勇者パーティ2
笑い出したときと同じように、わたしは唐突に笑いを止めた。
すんっと無表情のお面をかぶる。
「聖女さま」
おそるおそる宰相が声をかけた。
「はい」
「だいじょうぶですか」
「はい、だいじょうぶです。取り乱しました」
ちょっと、ボヘミアンズが気の毒そうな顔をしたが。
「続けてもよろしいですか」
「どうぞ」
困った顔の王子御一行。
ごめんね。聖女さまは立ち直れないかもしれません。
「えーと、こちらがブライアン殿下。勇者です」
やはり先頭が王子だった。ボヘミアン王子は一歩進みでた。
「フレイザー王国第二王子のブライアンです。お見知りおきを。我ら一同、聖女さまを心より歓迎いたします」
そう言うと、胸に手を当てて頭を下げた。
ボヘミアン王子、次男坊だったか。
えー、なんて返事をすればいいんだろう? わからないから、とりあえず会釈しておいた。
「次に控えますのが、戦士のジャックにございます」
王子と入れ替わりにクマ巨人が一歩進みでた。地響きするんじゃないと思った。
「ジャックです。お見知りおきを」
しゃべるんだ。そういえばパンダもふつうにしゃべってたな。
「ジャックは見てのとおり、クマ獣人です」
獣人っていうのか。クマ獣人。ほかにもいるの? ネコとかイヌとか?
「王国軍の切り込み隊長です。怪力と鋭い爪で向かうところ敵なし。ジャックが先陣を切る戦闘では、負けなしなのですよ」
ほお、怪力ですか。それならばぜひあれを。
「腕にぶらさがってもいいですか?」
クマさんは腕をくいっと曲げた。
「こうですか?」
そうそう、とわたしはクマさんに寄って行って腕に飛びついた。びくともしない。足もぶらぶら。床につかない!
「わー。すごーい!」
クマさんは興に乗ったのか、腕を軽々と上下した。ぐいんぐいんと揺さぶられるわたし。
「きゃー! すごいすごい!」
もう、やけくそ。
5回ばかりぐいんぐいんして、飛び降りた。
「ありがとう。楽しかった」
「喜んでいただけてなによりです」
へへっと笑い合った。ちょっと気持ちが通じた気がする。
ボヘミアンズは少々引き気味だが。
「次が魔法使いのマリア嬢。ラプソディ公爵家のご息女です」
ふっ。ボヘミアンズその4。
「魔法の使い手としては王国随一。火を起こす、水を浄化する、などの生活魔法から、電撃や火炎の攻撃、水や風の防御の戦闘魔法まで、マリア嬢がいれば困ることはそうそうないかと思います」
すごいな、魔法少女。ひとりポケモン。
「心強いですね」
「ありがとうぞんじます。王国のため、勇者さまと聖女さまのお力になれるよう精進いたします」
魔法使いの姫は、鈴を振るような声でそう言うと、スカートをつまんでひざを折った。
まあ、優雅! さすが姫。
「最後が探索者のレイラ嬢です」
ひょこんっと初音ミクが前に出た。姫が優雅にほほえんでいたのに対し、この子はいかにも興味津々といった感じで食い入るようにわたしをガン見している。
「ほらほら、そんなに見つめては聖女さまに失礼だよ」
とうとう宰相に注意された。別にいいけどね。
「ごめんなさあい」
てへぺろ(笑)。
「彼女は少し特殊な環境で育ちまして、礼儀作法は今勉強中なのですが、探索者として超一流です」
ミクはえへっと首をかしげた。特殊な環境ってなんだろな。監禁されて英才教育を受けたとか?
「まあ、この能力ですからね。幼いころに両親を亡くしてから、窃盗団の手先にされていたんですよ。金品がどこにあるかわかりますからね」
いただき女子! アーニャじゃなかった!
「窃盗団が摘発された際に保護しまして、いまは王国軍の斥候として活躍しているのです」
なかなかハードな生い立ちだった。
「活躍しているんですね」
褒められたのがうれしかったのか、ミクは恥ずかしそうに肩をすくめた。
「優秀な者ばかりを集めました。みなブライアン殿下と聖女さまのために誠心誠意努める所存です。きっと討伐の旅はうまくいくでしょう。みな同年代ですし、仲よくできると思いますよ」
え? 封印から討伐になった? 宰相がドヤ顔だが。いや、同年代って。わたしよりも10才くらい年下じゃん。日本人は童顔だっていうけど、いくらなんでも言いすぎじゃない?
それに、これを誰がまとめるんだ? 子どもしかいないじゃん。
わたし、やだよ。ここでもメンターなんて。
「すばらしい人材であるのはわかりました。でも、経験豊富で頼れる大人がほしいです」
「もちろんもちろん。用意してございますよ。コンラートくん、こちらへ」
部屋の中に何人か騎士が立っている。オスカルみたいな服の人たち。護衛なんだろうね。
その中のひとりがつかつかと出て来た。
わあ! イケメンキター!