温かい寝具、温かいスキンシップ
ふーむ……。どうしたものか……。
俺は今、オートマタ・シェイプシフターをどうやって改造するべきかを悩んでいる。
人肌程度の体温をもたせようとしているのだが、これがなかなか思っていた以上に難題だった。
最初は火属性の魔法で温めようとしたのだが、温度管理が大変で久しぶりに火傷になりかけた。
大体言葉通りに動いてくれるオートマタでも、温度を感知することが苦手なのが躓きポイントだ。
程よい温度を維持させるために温度計を組み込むのも有効なのだが、この方法には欠点があった。
マナの消費が増えてしまうのだ。通常時は低燃費のオートマタなのだが、暖房中は燃費が悪い。
それに加えて温度管理のタスクを増やしたら、処理する問題が増え過ぎたので燃費が悪化したのだ。
そのままでは消費がマナの自動回復を上回り機能停止してしまうのだが、それだけは避けたい。
以前別のオートマタで試したのだが、コアのマナ残量が完全になくなるとコアは記憶を失うのだ。
俺が頑張って教えた書類の処理の仕方などの、重要データがリセットされてしまうのは嫌だ。
パソコンの表計算ソフトに大量の関数をちまちま打ち込むような作業は、二度とやりたくない。
となると、低燃費化を研究しなければならないわけだが……その研究も今は少し行き詰まっている。
……一旦この研究は凍結だ!とりあえず息抜きをしよう、息抜きしてから別の研究をしよう。
息抜きは大事だ。息抜きをした途端に、他の解決策も出るのかもしれないのだからな。
だがただ息抜きするだけではなく、どうやって息抜きをするかも考えて決めた方がいいだろう。
他の研究を進める……のは息抜きではないな。
本を読む……もうこの家にある本は全部読んだ。
うーん……何かで遊ぶ?何を、誰と遊べと?異世界にはコンピュータゲームがないのが残念だ。
音楽を聞く……最近交響楽団を呼んだばかりだ。
なんてことだ、他に息抜きが思いつかない。
前世でも1人用のゲームとかプラモの組み立てくらいしか趣味がなかったからなぁ……。
酒だって飲んだことがないし、タバコも吸ったことがない。博打だってやりたくはない。
女遊びとは無縁だったし、そもそも楽しくなさそうだ。……なんてつまらない男なんだ、俺は。
食道楽だって、偶にチョコを食べる程度だ。どか食いや超高級食材は俺の趣味じゃない。
こうなったら仕方ない……原始的だが、あれをするしかないか。若干本末転倒な気もするが……。
「ご、ご主人様……?一体何を……?」
困惑するピラを、俺は無言で撫でていた。
頭を撫で撫でして、ほっぺをむにむにする。これこそが、本末転倒かつ原始的な息抜きだ。
抱きまくらにしたら苦しいだろうしセクハラっぽいからオートマタ・シェイプシフターで代用するつもりなのに……今の俺は、ピラを虐待している。
しかしスキンシップは、最高効率の息抜きだ。人間の脳は、他者に依存した構造になっている。
人は孤独を恐れる。だから愛を注ぐ。その人のためではない、己の欲望と薄汚れた尊厳のために。
「あっ、あの……ご主人、様っ……。私っ……。」
それにしても柔らかいほっぺただ。それに不思議な心地よさを持つ、そんな熱を感じる。
今度は後ろから抱きついてみるが、大きな体とその力強さからは信じられない柔らかさだ。
全身がお餅でできているのか?そう思いながらスキンシップをしていると、ピラの髪が赤くなり……。
……うおっ、火の粉が出て目に入った。だが痛くも熱くもない……明らかに普通の火ではない。
燃える髪の毛に指を通すと、サラサラしていて暖かかった。だが不思議なことに乾燥はしていない。
本当に謎だ。だがこの謎を解けば、今までにはない新理論が判明するかもしれない。
ちょっと一旦離れて、櫛を持ってきた。
それで髪を梳くことで、少量の髪を細かく観察することができる。加えて社会的グルーミングは、スキンシップの中でもかなり効果がある方だ。
「ご主人様が……わ、私の髪をっ……♡」
……む、これは妙だな。髪の毛が火に変化しているように見えるのだが、一切髪が短くなっていない。
俺が知る前世の知識では説明ができない現象だ、魔法かなにかの特殊な作用が働いているのか?
「ご、ご主人様!私の髪が、気になりますか?」
「ん?ああ、燃えているのにも関わらず短くなっている様子がないのでな。どうなっているのかと。」
「……髪の火ですか。これは私も把握しきれてはいませんが、どうやらマナなどは一切消費されていないようです。マギカにも変換されていません。」
焚き火のようにパチパチしていた髪が少し静かになり、しかしそれでもメラメラと燃えていた。
マナが消費されていないとは衝撃的だ、じゃあなぜこの火は温度や光があるんだ?
悩めば悩むほど沼にハマるような感覚がある。
仕方ない、最後に温度だけでも測るか。
どこにあったか温度計、温度計……温度計?
……俺は馬鹿だ。温度計を手に持ち、ピラの髪の温度が41BTUという結果を見てから気づいた。
温度計をオートマタにぶっ刺せばいいじゃん。
擬似的に温度を感知するシステムを搭載するよりも温度計を見させた方が、絶対に低コストだ。
ピラを元の作業に戻し、早速オートマタ・シェイプシフターに温度計を認識させてぶっ刺す。
……おお、ちゃんと温度を測れている。今までの努力は水の泡だが、目標は達成できた。
あとは適温かつ心地よい反発具合のシェイプシフターに寝転んで、至福の時間を過ごすだけ……!
ピラの膝枕よりは性能は下だが、十分すぎる寝心地のはずだ。いざゆかん、就寝の時……!
おやすみ!
不思議な夢を見た。
オートマタ・シェイプシフターが、人形になってこっちを見ていた。何故かメイド服だった。
俺の目をじっと見ながら、近寄ってくる。
両手を前に出して、俺の背中に回す。そして俺の背中を撫でながら、優しく抱きしめてきた。
しばらくして、それが夢だと気づいた。
突然、謎の激痛を感じたことでだ!
「がっ……!うぐっ……!ぐ、ぎぎっ……!」
熱かったりはしない。服も汚れていたり傷ついていたりはしない。毒も魔道具に反応していない。
じゃあなんだ、この尋常じゃない痛みはっ!?
立ち上がろうとして、失敗した。手足の指は、普通に動くのに……。指だけは動くのに……。
……腕が、オートマタ・シェイプシフターに絡みつかれているじゃないか!それも、力強く!
「痛いっ、離せ!オート、マタッ……!」
絡みつくつるつるのスライム的な物質が離れて、何食わぬ顔で俺の横に待機し始めた。
こいつっ……出した命令は『布団の代わりに横になって、23℃を保持しろ』だけだったのになぜ?
原因不明の意図しない挙動をするベッドには、俺は安心して身を預けることなんてできない。
……仕方ない、これからもピラを使うかぁ。
今回は失敗に終わったが、今度こそはあの原因不明の挙動を解明してベッドにしてやる……!
ピラの髪の謎も、必ず解き明かしてやる……!




