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人を使うってこと




 図書室で俺は、今日も優雅に本を読んでいた。

 ページをぺらりぺらりとめくる音と、程よい日差しに程よく涼しい風……とても優雅だ。


 強いて残念なところを言えば、本は持ち出し厳禁なところだろうか。仕方がないことではある。

 13とちょっとのガキが本を借りて、なくさない確率は問題なく返ってくる確率より高いだろう。


 この世界の本はそこそこお高いし、学術書ともなればそこらで買える下等な奴隷よりも高い。

 ……値段の近い品と比較して、逆に価値が分かりにくくなった気がするがまあこのくらいだ。


 庶民では買うのに躊躇する程度には高いということなので、持ち出し厳禁なのも当然だ。

 俺だって本を何冊も余裕で買えるほどの貯金はないので、図書室はとてもありがたい場所だ。


 特に信憑性が低そうだったり中身が何となく微妙そうな本を気軽に読めるのはいいことだ。

 そういう本を買って、中身が本当にでたらめだったり微妙だったときは残念な気分になるからな。


 例えばこの『猿でもできる!超実戦的杖術覚書』とかいう本は、一見普通の初心者入門書だ。

 しかし、実際は違った。何故かこの本は本物の猿に杖を使わせるための方法が主題の本なのだ。


 ……猿でもできる、じゃなくって猿にさせる、の間違いじゃないのか?どちらにせよイカれた本だ。

 魔物であるバナナコングというゴリラに使わせることに成功していたり、一応面白い本ではある。


 そして一方こちらの『杖による効率的な防御魔法の運用方法』は少し期待していた本だった。

 しかし……中身は卒論未満の内容だ、さっきの猿の方がもっと上手く防御魔法を使えていた。


 そんなわけで掘り出し物もあれば、ゴミもある。

 この世界には出版社がなくって全部自費出版なので発行元も確認できないし、本を買うのは博打だ。


 なので俺は、時間があれば図書室に来ていた。

 もちろん人付き合いや自主練にも時間は使っているが、それ以外の自由時間は全て本の時間だ。


 前世ではあまり本を読まなかったが、いかんせんこの世界でできる娯楽が少ないからな。

 読書は今世では数少ない趣味でもある、前世ならゲームとか動画とかあったんだけどな……。


 実は動画という概念はあるんだが、重要な議会の記録とかが主な用途なので映画とかは存在しない。

 おおよその貴族が『舞台は肉眼で見てこそ』という考え方だし、そもそも撮影機材が高いからだ。


 いや、高いなんてものではない。

 国宝の1つになるくらいには、映像を鮮明に記録できる魔道具は貴重な代物なのだ。


 蓄音機は普通に店売りで見ることがあるが、蓄音機は貴族が奮発しないと買えないくらいお高い。

 その蓄音機もあまり人気ではないらしいし、そもそもの需要がないから供給がないのだろう。


 じゃあなぜ蓄音機があるのかといえば、多分だが蓄音機は開発が楽だったからだろうな。

 蓄音機は風魔法を応用して作られているので、風魔法使いが作ろうと思えば簡単に作れる。


 ていうか風魔法を使いこなせる上級の魔法使いや精霊は、魔道具に頼らず音を録音できる。

 ……そして逆に考えてみたら、動画撮影は録音と違って魔道具でしかできないことだな。


 風魔法が音を操るなら撮影……つまり色を操るのは光魔法だろうし、ない理由は多分これだ。

 光魔法自体がレアだし昔の勇者の影響で特別視されているし、撮影に使おうともしないのだろう。


 だから撮影魔法がなく、偶然でできたか必要だったかから作ったものしか撮影の魔道具がないと。

 ……ふむ、だったら科学的な方法で撮影できる魔道具を作ればなら売ることもできるか?


 写真は画家が頑張れば代用できるが、動画を撮るのは画家が数百人いても代用はできない。

 そして動画は絵や音と違って、動作を残して伝えることができる……用途はかなりあるだろう。


 よし、作ってみるかビデオカメラ……あー。

 ……無理っぽそうだな……今思えば、俺はビデオカメラを知っていてもその構造は知らないな。


 そこはしっかり思い出して、魔道具に応用して特許取っちゃうところだろうが……むむむ。

 そりゃまあ前世でもカメラに興味があったわけでもないし、むしろ覚えてなくて当然だが……!


 そういう物があった程度の知識では、いくら魔道具とはいえども作ることはできない。

 それでも写真を撮れる魔道具くらいは作ってみたいが……こっちもあまりイメージが浮かばない。


 俺は図書室を利用できる間に他のことも調べたいし、カメラを研究できる時間も今はあまりない。

 残念だが、この計画は保留するか……卒業後にでも研究できるように、アイデアだけはメモするが。


 使い魔を使役する魔法の応用とかで、視界共有をしたりとかはまだできるんだが……映像の保存となると、全く別の分野だしなぁ……。


 ……使い魔?……そうだ、良い手段を思い出した!正直最近覚えたことが多くって忘れかけてた。

 自分でする暇がないなら、する暇があるやつにさせればいい。例えばそう、実家の獣人とかな!


 ふふふ、3年くらい前に8人買ってもらった獣人の奴隷だが、その半分は純粋な戦闘要員だ。

 しかし残りの半分は魔道具などを作れる職人としても教育していて、それが役に立つ時が来た!


「ピラ、紙とペンをくれ。」


「はい、こちらに。」


 早速手紙に俺の考えを書いて、家にいる獣人たちに送らなければ。さて、どう書こうか……。

 まずは写真を撮りたいから、見た光景をそのまま絵にできる魔道具を作ってと伝える。


 そしてそこから、速写できるように素早く撮影できるようにさせる……というのはまだ早いか。

 だがいつかはできるように、可能な限り素早く撮影の処理をできるようにしてくれ……っと。


 そしてヒントとして、俺の知りうる限りの写真についての知識を只管書きまくろう。

 ……とは言っても、光の色がフィルムに焼き付くことで写真ができるってことしか知らないけどな。


 まあ、イラストも添えて『原案はこのような形だが変更してもいい』的な感じに書いて……。

 完成!あとは手紙を信頼できる伝手の業者に渡して、家に届いて開発してもらうだけでいい。


 人を使うとはこういうことか、少しのワクワクとソワソワを同時に味わっている。

 完成の見込みがあるし、趣味だから失敗の心配はしなくってもいいとは思うが……な。


 直接指揮を取るわけではなくあれこれやってと命令するのは、今思えば初めてかもしれん。

 普段からピラを右腕のように使っているが、それはそろそろ信頼してきた相手だし個人の話だ。


 数人を使ったプロジェクト……とも言えない何かだが、多人数への命令はなかなかに緊張する。

 だが俺は貴族なのでこういう機会は確実に増えるだろうし、慣れなければな。


 書き終えた手紙をピラに渡し、ゆっくり立ち上がって背伸びと深呼吸をして、椅子に座りなおす。

 あとは時間がすぎるのを待って、俺が育てた獣人たちが役目を果たすのを待つだけだ。


 その間にも俺は日常生活を過ごすわけだが、気が散ってしまわないかが気になって気が散りそうだ。

 そうなったら無限ループだ、考えないように考えたらむしろ逆効果……ってやつだな。


 なので俺は、また本を手にとって読み始めた。

 こういうときは他の事に集中するのが1番いい、集中し続ければいつかは忘れているだろう。


 俺は報告を待てばいいだけだし、忘れても一切問題ない。俺がするべきことは、どっしり座って待つことだけだ。それ以外は必要ない。


 こうして人に任せることに慣れたら、一流の経営者に一歩自動的に進めるだろう。

 そんなわけで、できることは全てやりましたって顔して待つ……だけだ、うん。


 人を使うのも才能がいるというのは、これに慣れることができるかどうかってことなんだろうな。

 なら俺は人を使う天才になるさ、いつかは俺も社長椅子に座って偉そうな顔をするおっさんだ。


 ……いや、偉そうな顔のおっさんじゃなくって実際に偉いおっさんだな!はっはっは……はぁ〜。

 ……早くできないかな……ムズムズするぜ……。




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