初日の授業
今世初めて入った教室には、長めの机が何個も教壇に向けて設置されていた。かなりの数だ。
その中から1つ適当に選んで座り、他の生徒や先生が準備できるのを待つことにした。
ちなみにピラは教室の後ろの方だ。従者はそこで立って、用があったら呼ぶことになっていた。
どうやって呼ぶのかというと、左手を少し上げたら従者に用があるという合図になり、右手を上げたら普通の挙手になるらしい。
これなら授業中にハンカチが必要になったりした生徒を、先生が間違って指すこともないだろう。
そんな機会あるかどうかも分からないが、まあ多分喘息持ちが薬を急いで使いたいときにはとても有効活用できるかもしれない。他は知らないが。
……それはさておき。多分生徒が全員着席したであろうタイミングで、先生が授業を始めた。
退屈な授業じゃないといいのだが、さてさてどんな授業をするのだろうか……。
……最初は歴史、次は経済学、その次は経営学といった具合に難しい授業が続いていた。
俺も前世の記憶フル活用で挑んだが、かなり難しかった。高校どころか大学の範囲じゃないのか?
しかし俺には外付けハードディスク……ピラがあるからな、なんとか授業を理解することはできた。
何度もピラを呼ぶときに左手をパタパタして疲れたので、授業後半ではもう自分の隣に置いていた。
休憩時間に教室を見渡してみたが、俺以外もかなり苦戦しているようだった。少し安心した。
多い順から、隣の席と絶望を分かち合う者、必死にノートをまとめる者、余裕を醸し出す者がいた。
ピラが簡単に理解していたから勘違いしそうになったが、やはりかなり高難易度の授業らしい。
先生の想定していそうな顔を見るに、わざとレベルの高すぎる授業を受けさせているようだが……。
まあ後で暇な時間に聞くとするか、今はそれよりも次の授業の方が大事だ。魔法の授業らしい。
場所は訓練所のようなところで、的や木偶人形が生徒よりは少ないが大量に並べてあった。
「えーこれから皆さんには、1人ずつ順番に魔法を的に1発撃ってもらいます。種類は問いませんので、1番得意な魔法を撃ってくださいね。」
先生の言葉を聞いて、ずっと座って授業をすることに飽き飽きしていた生徒たちが色めき立つ。
不安そうな声はなく、なんの魔法を撃つか楽しそうに騒ぐ生徒がかなり多いな。自信満々だ。
「では、我こそはという人からどうぞ。」
「はい!はい!俺が行きます!」
「いや、この僕が最初だね!」
「私!私が1番槍をいただきますわ!」
「元気ですねぇ~……では先生が本当に適当に選びますので、順番にお願いしますよ?」
そう言って先生が適当に生徒を1人選んで、的の前に立たせた。その生徒は杖を取り出して、的の方に向けた。……魔法の杖を使ってもいいのか?
「魔力よ、我が敵を業火で焼き尽くせ!ファイヤー・ボール!」
生徒が呪文を唱ると杖の先からバスケットボールサイズの火球が出て、的に向かって飛んでいった。
火球が的に命中すると爆発し、的が火に包み込まれた。だが、的には傷はついていないようだ。
「基本に忠実ないい詠唱でした、杖さばきも上手でしたね。では次の方、どうぞ前へ。」
先生の一言コメント付きで、次々と生徒たちが魔法を撃っていく。その大体が攻撃用の魔法だ。
火力も似たりよったりだが水とか風とか土とかを出していて、バリエーションは豊かだった。
「光剣を我が手に!サンライト・ソード!」
だが光を使う魔法は殿下しか使っていなかった。
殿下は太陽光を杖に収束して剣を出し、それを使ってあの頑丈な的を一太刀で斬り裂いた。
「おおっ!素晴らしい魔法ですね、短い詠唱に高い火力を兼ね備えています。」
先生に褒められてご満悦な殿下が、取り巻きっぽいやつにドヤ顔で親指を上げて見せている。
それを見て殿下の婚約者は寂しげだったが、同時に誇らしげでもあった。健気な!
より仲を取り持ってやりたくなるが、それにはまず殿下との友好関係が必要で……今は無理だ。
どうやって仲良くなるべきか……とか色々考えていたら、先生に名前を呼ばれた。俺の番のようだ。
「……地よ隆起せよ。」
ボコッと地面が飛び出させるだけの魔法だが、燃費はいいし本気を出せば無詠唱で使える。
そして今回は詠唱して唱えたので、地面が槍のように伸びて的に強引に突き刺さった。
「な、なんと!杖なしの詠唱破棄で、これほどの威力を出せるとは……!今年の生徒は豊作ですね!」
なかなか良い反応だった。杖なしの価値は知らないが、詠唱短縮は結構自信のあるテクニックだ。
俺の他に詠唱の短縮をしている生徒はいないし、そこそこ印象を残せたんじゃないだろうか。
少し得意げになりながら、授業の終わりを待っていたら……久しぶりに見る顔があった。
お隣さんのセージだ、あいつもネノカダムに来ていたのか……いやまあ、同じ辺境伯だし来るか。
「ふーっ……よし!魔力よ、矢となりて我が敵を穿け!マジック・ミサイル!」
その瞬間、大きな光が辺りを覆った。
この感じは……セージが撃ったマジック・ミサイルに、過激に魔力が注ぎ込まれていたのだろう。
大半の生徒や従者どころか、先生さえもその圧倒的な魔法の火力に目を丸くして驚いていた。
的が跡形もなく消えているし、俺の印象もついでに跡形もなく消えてしまっていた。畜生。
「あ、あの……今の火力は……?」
「あー、やっぱ威力低かったかな……?」
こいつは一体今まで何を見ていたのだろうか、と気になる発言をセージは真顔で言っていた。
そしてその態度に慣れているであろうセージの従者が、すかさずヨイショし始めていた。
「わぁっ、流石はご主人様です!」
……このあと残りの生徒もなんとか魔法を撃って、無事ではないが無事に授業は終了した。
だが昼食の時間の間、食堂はさっきのマジック・ミサイルの話題でもちきりだった。
「なあおい、さっきすげぇ威力の魔法見たよな!?」
興奮した様子で話しかけてきたのは、えっと……ブオムだったかな?確かルームメイトのはずだ。
「まあな。だがあんな技術のない力技だけの魔法、私なら容易に魔道具で再現できるがね……。」
「え〜?本当かよ?あの火力だぜ?」
「ああ、できるね。いいか、まず……」
俺が魔道具について語ると、ブオムは意外と真面目に話を聞いていた。脳筋だと思ったのに。
だが無能ではなく、話を少しだけ理解できる相手にうんちくを語るのはそこそこ楽しかった。
今まで俺の近くにいたのが、あまり賢くない獣人奴隷と語りがいのないピラだけだったしな……。
ピラは本当に語りがいがない。ピラにこうやってべらべら喋っても、それはただの確認作業だ。
「……であるからにして、魔力の損失を防ぐためには中枢にスタビライザーが必要で……」
「へぇ~……スタビライザーって、どんなやつだ?」
「ああ。図で言うと、この箒みたいな文字がある場所だ。これは保護を意味するが、この縦線や斜線入りの縦線を添えることで安定性を上げて……」
そうこう話していたら、昼食の時間が終わってしまった。俺は先に食べてから話をしていたが、ブオムはまだ食べていなかったので急いで食べていた。
なんだか、ブオムは少し間抜けなやつだな。
しかし、なかなか充実した時間ではあった。確かにブオムは魔道具に関しては素人だが、素人目線の発言の中には俺にない発想もあったのだ。
やはり開発者だけではなく、素人の意見も大事だなものだ。少し頭がほぐれた気分だ。
俺は次の授業に向かいながらメモを書き、そしてその隅っこに「参考元:ブオム」と書いてやった。




