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「みんな、友人のイリスだ。彼女は錬金術を学ぶために我が西の都に移住して来たばかりでね。まだ見習いだし、分からないことも多いようだから、チカラになってあげて欲しい」

「その錬金術師見習いの女性イリスさんというの? まるで……セリカの……ううん。こちらの話よ。私は西の都魔法ギルドの営業担当をしているアザミ。よろしくね、イリスさん」


 ラッセルとイリスが、友達以上恋人未満の付き合いをするようになってから数ヶ月が経った。イリスはラッセルの知り合いの誰から見ても亡き妻セリカと瓜二つのようだ。


「初めまして、アザミさん。やっぱり私……セリカさんという女性に似ているんでしょうか」

「……ごめんなさい、そっか……これだけ似ていれば誰からもそう言われているわよね。他人の空似とは思えなくらい似ているから、初めて会う人は驚いちゃうかな?」


 人によって反応はまちまちだったが、イリスが魔法ギルドで見習いをするようになってしばらくすると、クエスト担当者のディアナがふと提案をする。


「ねぇ、イリスさん。この魔法ギルドでは探偵のような仕事も引き受けているの。自身の出自について、ちょっと調べてみないかしら? 殆どの人が、貴女とセリカをただの他人の空似だと思っているけど。意外と、そんな簡単な因縁ではないかも知れないわよ」

「えっ……因縁、ですか」

「うん。調べてみる価値はあると思うんだけど……正式に調査を依頼する?」


 イリス自身もセリカとの因縁は偶然ではないことを薄々感じ取っていた。二人の間には隠された何かがある気がして、イリスはこのチャンスに飛び込むことにした。


「是非、調査をお願いします」



 * * *



 二十八年前、西の都巡礼地区にて双子の女子が産まれた。双子はセリカとカレンと名付けられて、神殿で御神託を受ける三歳になるまでは一緒に育てられた。


『この双子の女子は数奇な運命を辿るだろう。一人は若くして命を失い、一人は片割れのために巡礼をして弔いの旅をする。やがて双子の魂は同じ夫に嫁ぐソロレート婚により、ようやく一つの魂に戻り真の救いを得るだろう』

『そんな……双子のうち片方は死んでしまうということですか? 何か、救い出す方法は』

『人間の寿命は、神が定めた宿命である。しかし、片方のみが犠牲になる宿命は残された方を傷つける。ふむ……姉のセリカは家に残し、妹のカレンは巡礼者の養子に出してしまいなさい。少なくとも、どちらかが死ぬ瞬間に恨みを持たなくて済むようになるだろう。二人は顔を合わせることすら無くなるのだから』


 あまりに残酷な運命に両親は悲観したが、せめて救いがあるようにと神殿の助言に従い妹のカレンを養子に出す。タイミングよく訪れたのは、なかなか子供に恵まれず悩んでいたある貴族の夫婦だった。


『私は子供を授からずに、このままでは離縁されてしまうところでした。神様の思し召しでこの幼子を我が娘と出来るのであれば、それは私への祝福なのでしょう』

『良いご縁が出来て何よりです。ところで、この女子の名前はカレンというのですが、改めて名前を与えることも可能ですよ。どうしますか』

『そうね……私はこの子を産めなかったから、せめて名付け親になって絆を深めたいわ。約束の虹の女神様から名前をもらって、イリスというのはどうかしら?』


 こうしてイリスという新たな名前を与えられた双子の片割れは、その後七年間は優しい母親のもとで幸せに育てられた。

 残念なことに、母親が亡くなると周囲の人間はイリスに冷たくなったという噂。やがて父親は再婚し異母妹が産まれて、イリスは家庭内に居場所が無くなるが大富豪のメサイア男爵に見初められる。


 何の因果か育ての母親と同じく、イリスもメサイア男爵との間に子供を授かることが出来なかった。

 双子の姉のセリカは優しい公爵に嫁ぐが、死の呪いが彼女に降りかかり早逝してしまう。結局、神殿の予言は当たってしまったがセリカは双子の妹の存在を覚えていなかったため、生き残った妹を羨むことはなかった。


 だが妹のイリスも決して幸せとは言えない。

 メサイア男爵は姉妹婚の体裁のもと、異母妹ハンナとの間に子供を設けてイリスとは離縁。追われるように、故郷である西の都へと移住することになってしまう。


 以上がカレンことイリスの数奇な運命の調査報告である。



 * * *



 ギルド内のカフェスペースでブラックコーヒーを飲みながら読む報告内容は、苦い部分もありながら味わう価値のあるものだった。


「やっぱり、私とセリカさんは血の繋がりがあったんだわ。けど、よくて親戚関係くらいだと思っていたのに双子だなんて」

「いや、キミとセリカはあまりにも似ているし、双子という設定でようやく腑に落ちたよ。僕はセリカが天国に旅立ってしまった寂しさから、面影のある人を追い求めているんじゃないかと悩んでいたからね。そうか……イリス、キミはセリカの生き写しなのか。神よ……僕はこれからどうすれば良いのか……」


 まさかとは思っていたが、予想以上の内容が記された調査報告にイリスは率直な感想を述べる。亡き姉セリカの夫であるラッセルは、普段は鞄に収めているロザリオを取り出して神に意思を問う祈りの文言を唱える。


「ラッセルさん……?」


 祈りが終わるとラッセルは深呼吸をしてから、イリスの瞳をまっすぐ見つめて次の提案をして来た。


「イリスさん、これはきっと神様が僕達を導いてくださったんだと思う。この調査報告書を持って、キミの本当のご両親に会いに行かないか?」

「本当の両親に……」


 それはイリスの運命を変えるターニングポイントとなる行動の選択だった。


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