指を生やしました
「アリーさま。先ほどのように手をかざして」
ええ、だいたい理解はしましたが。
「さあ」
見れば兵士の彼の瞳は期待に満ち満ちている。
ひええーー。ご期待にそえなかったらどうしましょう。
「さあ! 治癒と!」
圧がすごい。治癒と言えばいいんだね。
「生えなくてもしりませんよ!」
ハードルはさげておこう。
さっきのように手をかざして……。
「……ち、治癒!」
また手がぽわっと光った。
神さま仏様、なにとぞ、彼の指が生えますように。
白い光が広がって、彼の手を包み込んだ。一瞬強く光ると、すうっと消えていく。そして彼の手は……。
見事に指が生えそろっていた。
「おおーーー!」
は、生えた! IPS細胞も真っ青。
感嘆の声が上がった。兵士の彼はまじまじと自分の手を見つめると、ぐっぱぐっぱした。
「う、動く! 動きます!」
ボヘミアンズは、うんうんとうなずきながら目をぬぐった。
「これが聖女の力でなくて、なんだというのですか。アリーさまはまちがいなく聖女なのです!」
兵士の彼は、その場で跪いた。
「聖女さま! わたくし聖女さまのためならばたとえ火の中水の中。命を懸けてお仕えいたします」
深々と頭を下げた。
「いえいえ、せっかく指を生やしたんだから、
命懸けないでくださいよ。大事にしてよ」
「ははーっ。聖女さまの御心のままに」
下がっていく兵士を見送りながら、ヤバいことになったと思った。できちゃったら帰してもらえないんじゃない?
「やれやれ、納得していただけてよかった」
……納得はしてないよ。
「このフレイザー王国は大陸の東にあるのですが、大陸の東の果てにシベルチという霊峰があります。世界でいちばん高い山です。山の上半分は年中雪を頂く高い高い山です。その高さゆえに人跡未踏。山をこえたものはいないとされています」
ああ、勝手に始まっちゃってる。完全に相手のペースだ。
「その霊峰シベルチのふもとに洞窟があって、その中に邪悪なドラゴンを封印した岩があるのです。アリーさまはブライアン殿下とともにその『封印の洞窟』に行って、封印のし直しまたはドラゴンの討伐をしていただきたい」
……討伐。ゲームでしか聞いたことのないことばだな。
「そんな世界の果てみたいなところにどうやって行くんです?」
「馬をお貸しします」
馬に乗れってか。
「ちゃんと乗れるように練習しますからご安心を」
めっちゃ不安だな。子どものころに一回ポニーに乗ったきりなんだけど。
「それと供の者は優秀な者を選抜してありますよ。戦士に魔法使い、探索者」
勇者パーティ(笑)。
?探索者って? え? 魔法使い?
勇者に聖女に魔法使い。邪悪なドラゴン。もうおなかいっぱいなんですが。
「探索者はシーカーとも言います。その名の通り、なんでも探し出します」
探偵になったらいいのに。
「まず行先までの最短距離を見つけます」
グーグルマップだな。
「方角をまちがえることはありません」
グーグルマップでさえ道に迷うわたしより優秀だ。
「それからいち早く魔物や敵対する民族を探知するので、無駄な戦闘を避けられます」
勇者なら一撃でやっつけられるんじゃないの?
「水や食料も探せますよ」
サバイバル最強。それはたいへん心強い。
いや、ちがう。
わたしは帰るんだ。だって、あしたには面接結果の連絡が来るんだもの。このチャンスを逃すわけにはいかない。絶対。