13歳、入学
俺、13歳になってしまった……。
馬車に揺られながら、窓の外の風景を見る。その風景は、一応見慣れたものではあった。
だが見え方は違う。もう、しばらくこの方向からこの風景を見ることはないのだと思ってしまう。
俺らしくないな、たった13年過ごした家から離れるだけでこんなノスタルジックを感じるなんて。
前世の15歳に家を出たときは、こんな気分にはならなかったんだがな……やはり居心地が違うか。
家においていった獣人どもは大丈夫だろうか?
オートマタの整備方法を少し教えたが、ちゃんと整備できるのか?壊されたら嫌だな……。
オートマタをパブリックスクールに持ってこれないのが、残念で残念で仕方がない。
俺がパブリックスクール……ネノカダム校に持っていけたのは校則の関係上、ピラ一人だけだった。
ハーブの世話、のびのびとした魔道具研究、定期的にやった奴隷どもの模擬戦の観戦……。
ああ、全てが大昔のことのように感じる。
ため息をつきそうになる俺の手の上に、ピラがそっと手をのせてきた。……ああん!?何だテメェ!
ピッと手を払い、頭をワシャワシャしてやる。生意気なやつめ、髪でも整えな!カーッ、ペッ!
……ふーっ、とっても落ち着いた。ストレスはさり気なく適当なやつに押し付けるに限る。
できれば本当にたんでも吐きかけようかと思ったが、後始末が大変なので慈悲を見せるしかない。
心の平穏をゆっくり取り戻しながら、また窓の外を見る。……王都が見えた、そろそろ到着か。
そして同時に見えた王城より一回りだけ小さいあの建物が、例の王立ネノカダム校だろう。
到着したらピラとともに学校の敷地に入る。すでにそこそこの生徒がいて、これからこの学校に入学するのだとそわそわしている様子だった。
俺もだが、全員指定の制服を着ていた。
生徒の見分け方は……学年はネクタイの色、階級はバッチとかの装飾でわかるようになっている。
特に階級の高い家の子供は、自家製の家紋付きバッチをつけていた。もちろん俺もつけている。
なので学校の門は顔パス同然で通れる。実際に門番が俺のバッチを見て、即座俺を通した。
「良い学園生活をお過ごしくださいませ。」
そう言って門番がパンフレットを渡してきた。入学式について書かれたあるようだ。
どれどれ……これによるとまず右手側の体育館で式を行うから、そこで待機すればいいらしい。
小さな地図が描いてあるので、迷わず向かう。するとそこにはすでに結構な数の生徒がいた。
従者もかなりの数がいたが、それぞれ違う場所に向かっていた。入学式は生徒だけで行うらしい。
俺もパンフレットをよく読んで、ピラを指定の位置に待機させた。少し心もとない気分だ。
んで、次は……入学式の定番、先生たちの挨拶が始まるらしい。なんだかとても懐かしい気分だ。
「えー、皆様王立ネノカダム校においでくださいまして、誠にありがとうございます。この王立ネノカダム校は、皆様がより多く、そしてより新しい挑戦ができる場所だと信じております。実際にこの王立ネノカダム校を卒業してくださった生徒方は、その多くがこの王立ネノカダム校での学びや交流を持ってして成功を収めているのだと我ら教育者一同は自負しております。また、この王立ネノカダム校は生徒の皆様が健全な心身をのびのびと育てることができる場所となるように、安全管理を徹底的に行っています。この王立ネノカダム校はそのために常に最新の機材、情報、人材を導入し、温故知新を忘れずに過去の事故や事件の見直しを度々行っています。これらは出資者の皆様が協力してくださっているからこそ実現できています。ありがとうございます。最後に、生徒の皆様へ。ぜひこの王立ネノカダム校の全てを利用して、技術の向上や新たな学びを得てください。私からは以上です。」
……引くほどクッソ長い。だがこれはジャブみたいなものだ。まだ校長とかが残っている。
半分も聞き終わらないうちに、生徒たちは露骨に暇そうな顔をした。あくびをするやつさえいた。
だが残念。前の世界でも、校長という生き物は何故かとっても長話をしたがるものなのだ。
先生が数人話したあとに満を持して登場した校長は、とてもいい笑顔で話し始めた。
「え〜……はい。紹介に預かりまして、私が……」
あーやだやだ。こういうタメも多くって脇道にそれがちな話は、話半分に聞くのが1番だ。
内容も大したことは言っていないようだし、本当に聞く価値のないテンプレ校長挨拶だった。
だがそれ故に、生徒たちへの効果は抜群だ。まるで最初っからこれが目的だったかのように、次々と生徒たちを深い眠りにつかせていた。
寝ていないのは俺を含めて10人前後だろうか?
ここにいる生徒が何人なのかは知らないが、700人以上……いや、800人以上いるように見える。
そんな中の選ばれし10人だ。面構えが違う。……一応後のために顔だけでも覚えておくか。
そう思って魔眼を使って見ていたら、5年ぶりに殿下を見かけた。やはり入学していたか。
まあ寝てるんだけどね、隣りにいる少女が頑張って起こそうとしていた。彼女が婚約者かな?
どれ、8歳の頃は関係があまりよろしくないと鑑定結果が出たが……今はどうだろうか?
気になるし久しぶりに鑑定するか、他人に使うのは控えていたが寝ている相手なら平気だろう。
【王子/ハルトハルト・ケウオ
種族/人間/王の血を引く者
状態/睡眠
ブブズズ王国の第1王子にして王太子。
口うるさい婚約者のことを快く思っていない。
スキル/剣術(中の上)/指揮(中の中)
光魔法(中の中)/政(中の中)
馬術(下の上)/交渉(下の下)
ユニークスキル/王家の命令】
うーんこいつ……残念なやつだな。だが誰か仲を取り持ってやれとは思わなくもない。
それとも婚約者に問題があるのか?一応隣の婚約者っぽい方も鑑定しておくか……。
【伯爵の長女/ジョレーヌ・クヤァク
種族/人間
状態/軽度疲労
ブブズズ王国王太子ハルトハルトの婚約者。
ハルトハルトを支えるために努力をしているが空回りしている自分に、歯がゆく感じている。
スキル/内政(中の上)/交渉(中の上)
看破(中の中)/政(中の中)
水魔法(中の下)/風魔法(中の下)
護身術(下の上)/雑務(下の下)
ギフトスキル/嫌われ者】
【ギフトスキル/嫌われ者
このスキルの所有者は、人に好かれにくい。
たとえ美貌を持とうがいかに優秀であろうとも、愛されることは非常に難しい。
このスキルは、異界の大邪神が信者に望まれたことによって贈らった呪いである。】
これは酷い、陰謀の臭いしかしない。だがこんなやつの仲を取り持てたら俺は恩を売れるだろう。
学校内では2人の動向に気をつけてやるとして、そのためにも殿下とは仲良くしてやるか……。
「っ、何か気配が……?」
おっと、ジョレーヌがビクッと反応して周囲を見渡し始めた。鑑定は一旦切り上げよう。
んで、他に起きている8人……今1人減ったな。残りの7人もちゃんと顔を見てっと……。
うん、他に知り合いっぽいやつはいないな。寝ている中にはいるかもしれないが……考慮しない。
……そろそろやることがなくなってきたタイミングで、ようやく校長の話は終わったらしい。
「では、次は特別講師の……」
あっ、クソっ……まだ続くのか……。
とんでもなく長い入学式が終わる頃には、俺含め起きていた生徒9人以外はすやすや寝ていた。
教師も何人か寝ていて、先行き不安を感じずにはいられない。大丈夫なのかこの学校……?
ともかく、今日から俺は学生だ。
明日から授業も寮生活も始まる。これから5年の間だけだが……まあ、少しは楽しめたらいいな。




