不思議な森とユニコーンとの遭遇
朝テントで起きたあと、水うがいをして着替えを済ませた。寝るときはパジャマだったからな。
ちなみに夜中は従者たちが交代で寝ずの番をしていたので、流石に全員一斉に寝てはいない。
……そこはともかく、まだ皆起きていないし森の中へ行くまで待つのがだいぶ暇になりそうだ。
一応、今のうちに片付けでもするか。
「ピラ、テントを片付けてくれ。」
「はい、かしこまりました。」
俺が命令した瞬間にテントは影に飲み込まれ、かわりに俺のリュックだけがそこに残っていた。
設営は頑張ったが、回収の方は先生も見ていないしこうやって一瞬でしまってしまう方が楽だ。
で、だ。あとは森の中で戦闘が発生する可能性を考えて、リュックとポーチの整理でもするか。
戦闘用に使っているポーチの、取り出しやすいところから火を出す魔道具をどかしたりして……。
……よし、これで問題ないかな?
皆も起きて着替えたりしたし、あとは先生が出発の合図を出すのを待つだけだ。
「皆さん!これから森の中に入りますが、念のために森で気をつけるべきことを再確認します!まず、火魔法は使用しないこと!次に、森の中の生き物を刺激しすぎないこと!そして最後に、ゴミを森の中で捨てないこと!皆さん、覚えてましたよね?」
先生の言葉に、生徒全員が頷く。
火魔法は火事対策、残り2つは森の妖精などを怒らせないために守るべきルールだ。
「では、早速出発しましょう!えい、えい、おー!」
べらぼうにテンションが高い先生についていくように、俺たちは森の中へと入っていった。
森の中は爽やかな風が穏やかに吹いていて、その風に乗るように小さな光の玉が飛んでいた。
その玉は本当にうっすらとしか見えないが、どうやら小さな羽があるし虫の1種かな?
しかしまあ、他の生徒もこの羽虫よりも周りの奇妙な植物などに興味津々のようだ。
確かにここの植物は、珍しい種が多い。
【植物/マジカルマッシュルーム
虹色の傘が特徴の、珍しい魔法菌糸類。
摂取した者のマナを回復させる効能があるが、過激摂取すると幻覚を見てしまう作用がある。】
レアな植物を鑑定しようとしてきのこを見るのも変だが、この世界では植物だからセーフだ。
……まあともかく、後ほど自宅とかで栽培するためにも少しいただくとしよう。
それで、次は……この花も良さそうだな。
【植物/妖精の止まり花
カラフルでしっかりとした花弁が特徴の珍しい花。傷薬としては平均以上の効能がある。
妖精が休むときにこれの花弁の上で休む場合が多いことから、妖精の止まり花と名付けられた。】
これは絵本の挿絵とかではよく見かけるが、なかなか実物をお目にかかれる機会がない花だ。
噂では蜜が甘いらしいのだが、本当かどうか一度味わってみよう……と、思っていたが。
花の上にさっきの羽虫が乗ってしまったな。
もしこれが毒のある羽虫なら、それが集まる花の蜜をいただくのはあまり安全じゃないだろう。
……どれ、ここは一旦鑑定でもするか。
【魔物/花の妖精
状態/平常
妖精の中でも最もメジャーな妖精。
その姿は純真無垢な者にしか見えず、善人じゃなければ声を聞くことも難しいと言われている。
レアスキル/妖精の悪戯】
虫じゃなくって、妖精だったのか!
なるほど、これが妖精か……俺の目には、マナの濃度がとても濃い羽虫にしか見えないんだがな。
ふむ、おそらくは魔眼の影響だろうか。パッシブ効果でマナが見えるから、見えるのだろう。
妖精の声とかは聞こえないし、俺が妖精的に純真無垢だからってわけではないだろうな。
……鑑定を使えば、声もきこえたりするのか?
『……aジうけるっしょ?あのときの密猟者の顔ったらすんげぇ無様でさぁ!思い出してまたうける~!』
『ギャハハ!そいつ尾行したんでしょ?今度そいつの隠れ家めちゃくちゃにしてやろうぜェ!』
声は聞こえないが、なんと海外映画の字幕版みたいな字幕が出てきた。鑑定って、万能だな。
しかしそれにしても妖精っていうのは、想像以上にチンピラっぽい喋り方なんだな……。
本当に映画の三下みたいな口調だ。
『……おい。あの人間、俺らの方見てねぇか?』
『は、え?……ホンマ?さっきの殺気のやつ?』
む、流石にジロジロ見すぎたか。
……ここで妖精と話したら変な独り言みたいになるだろうし、見えてないフリでもするか。
「んー……これの蜜、本当に甘いのか……?」
『なぁんだ、ビビらせやがって。俺らの乗ってる花を見とっただけじゃないか!』
『えー、そうなん?……まあ、こんなむっつりした顔のやつが妖精を見れるわけねぇか!ガハハ!』
とりあえず花の蜜を舐めてみると、確かにそこそこ甘かった。だが、蜂蜜よりは甘くないな。
やんちゃなガキがストローですするのがお似合いな程度の品質だ、俺には不要だな。
……さて、微妙にうざい妖精を無視したら今度は別の植物でも採取しに行くか。
さっきまで虫だと思っていたものがチンピラだと知ってげんなりしているが、探索は続けたい。
「アルベルトフォンス君、今の見たか!?」
「っ!?……何を見たって?」
そういえば忘れていたが、あの3人組も一緒にいるんだったな……妖精を無視してて本当によかった。
「ほら、なんというか……すごいでかい鳥が飛んで行ったんだよ!すげぇ迫力だったな~……!」
「鳥?……ふむ、あの羽毛の持ち主か。」
妖精を見ているところは見られてなかったようなので、平常心を保って話に付き合ってやらぬば。
……この羽毛は知っている、火喰鳥か。
【素材/火喰鳥の羽毛
火喰鳥の大きな羽毛。
火を食べる生態を持つ火喰鳥は、魔法の火さえも受けつけない羽毛で全身を覆っている。
この羽毛を使って作った道具や装備はそれそのものだけでなく、使用者にも強力な火耐性を与える。】
これはラッキーだ、火喰鳥は強力な魔物なので戦わずに素材を入手できるのはとても素晴らしい。
バカ3人にはこの羽毛の価値は理解できまい、ありがたく俺のポッケにナイナイさせてもらおう。
「おっ、おぉおお!?おい、見ろよあれ!」
「……今度は何、だっ!?」
俺がえっと……まあこいつに声をかけられて振り向くと、そこにはなんと……ユニコーンがいた。
ユニコーン……!清純で美しい心の乙女を好み、邪悪を許さないという伝説の幻獣……!
簡単に会えるとは思ってはいたが、実物を見るとその圧倒的な存在感に息を呑まずにはいられない。
……こいつから、毛を分けてもらえるのか?
いや、無理そうだ……くっ、ピラを囮にこっそり毛を取るとか……できるか、そんなこと……?
ええい、尻込みするなよ、俺!きっとユニコーンのマナの量が多いから、少し怯んだだけだ!
一旦落ち着こう……落ち着いて考えよう。
ユニコーンの毛は、魔道具の素材として最上級の素材だ。俺はそれを、少しでも手に入れればいい!
そのための手段を考えればいい……。
……そうだ、いい方法があるじゃないか!ユニコーンは乙女を好むのだから、それを利用すればいい!
そう思って俺は、ゆっくり待つことにした。
騒ぎを聞いて来た、女子生徒の誰かが清純で美しい心の持ち主である可能性に賭けながらな!




