないだろう、という安心感。
いやあ、よかった。わたしひとりじゃ、このびっくり人間たちをまとめきれなかったよ。
「お初にお目にかかります。フレイザー王国王国軍、第一部隊大隊長レジ―=D=コンラートです」
まあ、声も凛々しい艶のあるバリトン。
「ブライアン殿下、聖女さまはじめ討伐隊御一行の護衛を務めます。お見知りおきを」
護衛というより引率を務めてください。
「はい、よろしくおねがいしますね」
ふと見れば、いただき女子は目をまん丸くしてガン見しているし、魔法少女は表情は変わらないものの、耳が赤くなっている。
そうかそうか、若造も大人の色気に参ったか。おとなしく彼の言うことを聞いてくれると助かるよ。
「さて、これからの予定ですが」
女子たちから、もわんと立ち上るさまざまな思惑を吹きとばすように宰相が言った。
「出発は一週間後」
はや。
「それまでに、各種の知識と訓練を積んでいただきます。国境の大河までは王国軍の一大隊が護衛につきますが、その後は6人の旅になります。しかも大河から向こうは未開の地。宿などもありませんから、野営になります」
えー、アウトドアなの? キャンプ?
「マリア嬢が、収納魔法で大方の荷物をしまってくれます」
収納魔法? 4次元ポケット?
「食料も水もじゅうぶん持っていけますし、魔法で火も起こせますから野営に不便はないでしょうが、知識は必要でしょう。地理や未開の地に住む部族のことも知っておいた方がいい。それから護身術。乗馬」
なるほどね。ダンジョンもあるんでしょうかね。
「まあ、野営についてはジャックがくわしいですから不安はありませんよ」
頼りになるクマさん。目が合ったので、にっこり笑っておいた。
「特にアリーさまは、こちらの世界についてはなにもご存じない状態ですから、ちょっとがんばっていただきますよ」
「えー、行くって言ってませんけど。わたし」
「いやいやいや」
ボヘミアンズはいまさらか。みたいな顔してますけど、だってそうでしょ。
「いきなり拉致されて危ないところに行けって言われても、そんな義理ありませんからね」
「拉致って……」
「強制的に連れてきたんだから拉致ですよ」
うーん。とボヘミアンズは頭を抱えてしまった。
帰る当てのないこっちが抱えたいんですがね。絶対に引きませんよ!
「まあまあ、その辺はおいおいに。そろそろ晩餐ですね」
ごまかしたな。なんだ、おいおいにって。
「アリーさまもお疲れでしょう。晩餐までお部屋でお休みください。晩餐の準備は侍女たちに言いつけてありますから、ご安心を」
晩餐の準備ってなんだ?
でも一休みと聞いて、そういえば疲れたなと思った。わけわかんないことの連続で、パニック状態。
ちょっと落ち着いて考えられるのはありがたい。
と、思ったのに。
ゴージャスな部屋(王宮の客室らしいが)へ通されたとたん、侍女のみなさんが「さあさあ、支度をしましょう」とわたしの服を脱がせにかかった。
「え? え? なにすんの?」
かばんも取り上げられて、あせるわたし。
「晩餐のためのお着換えですよ」
晩餐って夕食だよね。着替えるの? わざわざ? 気合の入った合コンみたいですね。
「わ、わたしはこれでいいですぅ」
「いけません。国王陛下も王妃さまも、王太子殿下もいらっしゃるんですから。正装じゃないと」
えー。それって、テレビで見る宮中晩餐会みたいなやつですか。やだなー。そんな正式な晩餐会なんて出たことないし。
マナーも知りませんが。
えー? えー? と言っている間に、侍女のみなさんはちゃっちゃと服を脱がせ、新婦みたいなドレスを着せた。仕事が早い。できる侍女。
ウェストがきゅっとしまって、ふんわりとふくらんだスカート。デコルテがぐいっと出たノースリーブ。ネックレスとか付けられて。
はあー、はじめて着ましたよ。苦しいものですな。こんなに苦しいのは成人式の振袖以来ですよ。どっちもきれいではあるけども。
髪もそれなりに飾りをつけて、メイクもし直して。
一休みはどこですか。