スキル習得に近道なし
俺はあっという間に3歳になった。
俺は2歳から3歳になるまで、鑑定のスキル上げしか成果は出していなかった。
しかし、何もしていなかった訳ではない。
俺は2歳や3歳でも出来ることを頑張った。
本を読んで、この世界について調べたのだ。
人間、亜人、魔族や魔物。
ここはそういった、いろんな種族が住む世界。
今は人間が、この世界の覇権を握っている。
亜人はエルフとか獣人が含まれる、人間に非敵対的な種族のことだ。人間本位な指標だが、その人間が長らくの間№1の勢力だから問題ないらしい。
エルフなどのプライドの高い種族は、むしろ人間如きの呼称は気にしないらしいし。
そしてこの世界では、奴隷文化が一般的だ。
一部地域では違法らしいが、少なくとも俺が今いるブブズズ王国では合法だ。
奴隷は借金や罪を背負ったり、敗戦国の兵士だったりすることでなる者が大半だ。
無辜の亜人を狩ることは違法だが、その被害者を買うのは違法ではないので亜人奴隷は多い。
なんだか、とても緩い法律だな。
亜人愛護団体が抗議しているらしいが、とてもマイノリティだから相手にされていないらしい。
まあ、俺は亜人達が奴隷になっているのが可哀想とはあんまり思えないな。
何故かって?元社畜だからだ。
いつの時代も安い労働力は必要だから、俺らみたいな使い捨ての歯車は無くならない。
くっ、嫌なことを思い出した。
今は、奴隷のことなんか忘れよう。
よし!気を取り直して!
3歳になってからも俺はいろんなことを調べた。
親父の書庫には、世話になりっぱなしだ。
今回調べたことは、魔道具についてだ!
魔道具について簡単に説明しよう。
主に生物の体内から取れる魔石を使って作られる、どんな状況でも魔法を使えるようにする道具だ。
生物由来の魔石以外にも、地下などから採掘される魔宝石を使う場合もある。
魔宝石は珍しい宝石だ。だがその分強力な魔道具を作れるので、高値で取引されている。
俺は魔法をまだ使えない。なのでその代わりに魔道具を作るため、いろんな本を読み漁ったのだ。
10歳を待つのは、時間が勿体ないからな。
本によると魔道具は知識さえあれば誰にでも作ることが出来るが、その知識が難解なのだとか。
挫折する者は多いらしい。
何文字も沢山重なって作られた魔法陣は、見る者を (魔法使えばいいや) という気にさせる。
しかし俺は魔法を使えばいいやが通用しない年齢なので、頑張って学んでみた。
まあ、3歳の大半はこの魔法陣に費やしたと言っても過言ではない難解さだった。
魔道具は魔法の補助器具に使うものと、魔道具に人格を入れて魔法を行使させるものがある。
後者はあまり一般的ではなく、一部の英雄的な人物だけが出来る方法らしい。
なので俺は前者の補助器具を目指した。
俺はマナをマギカに変換する行為で、うっかり死ぬのが怖いから魔法を使えないだけだ。
マギカを外から補充出来れば、問題ない。
そんなの出来るの?と聞かれたら、出来ると胸を張って答える根拠がある。
そもそも魔道具はマナを消費せず、魔石に充填されているマナを消費して発動する物だからだ!
俺は手元にある読書灯を解析した。
読書灯は比較的簡単な作りだ。
読書灯を点けることを意識しながらスイッチを押すと、読書灯内部の魔石からマナが燃焼される。
マナが燃焼されてマギカになったら、後は勝手に魔法陣に吸われて光に変換されるだけだ。
つまり魔石のマナを燃焼するギミックだけ流用すれば、俺は魔法を使えるわけだ!
俺は早速読書灯から魔石を引っこ抜き、紙に書いた魔法陣の写しに乗せて試してみた。
「あっづ!あっづ!?水、水!」
まさか火傷するとは思わなかった。
どうやらマギカは、元となったマナの保有者以外が触れると火傷するらしい。
火傷は幸い軽症だった。
次は魔道具を介して魔法を使ってみる。
魔道具にマギカをその場で回転させるだけの魔法陣と、本に書いてあった魔法を発生させる場所を延長させる魔法陣を仕込んでみたのだ。
出来た魔道具は、長い紙に魔法陣が書いてあるだけの簡素なものだった。
マギカを待機させる場所に魔石を置き、手元の魔法延長魔法陣に触れながら魔法を使う。
「水よ!我が魔力を糧に、我が元に姿を表せ!クリエイト・ウォーター!」
すると、魔石の周りに水が出てきた!
素晴らしい、実験は成功だ!
俺も今日から魔法使いだ!
「やった!フフフ……あっづ!あっづ!?」
まさか、また火傷するとは思わなかった。
浮かれていて気づかなかったが、魔石が魔法陣に乗っている限りマギカは発生する。
つまり棒とかを使って魔石を退かし、適当な魔法でマギカを消費しなければならなかった。
ちょっと恥ずかしい失敗だ。
だが幸い火傷は軽症だし、この魔法陣を使えば魔法を使える喜びの方が大きかった。
俺は魔法を練習しまくった。
5歳になってしまった。
時とは残酷なもので、あっという間に経過した。
【辺境伯の長男/アルベルトフォンス・ネハンピ
種族/人間
独学で魔道具作成の研究をしている。
スキル/鑑定(中の上)】
全く成長していない。
いや……そんな1年とか2年で成長できるのは、所謂天才だけだろうとは分かっているつもりだ。
しかし魔道具を作成しても、魔法を使っても全然スキル獲得が出来ないことに焦りを感じてしまう。
特に鑑定スキルはあっさり習得できた経験が、俺を無意味に焦らせる。
人は、進歩のない状況が苦手なものだ。
魔道具作成や魔法のスキルなんてそもそもないのでは?そう思った頃も、当然あった。
しかし少なくとも魔法はスキルがある。
【騎士/クグチョ
種族/人間
部下の面倒見がいいが、あまり好かれていない。
剣術を息子に教えることが最近の趣味。
スキル/剣術(中の中)/馬術(中の下)/指揮(中の下)
土魔法(下の中)/盾術(下の下)/槍術(下の下)】
このステータスは、近所の訓練所で怒声を上げていた騎士のステータスだ。
見るからに堅物で、威圧感が凄かった。
でだ。少なくとも、土魔法にはスキルがあった。
恐らく、他の魔法にもスキルはあるだろう。
何度も魔法を使っているが、スキルレベルが1にすらならないことに危機感を感じたのだ。
一生スキルを習得出来なかったらどうしよう。
心の不安を拭えずにいた。
……そうだ、この人にどうやって土魔法のスキルを入手したか聞けば分かるんじゃね?
善は急げ、早速聞くとしよう。
土魔法を使えることは本人が公言していたし。
俺は訓練場に乗り込み、貴族らしい喋り方でクグチョに声をかけた。
「そこの騎士、聞きたいことがある!」
「はっ!何なりとお申し付けください!」
「まず貴公、名は何というのだ?」
知ってはいるが、一応尋ねる。
「私はクグチョと申します!」
「そうか!ではクグチョ、土魔法を使えるらしいな?土魔法のスキルは持っているか?」
「はっ!スキルレベルは2でございます!」
「ではどうやって習得した?」
「土嚢を用意していたら、いつの間にか!」
……全然役に立たない情報だった。
「うむ、聞きたいことは聞けた。礼を言う。」
「勿体ない御言葉です!」
トボトボと屋敷に帰る。
この世に近道なんてない。分かってはいたが、とりあえず根気よく魔法を使うしかない。
LV1は、何時になることやら……。