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旅行日程は180泊181日 1

「それでは『邪悪なドラゴン封印の旅』についての説明会を行います」

 宰相閣下のプレゼンがはじまった。

 お城でも会議室っていうのかな。お城にしては地味目な部屋で、真ん中に大きな机がどーんとあって、そこに広げられた地図を勇者パーティの面々はのぞきこんでいた。


 いや、地図というにはあまりに雑。大航海時代? っていうくらい雑な地図。きっと距離は合っていない。海岸線も国境も合っていない。方向もたぶんあっちの方、くらいの感覚。

 これで行けんの?


 フレイザー王国が大陸の真ん中。お城のある王都は王国の真ん中。フレイザー王国が世界の中心、みたいな考えなんだな。中世ヨーロッパみたい。

 はっ。まさか天動説じゃあるまいな? そもそもここは地球?


 東側にも国がいくつか。こっちの国とは国交があるらしい。

 西側は大きな川。その川幅まちがってない? 琵琶湖ぐらいあるけど。


「さて、現在地はここ」

 と宰相閣下が指し棒でトン、と突く。

「目的地はここ」

 今度は地図の左端を指す。

「大陸の西端、霊峰シベルチのふもとです」


 西側は南北に山脈が走っている。見るかぎりはヒマラヤ山脈のような高い山々が連なっているようだ。そして山脈の向こう側は白紙。

 わかっていないってことですかね。


 霊峰シベルチは山脈のやや北より。

「王都から大河までは街道沿いを行きます。王国軍一個大隊が護衛につきます。到着まで1週間の予定です」

 えー。1週間もかかるのか。馬だもんな。

 そして閣下は川沿いの一点を指した。大きな街らしい。大きく書いてあるから。


「ここは『川の民』との交流の拠点、ダーダータウンです」

 と宰相はわたしの顔を見て言った。ああ、わたしは知らないけど、みなさんはご存じなんですね。

 うん、とうなずいた。宰相もうん、とうなずいた。宰相とはコミュニケーションがとれるようになった。

 なにせ、いちばん話しているからね。


「ここから『川の民』の渡しに乗っていったん中州に行きます」

 中州といっても種子島くらいあるね。

 ……ほんとかな? 大げさに書いてない?


「中州には『川の民』の集落があります。そこを通って対岸に出ます」

 へえ、中州に住んでいるんだ。増水しないのかな。

「中州を横断してまた渡し船に乗って向こうへ渡ります。ご存じのように川の向こうは未開の地。渡し舟を下りたら、王国の常識は通用しません。魔物も増えているはずです。心して行かねば、なにが起きるかわからない場所です」


 ……マジですか。

 そっとレジ―=D=コンラートの顔を盗み見る。いちばん頼りにするべきはこの人だ。

 彼は眉間にしわをよせ、むずかしい顔をしている。

 ……マジなんですね。

「あのー」

 質問してもいいだろうか。わたしはおそるおそる手を挙げた。

「はい、なんでしょう」

 宰相閣下は気安い感じで返事をした。よかった。いいみたいだ。


「未開の地っていうくらいだから、街はないんですよね」

「そうですね。少数部族の集落がありますが、当てにはできないでしょうね」

「食料や水はどうするんですか? 最後に調達できるのって中州ですよね」


 ああ、と閣下はにやりと笑った。なんだその、してやったりみたいな顔は。

「マリア嬢が収納魔法で運びますから、ご安心を」

 ……収納魔法? そういえば、そんなこと聞いたな。


「くわしく説明しましょう。収納魔法はその名の通り、なんでも収納できます。魔力の強さによって収納量はかわりますが、マリア嬢ならばほぼ無制限ですね」

 なんですと?

 マリアがいかにも令嬢らしい、キラキラしたビーズの小さなバッグを「とん」と机の上に置いた。


 パーティ用のハンカチとティッシュしか入らないような四角いヤツだ。

「これですわ」

 マリアはパカッとバッグを開けた。

「この中になんでも入れられますの。なんでも」

 2回言いましたね。大事なことなんですね。


 バッグの中は、真っ黒な空間ですが。いや、不気味。

 マリアはその不気味な暗黒に、何のためらいもなくずぼっと手を突っ込んだ。お嬢さまは思いきりがいい。

 腕は肘のちょっと手前くらいまでバッグの中。バッグの大きさ、バグってるね。バッグだけに(笑)。

マリアは、暗黒の中からするりと何かを取り出した。

 ぼわんっと机の上に飛びだしたのは、大きなパイだった。

「おお、うまそう!」

 王子、今そこじゃない。目を点にしているとマリアはパイをするりとバッグにしまった。

 ええ? なんで?


「キイチゴのパイは、今朝うちの料理人に作らせましたの。お茶の時間にみなさまでいただこうと思いまして」

 だから、今そこじゃないって。

 食べてもだいじょうぶなんですか、その暗黒のパイ。


「ははは。驚かれましたかな」

 なぜか自慢そうな宰相閣下。

「これが収納魔法です」

 閣下は胸をはった。いや、あんたがやったんじゃないし。


「いったん収めてしまえば、品質は保持できますの。つまり腐らないんですわ。水も食料もいくらでもお持ちできます」

 4次元ポケット!


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