ただテントを設営するだけ
さて……これからテントを設営するわけだが、まず場所を選ぶところから始めなければならない。
森は近いが先生が指定した場所は草原なので、風には気をつけたいところだが……どれどれ。
ふむ……地面はいい感じに平らな場所と、少し斜めになっている場所があるみたいだな。
雨が降ったときを考えたら、できれば凹んだ場所とかは選びたくない……なら、ここでいいか。
場所を決めたらまずテントを広げる。今回選んだテントは床が幕と一緒だから、設営が少し楽だ。
テントを広げたら、周囲にある輪っかにペグ……細いL字の杭を通して、ハンマーで地面に固定する。
近代的でなおかつ単純な仕組みのテントなので、ここまでは簡単……なのだが。
「少し失礼する。……君、テントの入口が風下を向くようにしたまえ。そうしないと入口に風が入り、場合によっては雨で濡れることになるぞ。」
「えっ、そうだったんだ!……うわ~、ペグ引っこ抜くの面倒そうだな……。」
やはりテントを設営したことがないやつはいて、初っ端から少し手伝ってやる羽目になった。
ちなみにペグはハンマーの後ろ側にある突起に引っ掛けて引っ張れば、意外と簡単に抜ける。
……よいしょっ、と。腕だけでなく膝を伸したりして全身を使うと、いい感じに抜ける。
このとき無理に引っ張らず、予めペグを軽く叩いて少し緩ませるとか……実演して教えてやった。
すると、ちゃんとペグを引っこ抜けるようになっていた。教えたらできるのは、助かる。
だがこうやっていちいち直したり教えたりするのは流石に面倒だ。……他のやつは大丈夫か?
俺が最初に声かけたやつ、本当に名前が思い出せないなあいつ……まあいい、とりあえず、あいつ。
あいつは自身の従者に教えてもらいながらやっているようだ。ちゃんと設営できていて、何よりだ。
「えーっと……確かこの紐を引っ張って伸ばして、その先の輪っかに杭を刺すんだっけ?」
「違います、ウーツカス様。まだロープを張るのではなく、先に下を固定して……待ってください、まずは入口付近から先に……ウーツカス様!」
……うん、ちゃんと設営できていて、何よりだ!
でだ!太っているやつ、名前がなんか覚えやすかったニコライス。あいつはどうだろうか。
「ここ、流石に土が緩すぎるな……少しずらすぞ!」
「はい、東側にしますか?」
「そっちはテントが近くないし、そうするか。」
すごく手際がいい、できるデブだと俺は信じていたぞ!従者も手慣れていて、信頼関係が見える。
軍事的な野営ではなくとも、友達とキャンプしてマシュマロを焼いたのは伊達じゃないようだ。
よし。じゃあ俺はさっさとテント設営して、主従ともに不甲斐ないやつを手助けすればいいな。
……というか俺の分のテントはピラに任せて、さっさと手伝いに行ってしまった方が楽だな。
というわけでピラに俺のテントを任せて早速手伝いに向かったら、不甲斐なさすぎるこいつはテントの中に入ってもぞもぞしていた。
「……作業の進捗状況はどうだ?」
「んん、今ポールを取り付けようとしてるんだけれども……つける位置が分からなくなっちゃって。」
「……まあ、その様子だとそうだろうな。……このポールは中央につけるのだから、従者に外から頂点を持ち上げさせれば楽に位置がわかる。」
というかそもそも従者が棒立ちして見ているだけになっているのは、とても時間がもったいない。
「あっ……それもそうだな。……おい、手伝え!」
「っ、はい!かしこまりました!」
……従者が命令されて、ようやく動く。この従者の自主性のなさは、見た感じ育成環境が原因かな?
普段より乱暴な声の出し方で命令されてたし、普段から下手な使い方しかしていないのだろう。
いかん、いかんぞ……俺は奴隷しか使ってないから勝手が違うのかもしれないが、これはだめだ。
一応従者や奴隷だって生き物だ、志気という作業効率や信頼性の観点から無視し難いものがある。
高圧的だったり、ミスを許さない雰囲気を普段から続けて出すと、志気を低下させてしまう。
誰だって嫌なやつと一緒にいたくはないし、命令されても手を抜きたくなるものだろう。
そんな可能性があるだけで、あまり迂闊に扱うというのは危険だが……問題はそれだけではない。
さらに度が過ぎると、自分の命を捨ててでも恨みを晴らすことさえ考えてしまうかもしれない。
人間の心や考える力、自主性というものはとても面倒で理解できず制御が難しいものだ。
だがただの道具と違って、自主性が最初っからあるからこそ、人間は便利に使えるのだ。
普段から主のために動けるように教育や調教をしていた方が、よっぽど効率的だろう。
忠誠心があれば命令を遂行する志気が高まり、自主的に行動できれば命令がないときにも動ける。
何も特別な訓練をせずとも、日常的に考える癖をつけただけでも頭空っぽなやつよりは使える。
だから俺は奴隷が手持ち無沙汰になっても動けるように、様々な状況を想定したマニュアルを……。
「アルベルトフォンス君!この部品はどうすんの?」
……いかん、思考が脱線しすぎたな。少し気になることがあると注意力が減るのは、悪い癖だ。
こんなことを教えてやる義理もないし、さっさとテントを設営させることに集中しよう。
このテントの大黒柱的なポールを真ん中に設置させたから、入口用のポールも設置させて……。
最後にテントのロープを伸ばして、ペグで固定させれば……ベルテントの完成だ。
ポールの数が少ないので、楽な作業だった。しかも楽なだけではなく、ちゃんと作りも丈夫だ。
そして通気口が上の方にあるなど、快適さもバッチリなテントだ。俺の選択は間違わなかったな。
さて、これで俺のグループは全員テントを用意できたな。しかし周りを見てみると、どうやら半分くらいしかまだテントを設営できていないようだ。
時間が余ったので暇になりそうだったが、先生曰く次の行動は昼ごはんの準備の予定らしい。
ならばちょうどいいので、俺たちは先に昼ごはんの仕込みをすることにした。
魔法を使って水を用意したり、携帯型コンロの魔導具を出したり……できることはやっておこう。
どうせ俺は料理したことがないやつに、料理の仕方を教える羽目になるからな……。
……いや、そこまで面倒見る必要はないのか?
協調性や指導力をアピールするのに必要な行動ではあるが、そもそもアピールの必要性は……。
むむむっ……まあいい、教えるか……。
人にものを教えて、それがうまくいけば対象から好感を稼げるだろうし……その方がいいだろう。
……一応料理の仕方とかを知りたいかどうか、本人に聞いてから教えることにするか。
無理に教えるなんて、絶対に面倒だからな。




