火を囲う踊り
野営地に似つかわしくないパーティーが始まり、皆が思い思いに談笑や食事を楽しんでいた。
俺も人脈を広げるために、このパーティーに乗じて話しかけたことのない人と話そうとした。
……だが、それがなかなか難しい。すでに仲の良い者同士で楽しみたい人も多いからだ。
俺のところにも少々仲のいいクラスメイトが話しかけに来ていて、あんまり暇がなかった。
野営に合わせた話題以外にも、普段と変わりない雑談やら先日のお礼だとか……とにかく忙しい。
適用な返事をすると後ほど苦労することになると簡単に予測できるから、全然手を抜けない。
「アルベルトフォンス様、明日の探索が楽しみですね!その時はぜひ私達のグループと……。」
「それでしたら、私も明日の探索ではアルベルトフォンス様にお供させていただきたいですわ!」
特に格下共からの明日の予約を、穏便に断ることが1番面倒だった。尾を引かせるのは嫌だからな。
もう少し家柄や立場が高ければいいのだが、少し成績がいいだけの男爵子女に構う暇はない。
地位目当てのくせに対価も差し出せない雑魚は、処刑したいくらい鬱陶しい。貴族社会で生きる上で発生する、ある種の有名税だから我慢するがな。
「あのっ、アルベルトフォンス様……私は、婚約者をダンスに誘いたいのですが……どうしても勇気が出なくて……どうか、助言をいただけませんか?」
「ふむ、それなら今すぐ誘いに行きたまえ。当然、君の婚約者が会話をしているところを遮るのはいけないが……そうでなければ、受け入れてくれるだろう。さあ早く、無駄にできる時間はないぞ?」
「は、はい!アルベルトフォンス様、私に助言をくださり、ありがとうございます!」
このくらい答えが出しやすい話なら、秒で解決できるからマシだ。……いや、どっちみち嫌だが。
なんで俺に恋愛相談なんかするんだ……他の女子に相談しろよ……今日はこれで4人目だぞ?
あれか?普段から女子ばかりと仲良くしたせいで、チョロいやつとでも思われてるのか?
それともまさか、女子と仲良くしている男子が俺だけだから俺が男子代表になってしまったのか?
不甲斐ない、不甲斐ないぞ野郎共……。もっと女子と絡んで、俺の労力を減らしてくれ。
というかそれより俺に話しかけてくれ!それでこの無限に続く雑談地獄から、解放しろ!
最先端ファッションの話とか、流行りの詩の話とかは今じゃなくってもできるだろ!後日にしろ!
はぁ……このままでは、今回の野営訓練を利用した新しい人脈づくりは失敗しそうだ。
「こんばんは、ご機嫌のほどはいかがでしょうか?アルベルトフォンス様。」
「ん?ヘルミーナか。程よく楽しめているよ。」
そんなとき、ヘルミーナが挨拶をしてきた。よく話す仲だし、とても親しげに話しかけてくる。
……そうだ、いいことを閃いたぞ……!
「私は皆と野営するという経験を共有できて、それだけでもこの野営に来た甲斐があると思っているよ。君の方は楽しめているかい?」
「ええ、もちろん私も楽しめています。お友達と温かい焚き火を囲みながら料理をいただくのは、いつもとは違った雰囲気で高揚感を感じますわ。」
「ははは、そうか。予定によるとこのあと皆で踊る時間があるらしいが、そちらも楽しみだな。」
「ええ、私もとても楽しみにしております。」
表情は……あまり変わらない笑顔だ。流石は侯爵令嬢、心を読むのには魔眼が必要だろう。
だがそれだけの格だからこそ、いいのだ。
「しかし踊りを楽しむためには、素敵なパートナーとなってくれるレディがいるべきだ。そして私のパートナーとして1番ふさわしいレディは……やはり貴女だろう。私と踊ってくれるか?ヘルミーナ。」
ヘルミーナにずいっと近寄り、壁ドンとかはできないができるだけ格好つけて踊りに誘う。
するとヘルミーナではなく、周りの女子がキャーキャーと声を上げる。クククッ……計算通り!
少なくともブサイクではない俺が、女子グループの中でも高ランクの女子を誘うとどうなる?
そう、このように女子側が断りづらい雰囲気を完成させるのだ!臭い台詞があれば、尚更な。
「……ええ、喜んでお受けいたします。」
ヘルミーナも内心はわからんが、にっこりとほほえみながら誘いを了承するしかないのだ。
特にヘルミーナは現在婚約者がおらず、好いてる相手もいないのは知っているからな。
そして、俺がヘルミーナを誘ったのは好きだからではない。周りが俺に話しかけづらい雰囲気を作るのためだ。そのためだけに誘った。
そろそろダンスの時間になるからな……ダンス相手がいない勢が、ダンス相手がいる勢である俺に話しかけるのを遠慮し始めるってわけだ。
そんで1曲ダンスしたら何か理由をつけて2曲目を断り、俺は晴れて自由の身になるって作戦だ。
クククッ、完璧だ……!欠点といえば、次からこの手は使いづらいってことくらいだな。
さて。先生が見たことない位いい笑顔で、魔道蓄音機を取り出し音楽を流す準備をしていた。
では俺もヘルミーナの手をそっと手に取り、1番大きな……というかバカでかい焚き火に行くか。
「アルベルトフォンス様、どうか優しいリードをお願いいたしますね?」
「君が楽しく踊れることを保証しよう。」
……音楽が始まると同時に俺はヘルミーナに手を差し出して、ヘルミーナがその手を取る。
そうしたら、ダンスの始まりだ。今回の曲は穏やかな曲なので、適当に動いても良さそうだ。
3歩進んで、ナチュラルスピンターン……。
3歩進んで、リバースナチュラルスピンターン。
予備歩多めでゆっくりとした、お遊戯会じみたステップだから当然ヘルミーナはついてこれる。
だがこれはヘルミーナの足を知るためのステップであり、当然これだけを続けるわけではない。
今度はクイックオープンリバースなどの、軽やかな動きも増やして踊る。
ヘルミーナも俺の計算通りに、ちゃんとなめらかな動きのダンスについてこれていた。
「私のリードは、いかがかな?」
「まるで羽になったかのように、軽やかな気分ですわ。……どんな魔法を使ったのですか?」
「ふふ、魔法は使っていないとも。君が私を信じてくれているから、綺麗に踊れているだけさ。」
これも、いつかこういう日が来ると思ってピラを使った練習をしたおかげだ。
それに加えて訓練した魔眼のパッシブ効果で、動きが少し見えるのもこのダンスの秘訣だ。
「……さて、1曲目が終わったな。最後の方で大きめに動いたし、君はもう疲れただろう。休むか?」
「ふふ、お気遣いありがとうございます。ですが私は疲れていませんので、もう1曲踊りませんか?」
「……もう1曲誘っていただけるとは、光栄だ。もちろん喜んで、君と踊らせていただこう。」
……ふむ、できるだけ1回のダンスで疲労させ、それを口実に自由を得る計画だったのだがな。
まあいい、ここで断るのも外聞が悪いし……次のダンスはもっとアップテンポで踊ってやろう。
……そしてなんだかんだ、最後の1曲まで踊りに付き合う羽目になってしまった。侮っていた……。
仮にもヘルミーナはAクラスの上位成績、身体能力も当然ながら高いとは簡単に予測できたのに!
「ふぅ……とても楽しいダンスでした、アルベルトフォンス様。お兄様と踊ったときもこんなに長く、そして鮮やかに踊れたことはありませんわ。」
「そう言ってもらえたのなら、リードした甲斐があるというもの。楽しかったよ、ヘルミーナ。」
くそっ、もうパーティーはお開きになり、片付けの時間になってしまった。俺の人脈が……!
途中でヤケクソになって高難易度のステップをしまくったら、変に目立って拍手されたし……。
なんでランニングウィーブやスリップピボットを連発したのに、余裕でついて来れるんだ?
音楽のリズムを超えないようにしたり、転倒に気をつけたからいけないとでも言うのか……!?
若干の敗北感さえ感じるぞ……ええい、仕方ない。この野営の本題は明日だ、切り替えよう!
俺はさっさとゴミを片付けて、テントに戻ってふて寝をするかのように眠りについた。
明日、ユニコーンに会えるだろうか?ピラがいたら素材を分けたりしてもらえるかな……。
いや、どうだろう……まあ、楽しみにしとくか。




