VSカマキリ
「風刃の舞っ―――!!!」
浮足立つトリさんの背中で、わたしは必死に扇を振り下ろした。2回、3回。よくブライアンに当たらなかったものだ。
いや、うまく避けてたのか。
が、戦闘要員でもないわたしの攻撃など役にも立たない。いや、いちおう一瞬止めるだけはできた。
その隙にジャックがカマキリの首に飛びついたのだ。
「ジャックーーー!」
首だってトゲトゲだ。そこに迷いなく飛びついた。
灰色の毛並みが血に染まっていく。
ジャックはヘッドロックをかます。カマキリは苦しがってのけぞった。
キシャーーーー!
「ジャック! もう放せ!」
ブライアンは一瞬の隙をついて鎌を切り落とした。カマキリ、暴れる暴れる。レジーは体勢を立て直した。
「脚よ! 脚をもげば動けなくなる!」
レイラが叫ぶ。そりゃあそうでしょう。人間だって脚をもがれたら動けなくなる。殺すより残酷じゃない?
ゴキベキボキッ。
嫌な音がした。え? な、なんの音かな?カマキリの首がゴトンと落ちた……。
ひええ。素手で頭落としたのか。まあ、昆虫のつなぎ目なんて脆いものだけど。
瞬殺だね。
うん、たとえ魔物でも苦しみもがくのは見たくなかったからよかった。
「ジャ、ジャック……」
ジャックはカマキリの胴体をポイッと放り捨てた。どすん! 軽い地響きがして砂煙が上がった。
まあ、巨体のカマキリですから。
ジャックは自分の血と、カマキリのどす黒い体液でひどい有様だった。
「ち、治癒。治癒治癒……」
わたしは両手をかざした。が、ジャックはひざから崩れ落ちた。
「あー、ヤバい。しびれる。力が抜けていく……」
「ええっ? なんで?」
「ど、毒だ……」
レイラがつぶやいた。
「あのトゲトゲ、毒がある!」
マジか。
「とりあえず、死骸から離れよう」
レジーが言った。流れ出てくる体液もヤバいかもしれない。マリアが魔法でジャックの巨体を持ち上げた。
「ど、どこかに寝かせて。治療しないと!」
ジャックはとうとう意識を失ってしまった。息が浅い。焦る。
「は、は、早く」
砂漠のど真ん中だけれども、一刻を争う。ほんとうはオアシスまで行って養生させたいところだが。
マリアはいったんジャックを下ろすと、四次元バッグからタープを取り出した。
ふたたびジャックを持ち上げて、タープの下に移動する。
トリさん移動する。
レジーが血まみれ体液まみれのジャックの服を切り裂いた。
すばやく傷を確認する。
「トゲは残っていないようだ。切り傷と刺し傷がひどいな」
毛皮に覆われているので、傷が見にくいが。
浄化をかければ、だいぶきれいになった。でも次から次へと血が滲みだしてくる。よほど傷が深いんだろう。血が止まる気配がない。
たぶん体液にも毒があるんだと思う。ほんとに厄介。
傷の治療と解毒を同時に行う。レジーも吹き飛ばされた弾みに、打撲やら擦り傷やらを負っていた。ブライアンも切り傷が多数。毒の影響もあって、手足が少々しびれると訴えている。
このふたりの治療はマリアに任せた。
しばらく続けるとようやく血は止まり、ジャックの息遣いも安定してきた。解毒もうまくいっているようだ。
ただしびれがきえるには、少し時間がかかるだろう。それに出血が多かった。未だ意識は戻らない。
「レイラ」
治癒をかけながら呼ぶと、レイラはぎくりとした。すでに涙目。胸のところで両手を組んでおろおろしていた。
「ちょっとおいで」
右手でジャックに治療を施しながら、左手でわたしの前の地面を指す。
「そこへすわって」
レイラは素直にそこに律儀に正座した。
「マリア」
レジーの肩に治癒を施していたマリアは顔を上げた。
「あなたもここにすわって」
「……はい」
マリアも素直にレイラと並んで正座した。当然レジーもついてくる。
なんか、変な並びだな。横たわるジャックをはさんで、わたしとレイラ、マリア、その横にレジー。
治療の終わったブライアンは後ろでおろおろしている。
「どうして察知が遅れたの?」
なるべく冷静に、とは思ったけれどついつい声が鋭くなってしまう。
「えっと……。ちょっとぼーっとしてて……」
下手な言い訳だ。
「あなたがちょっとぼーっとしたせいで、ジャックが死にかけているんだけど」
「そ、そんなつもりはなくて……。わ、悪いと思っているよ?」
あたりまえだ!