野営ではなくBBQパーティーでは?
野営中でも、貴族の食事は美味しい。
なぜなら俺の買った塩漬け肉や乾パンは、しっかりと美味しく調理されているからだ。
上質な肉を使ったり、料理のスキルを持つ料理人が時間をかけて作ったから不味いはずがない。
その分お高いが、貴族からしたらスーパーマーケットで気軽に買える駄菓子のような値段だ。
だから俺は、全員に3日分の食料を持たせた。
今回の授業は一泊二日なので、必要分よりも1日半くらい多めに準備していることになるな。
多分余分な荷物になって終わるだろうし、その方がありがたいが……当然、万が一の備えだ。
遭難した場合、まともな飯……いや、まともじゃない飯にすらありつけるかどうかわからない。
なので塩漬け肉などの食料は、日持ちすることもあって余分に持つこんでも損はない。
それに万が一がなく余ったら、おやつ代わりにでも食べておけばいい。本当に無駄がでない。
……まあともかく、俺たちは昼ごはんを食べた。
そしてその昼ごはんの味に文句を言うやつは、喜ばしいことに誰もいなかった。
貴族育ちの坊ちゃんが突然クオリティの低いものを口にしたら、文句の1つは出ると思っていた。
だが嫌そうな表情にもなっていないし、士気低下を気にしなくとも良さそうだ。
……ふぅ、ごちそうさま。そこそこのボリュームではあるが、食べごたえはしっかりとあった。
肉もパンも硬かったからよく噛む必要があり、よく噛むことで満腹感を感じることができる。
そして食後はピラに歯磨きをしてもらってから、他の生徒が食事を終えるまでゆっくり待つ。
歯磨き中にチラチラ見られたが、歯磨きが終わって以降は何事もなくのんびりできた。
……しばらくピラに膝枕をしてもらいながら休んでいたら、突然ピーッ!と笛の高い音が鳴った。
音のした方向を見るとどうやら先生が笛を吹いたようで、手を挙げて注目を集めていた。
「皆さん!食事を食べ終わって、食器等の片付けは終わりましたか?まだ食べ終えてない、片付けできていない方はいらっしゃいますか?」
その声につられて周囲を見渡すと、すでに全生徒が片付けも終わらせてくつろいでいた。
「……それでは各グループ2名を偵察班、残る2名を待機班として選出してください!偵察班は私と妖精の森へ偵察しに行き、待機班はその間にこのマニュアル通り夜を越すための準備をする班ですよ!」
そう言って先生が出したマニュアル……というか紙が、各グループに飛んでいって配られた。
それに書いてあることによると、待機班は焚き火とか先生の持ってきた食材を夕方以降のレクリエーションに向けて準備をする仕事があるらしい。
ふむ、それで……偵察班は先行して森の様子を見に行く、文字通り偵察の練習をする班らしい。
なるほど。実際に軍などで行動する場合は、仮拠点を建ててから偵察させる方法もあるだろう。
グループの中から2人ずつという分け方の意図はわからないが、班分けする理由の方はわかった。
だったら俺は、偵察よりも行動の結果が見えやすい待機班の方に志願することにしよう。
「3人はどちらの班に行きたいか、選んだか?」
「もちろん!」
俺が聞くと3人とも頷き、返事をした。
「そうか、じゃあとりあえず言おうか。……私は待機班を選択したいと思っている。」
「俺は偵察班がいい!」
「僕は偵察班に行きたい!」
「俺、偵察班!」
……被ってるな。まあそれも想定内だ。
4人もいて選んだ班がちょうど半分ずつに分かれる確率は、そう高くはないだろうからな。
「「「……。」」」
「では、被りを解消するために……くじ引きでもするか?くじは私が作ってやろう。どうだ?」
「……恨みっこなしだからな!」
「当然!……アルベルトフォンス君、くじをお願い!」
よし、さっさと終わらせよう。くじは適当に拾った小石の裏に、インクで印を書けば完成だ。
この3つの小石を選ばせて、印のある小石を選んだやつが待機班になる……完全に運任せの決め方だ。
「うーん……俺は最後に残ったやつで。」
「いいの?じゃあ僕が先に選んじゃおっと!」
「あっ、狙ってたやつ取られた!じゃあこっち!」
3人とも小石を選び、恐る恐る裏を見て……。
印付きの小石を選んでしまったのは、ニコライスのようだった。とても悔しがっている。
「くぅ~!偵察の方に行きたかった!……だけど、くじ引きだし……仕方ない、2人とも行ってきな!」
「おう!悪いな、行ってくるぜ!」
……いや、別に明日行けるんだし、そんな悔しがる必要性も必然性もないと思うんだが。
2人が偵察に向かってから、ニコライスに悔しがっていた理由でも聞くとするか。
先生が生徒たちを連れて森へ向かったあと、俺たちは指示通りにパーティーの準備をした。
……先生は夜を越す準備と言っていたが、大きすぎるキャンプファイヤーやバーベキューセットを用意するのを夜に備えるとは言えまい。
まあ、先生の持ってきた鞄の中身を並べるだけだから楽な作業だ。量は少し多いが、それだけだ。
鞄より大きなものが出てきたときには生徒たちも驚いていたが、外見よりも多く荷物が入る鞄はレアだが有名なので皆すぐ受け入れていた。
さて、ちょうどいいタイミングが来たので、ニコライスに偵察班が良かった理由を聞くか。
共同作業をしたし、その間に少しずつ雑談もしたので聞くタイミングとしては最高クラスだろう。
「……これで準備完了かな?余裕だったな!」
「ああ。……君、偵察班か待機班を選ぶとき、偵察班になれなくて悔しがっていただろう?何故偵察班になりたかったか、聞いてもいいかな?」
「ん?そりゃあ、やっぱ早く森に入ってみたいじゃん?それに今だから言うけど、待機班ってやることがつまんなそうだったからな。」
……コメントに困るほど、子供っぽい理由だ。
偵察班が何かメリットがあるわけでもなく、ただ単純に気分の問題か……聞く必要なかったな。
「ま、結局やることはすぐ終わって暇になっちゃったしな……みんな何時ごろ戻ってくるんだ?」
「暇を楽しむのは、努力したものの特権だ。……だが、君が暇なら暇つぶしに付き合ってやろう。」
「さては、アルベルトフォンスも暇なんだな!じゃあ作業中みたいに、適当に何か話すか!」
「ふむ、では最新式の魔法陣の是非でも問うか?」
「いや、あぁー……お手柔らかに頼むぞ?」
まだ火をつけていない焚き火の横で、俺たちは夕方近くまでそこそこ楽しく話し合った。
魔道具の話も香水の話もウケが悪かったが、途中で魔物の生態調査の話をしたらまあまあウケた。
……あまりウケない話題を連続で出したときの、リカバリー方法を考えなければな。
ウケない話をしないというのも大事だが、一見では何がウケるのかもわからない。
……結局コミュ力の向上をできないまま、戻ってきた先生と偵察班たちを迎えることになった。
そして大きなキャンプファイヤーを点火して、野営というには豪華すぎるパーティーが始まった。




