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 そういえば、目撃者いなかっただろうか。駅を出て、同じ方向に向かっている人はたくさんいた。前にも後ろにも歩いている人はいた。車も通っていた。自転車も。


 わたし、どういう消え方したんだろう。ぱっと白い光に包まれた気がしたんだけどな。もし、目の前が光って忽然と人が消えたら、騒ぎにならないかな?


 ……ならないか。ならないかもな。

 気のせい、気のせい、なんて言って見なかったことにして。

 動画撮っている人がいたらSNSにあげるかもしれない。そうしたらちょっとは騒ぎになるかな。


 ……AI画像とかフェイク動画って言われちゃうかも。そもそも、歩きながら動画撮ってるヤツ、ヤバいじゃんね。


 はっ! コンビニの防犯カメラに写っていないだろうか。

 親が捜索願とか出したら、そういうことも探してくれるんだろうか。でも事件性がないと探してくれないって聞いたことがあるしな。


 きっとわかりやすく車に連れ込まれた、とかじゃないと事件性ってないんだろうな。

 わたしはただの行方不明者にされるんだろうか?


 自分の意思で失踪したと思われたらいやだな。逃げ出したみたいじゃん。ちがうもん。


 わたしは、ここでーす!

 拉致られましたー!

 だれか助けてくださーい!


 どこにも届かないわたしの訴え。

 はあ……。


 ここでは丁重な扱いを受けている。侍女が3人もついて、なにからなにまで世話を焼いてくれて。

 食事の心配は一切なし。お呼びが来てダイニングに行けばりっぱな食事が用意されている。

 フルコースの晩餐会は初日だけだった。そこはホッとしている。ただでさえ粗食だった毎日。弱体化した胃に重たいディナーはこたえる。

それに、わたし朝ごはん食べない人なんだよね。

 会社に行く途中のコンビニで買ったコーヒーが目ざまし。午前中、おなかがすいたらプロテインバー的なヤツをさくっと食べる。

 そんなかんじ。逆にしっかり食べると胃もたれしちゃうのよ。頭回らなくなって、仕事がはかどらない。

 そんなわけで、朝食はごめんなさいしている。

 侍女さんたちには「えっ? ごはん食べないの?」みたいな顔をされたが。

 もちろん口出しなんかするわけないけども。


 着替えもたくさん用意してもらった。

 ウォークインクローゼット、というより」衣裳部屋。ハンガーにずらりと下がっている。

 こんなにいるか? 

 そう思うのは庶民の感覚なんだろうな。


 その一番端っこに、着ていたブラウスとワイドパンツがひっそりとぶら下っていた。バッグとハイヒールもわっさわさのドレスの陰に隠れるようにちょこんと置かれていた。

 

 わっさわさのドレスは勘弁してほしかったが、この世界ではどうやらこれがデフォルトらしい。問答無用で着せられる。


 ショートカットの髪も侍女さんはどうにか結い上げる。2,3か所ピンでとめて飾りをつける程度だが。

「こんなに髪を短くするなんて、あちらの世界は変わっていますのね」

 なんて言われたのは嫌味だろうか。


 あちらの世界では、こんなわっさわさのドレスなんか着ませんのよ。ということばは呑みこんだ。


 っていうか、この侍女さんたちいつもいる。勉強やら訓練やらに出かけるときも、ずっとついてくる。

 慣れないのよ。だれかに付かれるというのが。なにかしている間、ずっと後ろで待っている。落ち着かない。

 ひとりになる時間がない。気が抜けない。疲れる。


「部屋で待っていていいですよ」

 やんわりと言ったら「とんでもない」とびっくりされた。やんわりやんわりと言ったのに。ほんとは「来なくていいから」とはっきり言いたかった。

 だいぶ譲歩したんだけど。うーん、こまった。

 宰相閣下にこっそりと相談したら、彼にもびっくりされた。


 貴族のご婦人には侍女がついているものなんだという。身分が高くなれば人数も増えるそうな。

 じゃあ、3人は多いんだろうか。

「アリーさまは唯一の聖女さまですからそれなりに」

 多いということか。

 でもね、わたし貴族じゃないし、着替え以外はひとりでできるのよ。付いていられると逆に気を遣っちゃうんだけどな。

 いなくてもこまりませんよ?


「彼女らは聖女さまの侍女に選ばれたことを誇りに思っているのですよ。それはもう、一族の誇りなんですよ」

 ……えーーー。

「それを解任されたとなったら、彼女らに落ち度があった。聖女さまのご不興を買ってしまったと経歴に傷がつくのですよ。そんなことになったら彼女らは家にこもるか、修道女になるか、そんな道しか残されません」

 そんなにか! そんなに責任重大か!


 そこまで言われちゃったら、しかたがない。

 もうちょっとしたら出発だし、我慢しますか。

 でもねぇ「聖女なのに自分で治せないのかしら」ということばは、はっきりと覚えているし、知っていて当然のことを知らないことを、どうも彼女たちは呆れているようだ。

 それが伝わってくるから、非常に居たたまれないのだ。


 だって知らないんだもの! とぶち切れてみようか。


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