勇者パーティ1
「半年もあればなんとかなるでしょうし」
「半年?」
「ええ。この世界が瘴気に耐えられるぎりぎりです」
そんなに切羽詰まってたの? ボヘミアンズ、のほほんとしてるからそんなに深刻じゃないと思ったよ。
しかも半年で帰る方法見つかるの? 不安だなぁ。
でもなぁ、ほかに方法があるとも思えないしなぁ。
言いなりになるのははなはだ癪だが、いまのところそれが一番いいような気がする。
っていうか、それしかない。
外に出たところで右も左もわからない。地理なんてぜんぜんわからないし、お金もない。街で人々がどんな生活をしているのかもわからない。
しかも、瘴気の危機が迫っている。そのうち食べ物にも困るようになる。
こんな状況で逃げ出したとしても野垂れ死ぬのが関の山。餓死なんていやだ。もしかしたら半グレ集団につかまって、風俗に売られるかもしれないし、臓器を抜き取られるかもしれない。
考えれば考えるほど絶望的だ。
帰る方法がほかにあるのなら話は別だけれど、どうやらそれもないらしい。
わたしの命はボヘミアンズが握っている。
ヤバ。
少なくとも旅にでたら誰かがいっしょだし、知らないことは教えてもらえるし、それなりの装備も用意してもらえるんだろう。馬を貸してくれるくらいだしね。
言うことを聞いておくのが賢明だな。
瘴気やドラゴンってどれくらい危険なんだろう。馬で半年の旅は、どういうものなんだろう。
長距離移動といったら新幹線か飛行機しか知らないし。そもそもポニーに一回乗っただけのわたしが、馬に乗れるんだろうか。
魔法使いがいるんなら、ルーラとかできないの?
タケコプターとか、どこでもドアとか。びゅんっと行って、ちゃっちゃとやっつけて、びゅんっと帰ってこれないの?
「ではアリーさま、メンバーの紹介でーす」
「ああ、はい」
わたしの心中などおかまいなしに、宰相はまるでバンドのライブのように言った。
宰相が片手をあげると、ウェイターみたいな人がうやうやしく続きの間の扉を開けた。新郎新婦の入場かな?
勇者さまの御一行は一列になって入ってきた。
いやいや。いやいやいや。
ツッコみどころ満載だな。もう、どこからツッコんでいいのかわからないよ。
先頭が王子さま。それはわかる。だって王さまにそっくりだもん。金髪碧眼って王子のテンプレなんだな。
まあまあイケメンだよ。かわいい。ちょっと線が細いけども。若そうだし、17,8? 高校生くらい。
あと5年もすればいい男になるだろう。
その次が……。
クマ? クマかな? 巨体だし。某高専のパンダかな?
わたしの倍ぐらいあるね。わたしも大きい方じゃないけれど。2メートル超えてるんじゃない? ムキムキのマッチョ。プロレスラーみたい。オカダカズチカとか(それしか知らない)。
魔法使いがいるんだから、クマ人間もいるか、なんてね(笑)。
その次がマリーアントワネットみたいな姫。
明るい栗色のふわふわの髪で、瞳はうす紫。華奢。ちょっと力入れたら折れそう。馬なんて乗れます?
旅、だいじょうぶですか。半日で音を上げそうだけど。それともお付きの人が10人くらいついて来るとか。
ジャングルの奥地でもきっちり髪を結ってもらうお姫さま(笑)。
最後がミク(笑)。ミクがいる。
いやほんとに。青緑の長―いツインテール。瞳も青緑。これをミクといわずしてなんという。
ネギはどこですか。
姫っぽくはない。きゅるんとした元気な女の子ってかんじ。コミケにいるんじゃない? こんな子。
あー、王さまがいるから貴族がいるのか。じゃあ、ゆるふわ姫はほんとに貴族の姫で、ミクは庶民の子か。
わかんないなー、身分制度。
江戸時代ならば王さまは「上様」。
ここにも大奥あるのかな。
美味でございますぅーー。なーんてね。
あは。あはは。あはははは。
笑いが込み上げてきた。突然笑い出したわたしに、王さまも宰相も、王子一行もポカンとしていた。
おかしいな。おもいっきり笑っているのに、腹の底が冷えていく。
あはは。あははは。
(笑っている場合じゃないぞ。このまま宙ぶらりんのまま死ぬかもしれないぞ)
腹の底で別人格が冷めた目で言う。
……わかってるよ。
わたしは、今なにかを覚悟しなくちゃいけない。