初めての首都
早速俺は、鑑定妨害について調べてみた。
だが、しかし。鑑定妨害について書かれた本は、親父の書庫には無かった。
鑑定の歴史という本にも書いていなかったし、鑑定妨害のスキルはかなり珍しいそうだ。
だからといって習得しないわけにもいかない。
でも当てずっぽうでいろいろ試すのは駄目だ。
スキル習得は時間がかかるのに、当てずっぽうだといつ習得出来るか分からない。
……そうだ!親父に頼んでみよう!
書いてある本が無いなら買ってもらえばいいし、いっそ鑑定士を呼んで直接教えて貰えばいい!
鑑定の本を買うなんて一般人は絶対に取れない選択肢なので、全く想定していなかった。
気がついたからには、早速頼もう!
「お父様!鑑定妨害というスキルが気になって、夜も眠れません!鑑定妨害について、効果の詳細から習得方法まで一つも残らず教えて下さい!」
「何?鑑定妨害?……好奇心旺盛な子だとは思っとったが、珍しいスキルに興味を持ったな。……そうだな、儂と首都まで出掛けないか?首都なら、お前の欲しがるような本もあるじゃろうて!」
「はい!行きます!」
よっしゃあっ!ビバ資金力!
俺と親父は下手な自動車より快適な馬車に乗り、ブブズズ王国首都へと向かったのだった。
馬車に揺られて数時間後。長い距離を移動したが、馬車が思いの外早く直ぐに到着した。
「ここが首都ですか、とても栄えてますね。」
流石は首都、めちゃくちゃ人が多い。
出店も多く、路地裏にはごろつきが沢山。
そして表通りに高級店ずらりと並ぶ。
辺境と比べなくとも、都会の凄さを感じる。
「ガハハ!そうだろう!儂も最初目にした時は、これはもうびっくりしたものじゃ!アルよ、儂ら辺境伯はこの首都を外敵から守ることが仕事なんじゃよ。どうだ、誇らしくは思わんか?」
ニヤニヤしながら親父が言う。
きっとこの発言は、俺にこの首都を守る者としての意識を育てさせるためのものだろう。
こんなに立派な街を守ることが親の仕事だと聞いたら、確かに子供はワクワクするかもしれない。
「はい!お父様はよく外出していましたが、凄く重要な仕事をしていらっしゃったのですね!」
「分かるか、お前はなんて賢い子じゃ!お前が大人になったら、儂の仕事を継ぐのじゃぞ!魔物と戦い、領地を栄えさせるやり甲斐のある家業じゃ!」
「はい、そのための剣術習得ですね!」
親父が豪快に笑いながら、頭を撫でてくる。
……ちょっとヨイショしすぎたかもしれない。
俺は早く鑑定妨害について知りたいのだが、いろいろ親父が蘊蓄を語るせいで本屋に行けない。
俺は好奇心旺盛な子にふりをしているので、質問をしたりしないと不自然だから話はずっと続く。
「お父様、あの店は何の店ですか?」
「うむ、あれは宝石店じゃな。魔法効果のある装飾品も売っている、由緒正しい店じゃ。」
「では、あの店は何の店ですか?」
「冒険者のギルドじゃな。安い酒場も兼任している所で、まあ簡単に言えば肥溜めの親戚じゃ。」
「あの大きな建物は何ですか?」
「王立図書館じゃ。首都に住んでいればここで調べるのも良かったかもしれんが、一度本を読んだだけでは十分にその本は理解出来まい。今日は図書館ではなく書店に行くぞ。」
「お父様、あの特徴的な建物は何ですか?」
「あれは光神の神殿じゃな!聖女様や聖騎士が国家の繁栄を祈り、加護を授かる大事な場所じゃ。」
いろいろなことを親父に質問しているうちに、ようやく目的の書店にたどり着いた。
中には多くの本があり、思わず欲しくなる。
【書物/人材の観察・選定の仕方
人物鑑定についての教本。
サブスキルなどについても網羅されている。】
これだ!この本にならきっと、鑑定妨害の習得方法が書かれているのだろう。
とりあえず目的の本を見つけたので、探しているふりをしながら他の本を鑑定してみる。
その中で、興味のある本が何冊かあった。
【書物/剣の道
剣術についての教本。
初心者でも独学で剣術を習得出来るように、学者や剣聖の叡智が余すことなく書かれている。】
【書物/脳ある魔道具
自立して動く魔道具についての学術書。
学者からは、勿体振った書き方や未発展の技術が分からないまま放置されていることが不評。】
【書物/愚かで醜い獣達の躾方
主に獣人などの亜人を、奴隷として調教する方法が書かれている本。】
【書物/便利でお洒落な魔法陣
魔道具の魔法陣の書き方が書かれている本。
イラスト付きの説明が特徴的。】
どれもとても興味深い本だ。
特に脳ある魔道具が面白そうだった。
もし脳ある魔道具を完全に理解して、著者を超えれたらゴーレムとかを作れるのだろうか。
男の夢、ロマンを感じる。
「……お父様!この5冊が欲しいです!」
ダメ元で頼んでみる。本は結構高いから、俺なら5冊も子供に買い与えたくない。
「ん?5冊だけでいいのか?構わんぞ。」
マジかよ親父、神か?
親父が息子に甘い人で良かった!
そんなわけで本を買ってもらい、馬車でカナイリナカの自宅に帰った。
買ってもらった本を読んで、何ヶ月か経った。
鑑定妨害はまだ取得出来ていないが、習得方法を知れたので焦らず頑張っている。鑑定妨害はいろんな人物を鑑定して、パッと架空の鑑定結果を思い浮かべられれば習得できると書いてあった。
今はとりあえず、やれることを全部やってみた。
【辺境伯の長男/アルベルトフォンス・ネハンピ
種族/人間
独学で魔道具の研究をしている。
苺が好きだが、最近苺を食べていない。
スキル/鑑定(中の上)/魔道具作成(下の下)
剣術(下の下)】
クグチョの指導と剣の道のおかげで、剣術はかなり早く習得出来た。
まだ1度も剣を握っていないのに、だ。
自分の才能を、過信してみたくなる。
俺としては魔道具作成のスキル習得が、本屋に行ってからの1番の収穫だろう。
このスキルを習得してから、魔道具をスムーズに作れるようになっていた。
そうそう。最近作った魔道具といえば、充填式の簡易魔法ストック用魔道具がお気に入りだ。
既に同じ種類の魔道具は存在するだろう。
だが俺の付けた名前が鑑定で表示出来たので、実質的に俺のオリジナルの魔道具だ。
【魔道具/追憶の魔唱石
一度だけ、記憶させた魔法を使用出来る魔道具。
使用する魔法の方向や効果量は変更できない。
使用する魔法ごと変更しなければならない。
使用時マギカを放出するため、火傷に注意。】
火傷は勿論実体験だ。軽症だったけど痛かった。
俺、火傷してばっかりだな?
記憶させられる魔法は低出力のものだけだが、日常的に便利な魔法を使えることがメリットだ。
懐中電灯や扇風機、水筒など実際に使っていて便利な日用品扱いだ。
何れはもっと便利で強力な魔道具を作りたい。
俺は職人魂に火を付けていた。