世界を救え。はあ?
「こちらはフレイザー王国の国王、フレデリック三世陛下にあらせられます」
おじさんBは王さまだった。おじさんAは友だちみたいに隣にすわってるけど、いいのかな。
「そしてわたしは、宰相を務めますマーキュリーと申します」
宰相って、首相とか大統領とかそんな役職だよね。ふたりとも偉い人だったのか。
……ん? フレデリックってフレディだな。ふたり合わせてボヘミアンだ。しかもクイーンじゃなくてキングだ(笑)。いろいろビミョー。
その間に、メイドさんがお茶を出してくれた。……紅茶だな。わたしはコーヒー派なんですが。
わがままはいいません。わたしは常識的な大人ですから。
勧められるままに、キラキラしいカップを持って口をつけた。はい、いい香りです。紅茶もアリかもしれない。
「では、このたびの聖女さま召喚についてご説明いたしますね」
プレゼンがはじまった。
「ええと、はるか昔」
昔話(笑)。
「世界を滅ぼそうとする邪悪なドラゴンがおりました」
ファンタジー(笑)。
「勇者が選ばれ」
ファンタジーその2(笑)。
「邪悪なドラゴンを倒しました」
めでたしめでたし(笑)。
「……なんか失礼なことを考えてますね」
ボヘミアン宰相が眉をひそめた。ヤバい、うすら笑ってた。わたしはほっぺたをきゅっと吸いこんだ。
「勇者はドラゴンをとある岩に封印したのですが、どうやら最近それが緩んできたようなのです」
「封印がですか?」
「はい。500年もたちますからね」
古っ! じゃあ、締め直せばいいじゃん(笑)。
「封印の緩みから瘴気が漏れ出て、世界中に拡散しているのです。このままだと世界は瘴気に覆われて、人も動物も死んでしまい植物も枯れてしまいます」
「ヤバいじゃないですか」
「ええ。非常にまずいです」
言い直された。
「世界の滅亡です」
マジで?
「現に影響は出はじめています。各地で農作物に収穫が減り、家畜にも病気が出ています。いずれ人にも病気がうつるかと思われます」
毒ガス? 殺生石的なヤツかな? 近づくと死ぬ、みたいな。近くに温泉が湧いてるかもしれない。封印されているのは九尾のキツネじゃなくて邪悪なドラゴンだが。
「ヤバ、まずいですね」
「そのとおり。そこで勇者が選ばれました」
自薦ですか他薦ですか(笑)。
「勇者はご神託で選ばれるのですよ」
ボヘミアン宰相はきりっと言った。なんか心読まれた。え? ご神託? それはまた、なんかアレですね。
「選ばれた勇者は我らが王子、ブライアン殿下です」
ぶふっ! 思わずお茶を吹いた。ボヘミアン、ひとり増えた。
「……だいじょうぶですか?」
ボヘミアン宰相は呆れているのか、心配しているのか。
「……はい、失礼しました」
メイドさんがナプキンを渡してくれた。さすが王宮。できるメイドさん。
「では続けますね。一言でいえば勇者であるブライアン殿下と聖女さまは協力してドラゴンの封印をし直していただきます」
「勇者だけじゃダメなんですか?」
「ええ、封印の岩に近づけば近づくほど瘴気は濃くなります。いかに勇者と言えど、濃い瘴気は毒です。だから世界で唯一瘴気を払える聖女さまが必要なんです」
ええー、めんどう。
「ただ、封印はどんどん緩んでいます。もしかしたら、もうほとんど役目をはたしていないかもしれません。最悪……」
最悪……?
「邪悪なドラゴンが復活します」
げえ。
「そうなったら、もう一度ドラゴンを倒さなければなりません。できればその前に封印しなおしたい」
それはそうでしょうけれど。どうしても納得できないことがある。
「そもそも、わたし聖女じゃありませんよね」
そう言ったらボヘミアンズはひどく驚いた顔をした。あれ? 変なこと言いました?
「とんでもない! 召喚の儀式で呼ばれたのですから、あなたが聖女です。まちがいありません」
いやいやいや。
「どうして聖女だけ召喚なんですか。勇者はこちらにいたんですよね」
「ご神託です」
なに、その盲信。
だいたい、召喚て。ラノベ界隈で流行っているヤツですか。異世界ですか。そんでそのボヘミアン王子と結婚させられるんですか。
ふざけんなよ。
腹が立ってきた。よし! 帰ろう!
わたしはすくっと立ちあがった。
「まあまあまあ」
ボヘミアンズがあわてて宥めにかかってきた。左に王さま、右に宰相。グイっと肩を押されて強制的にすわらされた。そのままふたりは、ピタリとわたしをはさんで腰をおろした。
「せめてお名前をお教えください」
ささ、と目の前にお茶とお菓子(茶色いパウンドケーキみたいの。お城なのに地味)が差し出された。
……名前? 名刺入れを出そうと、かばんに手を入れた。悲しい会社員の性。
いいや、ダメだ。こんな訳のわからん連中に気安く名前を教えるなんぞ、できるものか。
「万里小路有功ともうします」