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大奥ファンなので



 ゲームのアバターです。それでじゅうぶんだろ。

 大奥のファンですからね。

「ま、ま、までぃ……?」

 あれ、言いづらい?

「までのこうじ」

「ま、でぃ、のう?」


「こうじ」

「こおずぃ」

 そっちのほうがむずかしくない?

「……まっでぃー……」


 おじさんふたりが発音に手こずっている。ぷぷ。

「あり、あり、あり」

 ファミリーネームはあきらめたようだ。

「こっトゥー」

「万里小路がファミリーネームで、有功がファーストネームです」

「そ、そうですか。聖女さまのお国の名前は発音しにくいですな」

 ボヘミアンズは「ははは」とごまかすように笑った。


「そう? アリーでいいですよ」

そう言ったら、宰相も王さまもあからさまにホッとした。

「ではこれからは、アリー=マディーノさまと呼ばせていただきます」

 ……それっぽい名前ができた。めっちゃ日焼け止め効果が高そう。


「それでアリーさま、話の続きですが」

 続くんかい。

「聖女さまは異世界にいるとご神託があったのですよ。それで召喚の儀式を執り行いました。そしていらっしゃったのがアリーさまです。ですからアリーさまが間違いなく聖女さまなのです」


「へえ」

 なんか、めんどくさくなってきたな。

「っていうか、瘴気の払いかたなんてわたし知りませんよ」


 そう言ったら、ボヘミアンズはにっこりと笑った。宰相が片手をあげる。するとどこからか金属の箱を持った人がやって来た。

 いかにもあやしい箱だ。彼は両手をこれでもかというほど伸ばして、さらに顔を背けている。

 そんなにいやか。なにが入っているんだ、その箱。


「では開けますよ」

 テーブルに置かれたその箱を宰相はかぱっと持ち上げた。

 あらわれたのは、これまた金属のカゴ。ハムスターのケージみたいなヤツ。

 そして、その中には……。


「うぇーーー。なんですか、それ」

 黒いぶよぶよがぶるぶるしている。気持ち悪い。

「これが瘴気の塊です」

 宰相も王さまもぎゅうっと眉間にしわをよせた。


「瘴気って固まるんですか」

「ええ、濃くなるとこういう塊になるんです。これがあちこちに落ちているからほんとうに危なくてしょうがない。さて、アリーさま」


 宰相はカゴをずずっとわたしの方に押し出した。わたしは思わずのけぞる。

「カゴの上に手をかざしてみてください」

 ええー、気持ち悪いですが。

「だいじょうぶです。聖女さまですから」

 おそるおそる手をのばした。なるべく近づきたくないのだが。

「そうそう、そして『浄化』と唱えてください」

 ええ?


「さあ、早くしないと部屋中に瘴気が満ちてしまいますよ。さあ!」

 ひえ、おどしですか。あわてて唱えた。


「……浄化」

 言ってみたらば。

「うわ!」

 かざした手がぽわっと光った。その白い光がじわじわと広がってカゴを包み込んだ。


 しゅううううう。

 音を立てて黒いぶよぶよが煙のように消えた。

 マジですか。

 わたしは自分の手をじっと見つめたけれど、いつものわたしの手だ。かわり映えもしない。

なのに、なにが起こったのか。気持ちわるっ。


「わあっ!」

 思わず叫んだ。

「ほうらね」

 宰相がドヤ顔だ。

「これが聖女の力ですよ」

 こんなのができちゃうと困るんだけどな。宰相はもう一度、片手をあげた。今度は軍服を着た兵士がひとり、入ってきた。今度はなんですか。


「さあきみ。手を出して」

 宰相に言われるまま、彼は左手をテーブルの上に差し出した。その手には、中指薬指と小指が根元からなかった。


「あ、あらー」

「彼は前線で活躍する兵士でしたが、魔物との戦闘中にこのような大怪我を負ってしまいました。なんとか日常生活はできるようにはなりましたが、もう剣は持てません」

 お、お気の毒ですね。

「今は内勤の事務仕事をしていますが、後ろ髪を引かれる思いで、現場を去りました。非常に優秀な兵士だったのですよ。指さえあれば。指さえ……」

 宰相と王さまは、クッと目頭を押さえた。

 ソウデスカ。


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