運動祭前日……ではなく先々週
俺がネノカダムに入学して半年ほどが経過した。
そんなある日、白兵戦の授業を受けるためいつものように学校の訓練所へと俺たちは移動した。
そこでいつもは先生が授業で基礎体力を上げるための訓練器具や、模擬戦のために白線を引き直していたりするのだが……今日は少し違った。
先生は生徒が来るまで、何かの資料を見ていた。
先生の足元をちらっと見たら気づいたが、そこにも同じような紙が複数置いてあるな。
見た目はパンフレット……旅のしおり的な簡素な作りで、表紙には『運動祭』と書いてある。
……運動会とか運動祭みたいなものか?確かに入学して半年というのは、丁度いい時期だな。
「……うむ、全員揃ったな!では今日の授業だが、今日は体を動かさないぞ!もう気づいた生徒もいるかもしれないが、丁度1ヶ月後にこの王立ネノカダム校では運動祭が行われる!」
そう言いながら先生が、パンフレットを生徒たちに配った。ページ数は8ページのようだ。
「今日から白兵授業ではただ近接戦闘や基礎体力を鍛えるだけではなく、運動祭に向けて本格的な戦闘についてもやるからな、今日はその説明会だ!」
パンフレットの内容をざっと見てみたが、どうやら運動祭ではクラス別で模擬戦をやるようだ。
AからFまでの6クラス、それぞれ学年別で複数のシチュエーションで模擬戦をすると書いてある。
今年の1年生は団体戦と個人戦をやるらしい、個人戦の方は闘技場みたいな場所でやるらしい。
しかし団体戦では特設のフィールドの中で、毎年違った環境で戦うことになると書いてあるな。
「……というわけで、運動祭で勝つためにも明日からこの授業は1対1だけじゃなく複数人数同士が入り交じる場合での戦い方をやるからな!」
大雑把な説明を聞いてから、今日の授業は終了した。先生の説明が下手なので、1授業まるまるパンフレットに書いてある内容だけで終わったな。
だが他の生徒たちはなかなかにやる気に満ちていた、運動祭には勝つメリットがあるからだ。
どうやら勝ったクラスは前世で言う冬休みくらいの時期に、外国に修学旅行できるらしい。
外国……ブブズズ王国は外交にも力を入れている国なので、友好的な国は何箇所かある。
ブブズズ王国と並ぶ国力の国と仲が良いとは言えないが、戦争にならないだけでもすごいことだ。
そんなわけで多分近隣の小国に行くのだろうが、野営の授業で喜ぶ生徒は興奮しっぱなしだ。
まあこの世界で旅行は危険性や手間を考えたらなかなかできるものではないし、理解はできる。
下位の貴族では安全に旅行するための旅費が出せず、高位貴族では行く暇がないからな。
むしろ冒険者などの下等な労働者の方が、安全性に目をつぶれば気軽に外国旅行ができるだろう。
ともかく、クラス全体が勝ちを狙いに行く雰囲気なので俺も全力で努力しなければんらないな。
今まで1人でしか戦ったことがないし、これからの授業で集団での戦闘を学ばなければ。
……そんなこんなで数日間、足並みを揃えたり戦闘で魔法を使う訓練とかをした。
戦闘で魔法を使う訓練では主に誤射を防ぐための撃ち方を学んだりして、とてもためになる。
そんなに厳しい授業じゃないし、授業の長さも変わらないので自由時間が減らないのもありがたい。
それでも将来文官に専念したいってタイプの生徒は、足並みを揃えるだけでヒーヒー言っていたが。
だがそういうやつにとっては自衛力を鍛える機会だし、顔を広げるいい機会なのでサボりはいない。
俺からしてもいろんな生徒と組めるので、あまり話していない相手と繋がりを作れて一石二鳥だ。
……まあ残念ながら、そうは言っても人脈が広がっている実感はあまりないけどな。
この時期になるともう仲良しグループとかが結成されて、いつメンで組みがちだからだ。
俺が組んでみようと思っても、予め誰と組むか決めているやつが多いのでなかなか難しい。
一応この授業では1チーム12名で組むので、着実にいろんな生徒と組めてはいる……地道だが。
かくいう俺も、半分くらいはいつメンみたいな組み合わせになってしまっている。
違う人と組んだ方が足並みを揃える訓練にはいいし、人脈を広げるのには都合がいいのだが……。
授業開始直後に声をかけられたら、断る口実もないし元の繋がりを大事にしなければならないし。
断ると不利益しかないので仕方なく組んでいる。
皆優秀ではあるので、足を引っ張られることがないのはまだいいところと言えるだろうか。
……しかし我ながら意外だな、まさか俺に率先して声をかける人がいるとは思わなかったぞ。
特に意外だったのが、ジョレーヌが俺に声をかけてきたことだ。女子同士で組むと思っていた。
あいつは友人が多いし、俺にごまをするためにすり寄ってくるようなタイプではないしな……。
それもあって以前野営の日に組んだ男子3人とかも合わせて、いつも男女比が半々のチームだ。
周りは男子同士か女子同士で組むことが多いので若干浮いてはいるが、そこは問題ではない。
……問題は、そう。このチームの半数が埋まっているから、他の生徒と組みづらいってことだけだ。
だからもう諦めて地道に頑張ることにした、そこまで急いでやることではないしな。
さて、それはともかく。最低限の連携ができるようになるまでに、さらに数日が経過した。
時間にして2週間、このくらいしか練習していないのにAクラスの連携はなかなか様になっていた。
あと2週間で運動祭だが、すでに一部の生徒は祝勝会をどうしようかと話すほど余裕そうだ。
……流石にそこまで行くと気が早いとは思う、所詮俺たちは実戦を知らない素人集団。
実際に戦うとなったらとっさに動けなくなってしまう者もいるだろう……いや、間違いなくいる。
本物の殺気とまでは行かなくとも、優勝を目指して本気を出した相手と戦うのだからな。
ゴブリンの殺気とか初見だと俺でもほんの少しだが動揺したし、その下位互換でも戦いを知らない生徒共ではきついだろう……対策が必要だ。
……そう思ってよく考えたら、俺は旅行とか興味ないしそこまで本気を出すことはないだろうな。
まあ何故か先生も気合出しているし、残りの2週間で何かしら実戦慣れできる方法を用意するだろう。
そうなったらなんだか力抜けてきたな、程よく手を抜いて点数稼ぎ程度に頑張ることにするか。
Aクラスが勝てたら俺の成績にも好影響かもしれないが、まあ直接的に影響はないだろう。
……いや、そう考えるのは良くないな、この考えが態度に出たら先生や生徒からの心証が悪くなる。
なら俺は他の生徒の内、やる気のあるやつを俺の片手間でできる範囲で手伝ってやるとするか。
そうしたら仲良くする口実を作れて、将来の社交などで有利になれる……逆にこう考えるんだ!
よし、少しはやる気が出た……かもしれない。旅行はいらないが、貴族的に好感度は必要だ。
さて、じゃあやる気のあるやつ……は、俺に対して自主的に声をかけてくれてるわけだし。
いっちょ獣人を鍛えた経験、活かしてみるとするか。どこまで応用できるかはわからんが。
……あー……うん、まずはとりあえず、お互いを戦わせるか。今考えたら、実戦で叩きまくるくらいしか人の鍛え方なんて知らん。スパルタかよ。
だが、とりあえずでやってみるのがいいか。
何事も経験、やってみなきゃわからない。実戦で戦いたいなら実戦を実践するのみ……なんてね。




