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始まる野営訓練




「皆さん、私とはぐれないように気をつけてついてきてくださいね!では、出発しましょう!」


 今までにないくらいウキウキな先生が、大きな旗を持ちながら生徒の前を歩いて先導している。

 そして生徒たちと一部生徒の従者たちが、それぞれリュックなどを装備して先生についていく。


 ありがたいことに、この授業も従者が参加できる授業だった。というかこの学校では、おおよその授業に従者が参加できるようになっているようだ。


 テストのときもそうだったが、貴族の実力にはうまく部下を使える手腕も含むという方針らしい。

 従者の大半が主と同年齢なので彼らも未熟なので生徒みたいなものだ、という考え方もあるかな?


 ともかく、ピラが同行できるのは好都合だ。ピラは森で素材を採取するときに、とても役に立つ。

 俺より多い知識、影に物を収納できる能力……どちらも常に世話になっている、必須要素だ。


 それに筋力も体力もあるので、俺の背負う予定だったリュックを変わりに背負わせることができるのはとても素晴らしい。お陰で楽ができる。


 強いてピラを連れ歩く欠点を言うならば、少し目立ちやすいといったところくらいなものだ。

 まだ13歳半ばなのに5フィート7インチ……メートルだと170cmの高身長だ、周りよりも頭1つデカい。


 しかも俺が面倒くさがって、支給している防具が作り慣れたメイド服なのでさらに目立つ。

 どうせなら全身鎧でも用意すればよかったな、と少し思った。肌の色も隠せるし……。


 今は感情を抑えてもらっているので髪は燃えていないが、全身鎧なら髪も隠せて違和感もない。

 だが鎧は作るのが面倒だし……どうしてもというときには影に隠せばいいし、まあいいか。


 今は関係のないことだ。俺がするべきことは、目的地まで歩き続ける……それだけだ。

 森の近くまで移動する間、少々暇ではあるがそう遠くはないようだしすぐ到着できそうだし……。


 まあ楽に終わる、お散歩みたいなものだ。




 さっきまで、俺はそう思っていた。

 ……それは、2時間ほど歩いた頃だった。


「あ、アルベルト、フォンス君……荷物持ってないとはいえ、よく、そんな……体力あるんだね?」


「君たちが体力不足なだけだ。」


 Aクラスの半分以上が、息切れし始めていた。

 これは……半分くらいは予想できていたが、それでも予想より学生たちが貧弱だった。


 しかも先生は生徒が息切れしているのを確認した上で、歩く速度を全く遅くしていないのだ。

 マジで人知れず脱落するやつが出そうだな……俺のグループで脱落されるのは、非常に困る。


「……歩きながらでも、水は飲めるだろう?私が用意させた経口補水液を、各自飲みたまえ。」


「あ、ああ!そうだな、確かに渡されてたな……。ヘンリー、水筒を俺のリュックから出してくれ。」


「はい、かしこまりました!」


 俺が指示を出したら、……ショウだったかな?彼が自分の荷物から、水筒を取り出して飲んだ。

 水筒の中身は経口補水液だが、ただ塩と砂糖を混ぜただけのものではない。俺の特別レシピだ。


 塩、みかん、兵隊豆、叫び人参を混ぜたのだ。塩とみかんは言わずもがなだが、残り2つが特徴だ。

 兵隊豆は水分補給の補助、叫び人参は疲労回復の効果があるとても健康的な野菜だ。しかも美味。


 ちなみに兵隊豆も叫び人参も植物なのだが、どちらも人間に襲いかかってくる危険な植物だ。

 つまり供給が少ないということで、結構割高な食材だった。お陰で予算の1割がなくなった。


 だが効果は抜群だ、3人とも忽ち元気になった。

 このレシピは実家の獣人たちで実験して作ったので、まあ当然とも言えるがな。


「ぷはぁっ!……少し楽になってきた!アルベルトフォンス君はポーション作りのできるんだな!」


「得意と言えるほど、得意なわけではない。……今はそれよりも、歩くのに集中したまえ。」


 ポーション?ポーションか……。そういえばあったな、傷や難病を治すのによく使われる薬だ。

 だがポーションとは薬の名前そのものではなく、ジャンルの名前だから注意が必要だ。


 軽症治療ポーション、耐火ポーション、劇毒ポーション……同じポーションでも全く効果が違う。

 だがポーションと呼ぶ基準はある、普通の薬よりかなり即効性があるものをポーションと呼ぶのだ。


 そしてポーションによっては飲み薬だったり、患部にかけるだけで良かったりもする。

 なのでポーションはいつ大怪我を負うかわからない冒険者にとって、文字通り命綱だ。


 ……まあ乱造品だと擦り傷くらいしか治せなかったりするが、それでもポーションを名乗れる。

 だったらこれがポーションかどうかで言えば、即効性が高いしポーションでもいいかもしれない。


 ……そう考えながら、歩き続ける。すると、いつの間にか俺たちは前の方のグループになっていた。

 最初は後ろの方だったんだがな……もう最後尾が見えにくくなっていた。むしろ最後尾が遅すぎだ。


 前方のグループに男子が集中していてちょっと女子がいるってことは、後方の雑魚は女子たちか。

 やはり体力には男女差が出るな、先生が気にせず進んでいるから大丈夫だとは思うが……うーん。


 ……いや、なんで俺がこんなに悩んでいるんだ!

 俺以外のグループがどうなっても、加点はないだろうし気にしてもしょうがないだろうて。


 俺は俺のいるグループを気にした方が、よっぽど成績的に有意義で建設的だ。


「気を緩めるな。経口補水液は有限だ、気楽に回復はできない。歩くペースを維持し続けろ。目標地点まで、このままなら1時間弱で着くぞ。」


「うっ、うへぇ〜……まだそんなに……。」


 3時間歩いただけでこれでは、重装備を着込んで戦闘したらすぐ息切れするだろうな……。

 あまりにも体力が少ない。だが周りを見ると息切れしている生徒は多いし、これが普通なのか?


「……聞きたいことがあるんだが、君たちは普段どのよ

うな訓練をしているのかな?」


「訓練?あー、剣術の訓練とかか?……そりゃ、素振りしたり、模擬試合する感じかな?」


「……鎧を着込んで歩いたり、そのまま泳いだりする訓練はしたことあるか?」


「……それ、近衛騎士とかがやるやつだろ?普通にやったことねぇよ、無理無理。」


 ……クソッ、騙された!クグチョあの野郎、何が普通の訓練だ……がっつり特殊訓練じゃないか!

 成長に悪影響が出たら、どうするつもりだったんだ!……ポーションで何とかなるんだったな!


 骨盤の歪みを治せるポーションって、すごい……とかなんとかじゃなくって、落ち着こう俺。

 実家にいるあの騎士はまあ許そう、お陰で周りよりもタフになれたみたいだし……許そう!


 周りの生徒が想像よりもやしだった理由もわかったし、なんやかんや考えたり会話していたら目的地周辺になっていたしな。気持ちを切り替えよう。


「はい皆さーん、到着ですよ!私がテントを設営しますので、各グループはできるだけそこから離れすぎないようにテントを設営してください!」


 気持ちを切り替えた俺が気になるのは、皆がテントをちゃんと設営できるかどうか……それだけだ。

 頼む、基礎だけでもできてくれ……!できなかったら、俺の手間が増えるから……基礎だけでも!


 せめてテントを広げるくらいは、できてくれ!




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