野営の授業の準備編
野営の授業のために使う道具を買うために、俺たちは学校の敷地内にある店へと向かった。
そこには店が1店舗だけではなく、小さめのデパート並みにたくさんの店が構えてあった。
ここには飲食店や雑貨屋、本屋、服屋、高級茶器専門店などの様々な店があるらしい。
そうそう、今回の荷物購入のための予算は自腹ではなく、学校から予算が支給される形のようだ。
限られた予算を節約する考え方を、実践的に身につけるためらしい。その割には予算が多いが……。
何も考えず高いものや無駄な荷物を買ったら、予算が尽きることも……あるのかなぁ?
……いや。もしかしたら残った予算の量が成績に反映されるとか、そういう可能性があるな。
俺は根が若干ケチなので値段と効果のバランスがいいものを選べば、多分大丈夫だろう。
さて……悩みながらも荷物を買い揃えて、ようやく準備完了だ。予算内での最適解じゃないかな?
「虫除けとかはともかく……発煙筒とかホイッスルとかよくわからんものが多いけど、何に使うんだ?」
「ん?発煙筒は当然はぐれたときに使い、ホイッスルは敵襲を察知したときや大声を出せないほどの重症になったときに使うものだ。」
「え?敵襲とか重症とかに、備えは必要か?この授業だと、戦闘とかはしないと思うけど……。」
「備えを使う機会がなければそれに越したことはないが、使う機会があるかもしれん。特に森は私の経験上、こうした道具を使う機会は多い。」
実家の獣人をちょっと思い出した。まだ1年も経過はしていないが、懐かしく感じる、
そいつらを使って、近くにある森を探索したことがあったな……そこで野営をしたこともある。
あれは大変だった。1匹がはぐれたり、野生の夜盗が奇襲をしてきたり……非常に大変だった。
ピラが足音に気づかなければ、いくらか損害が出ていたかもしれん。だから野営は、侮れない。
「……今思ったのだが、従者は今回の野営の授業に同行するのか?従者がいないと、野営は面倒だ。」
「んー……そこは考えもしなかったな、でもまあ従者がいたらせっかくの野営が堅苦しくならないか?」
「いや……従者がいても、堅苦しくはならないだろう。……君の従者は小言でも言うのか?」
「普通言うだろ?もっとシャキっとするように〜とか、ちゃんと作法に気を使うように〜とかさ。」
俺が話しかけたやつ……いい加減名前を覚えた方がいいかもしれないそれと、和やかに会話をしながら荷物を整えて……よし、きれいに収まった。
リュックのサイズ的に、少し余裕ができる量なので帰りに荷物が少し増えても大丈夫そうだ。
これだけ最善を尽くして準備すれば、きっと先生とて俺に文句を言うことはできないだろう。
となれば、あとは他の生徒の準備を待つだけだ。
待つだけだが……少し暇になってしまったな。この間に、3人と打ち合わせでもしておくか。
「……君たち、野営をしたことはあるか?」
「ん?ああ、俺は友達とキャンプに行ったことならあるぜ!マシュマロとか焼いた!」
「僕は野営とかしたことないな……。」
「実は、俺もない。」
まあそうだろうな。なら俺以外野営未経験のメンバーってことだ、あまりよろしくない。
野営はチームで行うものだ、個人で野営を行っても死の危険性が高まるだけだ。
そして足手まといは-1人と数える。ピラ抜きで言うと今回は-2人で野営する計算になるな。
これをせめて0.5人以上にはしたい、だが短時間でできることといえば……心構えを教えることくらいしか、俺には思いつかない。
「いいか、今回の野営は学生を連れていけるくらい安全なものだろう。だが野営……いや、街の外で活動するというのは、非常に危険なことだ。それが何故なのか、わかる者はいるか?」
俺の突然の問いかけに、3人はキョトンとして顔を見合わせた。わかってなさそうな顔だ。
「……答えは、すぐに助けを呼べないからだ。現地にあるもので、問題を解決しなければならない。だから、君たちに気をつけてほしいことがある。足の捻挫程度の危険でも、すぐに教えろ。いいな?」
「えっ、あー……うん。わ、わかった。」
ちょっと引き気味に、3人が答える。突然同級生なのに目上な人に説教じみたことを言われたら、引き気味になるのも仕方ないことだろう。
だがこの3人に問題があった結果、俺の足を引っ張るようなことはあってはならない。
だから仕方のないことなのだが……うん、説教よりいい注意方法があればよかったのだがな。
そう思っていたとき、足手まとい3人が突然驚いた。ピラが俺の影から出てきたのだ。
何勝手なことをやってんだ、躾けるぞ?という気持ちが湧き上がるが、一応耳を傾けてやる。
ピラが勝手に行動するのは珍しいし、特に俺に意見するなんてことは今までになかったしな。
耳を向けてピラの発言を促したら、ピラは小さな声で喋った。……耳がちょっとくすぐったい。
「……ご主人様。実際に野営した際に経験されたことをおっしゃるのは、いかがでしょうか?」
なるほど!確かに実例があった方が、ただ忠告するだけよりも危険性がわかりやすいだろう。
よしよし、よくやったピラ!後でご褒美だな。
「そうだな……実家にいた頃、私は獣人の奴隷をいくらか連れて森の中へと向かったのだが……」
俺は獣人たちが魔物に襲われ、危うく死にかけたときのことを話した。そのときは獣人に笛を持たせていなかったので、反応が遅れたのだ。
しかもその魔物が木に擬態する魔物、トレントだったので俺もピラも反応するのが遅れてしまった。
まさかテントの下に根っこがあり、その上で眠ろうとした者をこっそり根っこを伸ばして殺そうとするとは……全く警戒していなかった事態だ。
寝ずの番が気づいて急いで報告しに来たが、笛があったらそのタイムロスもなかっただろう。
そのせいで健常だった個体の獣人は足を欠損し、俺は義足を作るために余計な出費を出したのだ。
「ひ、えっ、あ、足を失った……!?」
「な、なるほどな……アルベルトフォンス君の野営に対する警戒心が強い理由が、わかったよ。」
「ま、まあ!そんなこと、滅多にないだろ……!?」
「滅多にはないな……だが、あった。」
よし、これでちゃんと浮かれずに行動してくれるだろう。それに、いい時間潰しになった。
他の生徒たちも準備を終えて、いよいよ出発するときが来た。不安は少ないが、警戒心はある。
さて、どんな野営訓練になることやら……。




