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旅行日程は180泊181日 3

「それで一週間前に帰ってきた鷹の目の情報によると、封印はだいぶ緩んでいます。漏れ出る瘴気もずいぶん増えています。事態は急を要します」

 まあ、たいへん。遅くなったのはわたしのせいだが。


「出発は5日後。それまでに準備と訓練をしておくようにお願いします。食料と水、野宿の支度は城で準備し、マリア嬢にあずけます。みなさんは個々の準備をしてください。アリーさまの準備もこちらにおまかせください。必要なものがあったら、遠慮なくおっしゃってくださいね」

「はい、ありがとうございます」


 正直、なにが必要なのかまったくわからない。

「封印の期限は夏至。つまり半年弱です」

 冬至が過ぎたばかりってことか。こちらの暦がどんなものか知らないけれど、むこうの世界とはいくらかズレがあるようだ。

「どうして夏至なんですか」


「うーん、そうですねぇ」

 宰相閣下は、しばらく考え込んだ。わざわざ説明するまでもなく、みなさんご存じってことですか。重ね重ねもうしわけないですね。


「魔力は春分秋分に極大になり、冬至夏至に極小になります。マリア嬢ほどの魔法使いならば影響はありませんが、弱い魔法使いなら冬至夏至のあたりには魔法を使えなくなる者も出るほどです。冬至夏至には封印を抑える魔力も弱くなるということですね」


 なるほど。

「ですからこれから春分にかけては、なんとか抑えられましょうが、それを過ぎると封印はどんどん弱まっていきます。そして極小になる夏至には、最悪封印が破られドラゴンが復活します。その前に必ず到達していただきたい」


 ですよねぇ。あわよくば異世界見物なんて思ってごめんなさい。だって拉致られたんだもの。それくらい、よくない?

「うん、まかせろ。王国のため、世界のため、必ずやドラゴンを封じてこよう」

 王子がトンッと胸を叩いた。おおう、王子勇ましいね。


 あれあれ? マリアさんまた赤くなってるよ? もしかして王子ラブですか?

 いいねー、若いねー、甘酸っぱいねー。


「さて、せっかくみなさん集まったのですから小手調べといきましょう。おたがい手の内をわかっている方がなにかと連携も取りやすでしょうからね」

 と宰相閣下が言った。そりゃあそうですね。言ってみれば一蓮托生。だれがどんな技を持っていて、どんな役割をするのかは決めておいた方がいいに決まっている。




 いったん解散し、30分後中庭に集合した。わたしはとくに準備もないが。

 それぞれに装備した面々は壮観だった。

 王子はいかにも勇者な、キラキラしい剣を背中に背負い、レジ―=D=コンラートも騎士らしく腰に細身の剣を佩く。

 うん、想像通りのカッコよさ。


 ジャックは、両腕に手の甲から肘までを覆うプロテクターをつけている。黒い革製で、甲のところに硬いボコボコがついているヤツ。ふむふむ、あれで殴るんだな。

 そして太くて鋭い爪。ざっくりいかれたら、ひとたまりもなかろう。

 ジャックは素手で戦うタイプらしい。


 マリア姫は、もうなんかね。杖? 杖なんでしょうね。月にかわってお仕置きしそうなヤツです。あれを振って魔法を発動するんだね。うん、カッコかわいい。

 あれをまたがって飛んでも、納得です。


 レイラは特に装備はなし。だよね、自分自身が武器であり盾だもの。ひとつ言わせてもらえば、髪じゃまじゃない?


 そして、中庭に牛みたいな魔物が数頭連れてこられた。

「図体は大きいですが、そんなに凶暴じゃありません」

 宰相閣下が言ったとたん、牛モドキは「うがあアアアアーー!!!」と雄たけびを上げた。一頭上げたら、呼応するように残りも叫び始めたから、こっちはたまったもんじゃない。


「う、うるさい」

 思わず耳を塞いだ。

 マリアが杖を一振り。

「うるさいですわ。おだまり!」

 そうしたら、牛モドキたちの叫びはぴたりとやんだ。口はパクパクしてるのに、声が出ないようだ。魔法すげー。

 牛モドキは、耳には凶暴だった。


「ではぼくから行こう」

 王子は背中の剣をするりと抜き放った。鞘から出た両刃の剣身は、それ自体が青白く発光している。

 誰もがその美しさに息を呑んだ。

「勇者の証、オリハルコンの剣だ」


 勇者の証! オリハルコン! ゲームの終盤じゃないと手に入らないヤツ! もうファンタジーそのもの(笑)。

 王子が構えると、剣はいっそう強い光を放った。そうして牛モドキに斬りかかった。

 一刀両断。牛モドキの首がごとんと落ちた。

 う……。なかなかにエグイですな。

 でも切れ味はすごい。さすがオリハルコン。


 じゃあ次はおれ、とジャックが牛モドキに飛びかかった。ジャックは軽々と牛モドキの頭上まで飛びあがった。

 動ける巨体! すごい!

 それからジャックは、首の後ろに(人間でいう延髄のとこ)拳を叩きこんだ。牛モドキはまだ魔法が効いているらしく、叫び声が無音。ちょっとかわいそうになってきた。

 ヘッドロックをかましたジャックは、そのままごきりと牛モドキの首をへし折ってしまった。

 ええー。残酷。


 頭ではわかっているけども。

 でもわたし動物いちおうを殺したことなんてないし。動物殺したら虐待になるし。


 ああ、ビーフもポークも元は動物だよ。とか言わないで。わかってるから。ただちょっと慣れてないだけ。


 わたしがそんな顔つきをしていたんだろう。コンラートさんが話しかけてきた。

「魔物は人に仇なすものです。小さくておとなしそうに見えても、人間を見れば攻撃してくる。ケガで済めばまだマシ。最悪命を落とすことだってあるんです。同情はいりませんよ」


 はい、わかってます。わかってますよ。わたしはコンラートさんを見上げて「うん」とうなずいた。

 そう、あれはゴキだ。そう思おう。ゴキは問答無用で叩くもんね。そう、それそれ。


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