土壇場での言いくるめ
ユニコーンが現れて、ざわめく生徒達。
そんな中ユニコーンは悠然と歩き、圧倒的な存在感を放ちながら生徒達の目を見る。
驚いた生徒は目をそらしたり閉じたりして、目を合わせることができた者は非常に少なかった。
俺は、まあ、目をそらしたらなめられるだろうし頑張って目を見てやった。……怖かった。
流石は幻獣、生物としての格……存在の違いというものがありえないほど伝わってくる。
化け物を見ただけで精神崩壊するホラーゲームの主人公の気分を、身をもって分かった。
ただ、俺は怯えるだけの存在でいる気はない。
ユニコーンの動向を見て、こいつが誰を認めてどう毛を分けるのかを知るのだ。
有名な話では偽物の乙女には容赦なく角を刺して殺すが、気に入った者には非常に寛大と聞く。
つまりユニコーンは自分ルールがあるタイプの気分屋ってことだ、刺激しなければ大丈夫。
ガッツリ目を合わせていたが、危険なタイプの幻獣は目をそらしたやつから殺すと聞いたからだ。
そして即ち目をそらさなければ刺激しないか、こいつは一味違うなと後回しと判断されるかの2択!
ユニコーンは分類的には善性なので、多分前者の方で俺を認識する……と思いたい。
いやまあ幻獣については詳しくないので、専門家を呼びたいなぁ……目の前の景色忘れたい……。
……しっかりしろ俺、相手は聖獣とも呼ばれる幻獣だぞ!危険はない、はずだ。多分。そう思え。
今大事なのは、ユニコーンがどの生徒に興味を示すのか……そこが1番重要な情報だ。
今のユニコーンの視線の先は……少し左右しているが、その視線の先には女子が3人ほどいるな。
ヘルミーナ、庶民のリリー、たまに話すことはあるが詳しくは知らないやつ……全員人気者だ。
なんだろう、よく輪の中心にいるタイプだな。
ユニコーンは人気者を察知する能力でも……いやまて、そういやこいつら全員美形の方だな。
じゃあスケベ野郎な可能性もあるな……だがこの3人が気に入られそうなことはわかった。
じゃあ次は3人の反応を見るか。……ヘルミーナは無表情、リリーは笑顔、もう1人は騒いでいる。
……よく見たらリリーはかなりニヤニヤしているな、微笑みはその汚い笑顔の上に貼り付いている。
キモっ……明らかに心の清さを感じない。
俺の鑑定スキルのパッシブ効果なのか。こういう嫌な雰囲気にはそこそこ敏感なのでわかった。
ならばユニコーンは心の清さとかわからない可能性が高いな、もしくはガチで面食いかだ。
ふむふむ、では次……じゃない、ユニコーンが歩き出した。こっち側に、ゆっくりよって来る。
そして……リリーの隣に立った!
リリーは小さくガッツポーズをしてから、ユニコーンの背中に手を伸ばして撫で始めた。
よし、あとは毛をいただくだけだ。ここからが1番重要なので、慎重に動かなければ。
とは言っても、動くのはピラだ。ユニコーンがたてがみを分けた時に、便乗しちゃおう作戦だ。
内容は至極単純。ユニコーンが毛を抜いた時、同時に少し切れば気づかれ難いって作戦だ。
ピラが気づかれたら終わりなので、当然ピラには無茶をさせないように命令しておいた。
あとは待つだけ……さあ、早く毛を抜くんだ!
……その前に、リリーを背中に乗せるつもりのようだ。体を下げて、乗りやすいようにしていた。
まあ、余興を楽しんだあとの方が油断してくれるだろう。問題は動きながら毛を抜いた場合だ。
動いている相手を追いかけながら毛をバレないように切るとか、絶対に難しいやつだ。
しかも俺にはどうにもできない、歯がゆいな。
……リリーを乗せたユニコーンに羽む……妖精達が集まって、魔力をキラキラ輝かせている。
今回の妖精の光は肉眼でも見える強さで、生徒達から見たら幻想的な光景に見えるだろう。
だが俺は、幻想的には感じられない。
『ウェ~イ!そのナオンマジマブいねぇ~!』
『お前の連れ?ちょっ、ウケる(笑)』
『黙れ下等妖精ども、吾輩はこれからおデートするのだ。貴様らは照明に徹していろ。』
妖精が何やら変に動いていたので、こっそり鑑定で聞き耳?を立てていたら案の定だったからだ。
やはり演出だった、しかもユニコーンがおデートとか言ってやがる。手短に頼むぞ……。
『へいへい……ッ!?ちょ、パイセン、あの女!』
『今度は何だ、いい加げ……ん……ッ!!』
今度は何だとは俺が言いたい。
んで、ユニコーンが向いた方向……は……なんかこっち向いてない?俺の背後にいるやつ見てんの?
俺の背後……の木の背後に、ヤバッとでも言いたげな表情のジョレーヌが隠れているな。
何やってんだこいつ。
『その気配!まさか邪神の信者がここに来るとはな、吾輩が直々に貴様の魂を成敗してくれよう!』
ほーん、邪神……そういえばジョレーヌ、邪神にはた迷惑なスキルを付与されているんだっけな?
入学式に鑑定で見ちゃったあれのせいで、ユニコーンに誤解されちゃってんね~可哀想〜……。
……いやいやいやいや!?待て!射線上に俺がいるから待って!そんな角をピカピカさせるなって!
クソっ、あいつが歩き回ったせいで距離が近い!横へジャンプして回避……ガキどもが邪魔ァ!
モタモタ歩くなカスどもが!クッ、もういつ攻撃に巻き込まれるか、わかったものではない……!
こうなったらやるしかない、土壇場でできるかわからないが……魔力を使って、対話をする!
「こほんっ、うえっ『ほん……っ!』
よし。妖精たちっぽく、耳では聞こえない声が出せた!俺が思った通りに、妖精達の会話は魔力を使って行っているようだな。
『失礼します、どうかお待ち下さい!』
『むっ、貴様……妖精使いか?ならば聞いていただろう、その邪神に魅入られた人間の前からどけ。』
よし、興味を引けたなら上々だ。あとは適当にお礼を言って、そそくさと逃げれば問題なし!
……いや、それよりも良さそうな案があった。
『ええ、その件についてなのですが……彼女は実のところ、邪神の信者ではありません。むしろ哀れにも邪神に呪われた者なのですよ。』
『戯言を……貴様はその人間に騙されている。これほどまでに邪悪な気配が、哀れな者に存在するか?』
そう、妖精は鑑定でも『善人でなければ声を聞くことも難しいとされる』と書かれていた。
そして俺は明らかにまだ13歳のガキ!先程の対応からも、余裕で説得できる可能性がある。
『彼女が邪教徒ならばこの森に来るのはリスクが高すぎます、例え使い捨ての偵察でも逆にこんな邪悪なオーラを纏える者を使い捨てにしますか?』
『むっ、むぅ……だが愚劣な邪教徒どもがこの人間が持つ力を、見誤っているのかもしれんぞ?』
『その可能性も低いでしょう。そもそも彼女はブブズズ王国王太子の婚約者ですので、オーラ抜きにしても使い捨てにするには利用価値が高すぎます。』
『むっ、むむっ!……確かに、そうだ。貴様の言う通りだな、すまなかった。』
チョロいユニコーンはそう言って、大人しく殺気を消した。ふふふ、完全勝利……。
情報の裏取りもせず、簡単に言いくるめられるだなんて、俺が邪教徒だったらどうするのさ。
『迷惑をかけたな、詫びの品として吾輩のたてがみをわけよう。杖や御守の素材に最適だが、年に一度しか取れない貴重品だぞ。不足はあるまい。』
しかも、毛までくれた!ユニコーンさん太っ腹!
流石は騙される伝承が何個もある幻獣、チョロさが神話レベルで桁違いだ。
『お心遣い、感謝いたします。』
『礼は不要だ。……ああ、ごめんねお嬢ちゃん、吾輩ちょっと疲れちゃったからおデートはできなくなっちゃったぁ〜ごめんねぇ~?』
そしてユニコーンはジョレーヌに目も向けず、いつの間にかおろしていたリリーに気持ちの悪い猫撫で声で話しかけてから、去っていった。
「……おお!アルベルトフォンスが、ユニコーンからたてがみをわけてもらってるぞ!」
「う、うぉおお!?す、すげぇー、え?」
状況が飲み込めていない生徒達は沸き立ち、ジョレーヌとリリーは唖然として、その真ん中で俺はユニコーンのたてがみをしっかり握った。
この探索は、大成功だと言えるだろう。
レアな植物も、ユニコーンのたてがみもどっちも手に入れた。しかもいい方向性で注目を集めた!
ユニコーンからたてがみをわけてもらえた事実は俺の評価を上げて、コネ作りの役に立つ。
俺は生徒達の質問攻めをされて、しかしそれでもいい気分でいられた。




