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ピラとコミュ力強化デート




 俺は今、ピラと一緒に町中を歩いていた。

 場所はカナイリナカの領内の中で、辺境とは思えないくらいには栄えている町だ。


 通常の領では山賊一歩手前の存在な冒険者たちが品行方正で、表通りにおしゃれなカフェもある。

 治安がしっかりしているのだと感じれる。


 そんな町中を、俺がピラと歩いている理由は……将来デートの、予行練習のためだ。

 なのでピラも今日はおしゃれをしている。


 なんでデートの予行練習だなんてアホな真似をしなければならないのかの理由は、もちろんある。

 単純にコミュ力を鍛えるためでもあるが、婚約相手をパブリックスクールで得るためだ。


 この世界では12歳からその人物は半分大人であると認められるのだが、それは大人相応の振る舞いを求められるという意味でもある。

 つまりデートをエスコートできないと、子供っぽくって恥ずかしい人だと言われてしまうのだ。


 そんなやつと結婚したい人は、貴族的にはかなり少ない。貴族は名誉を大事にするからだ。

 能力階級容姿問わず、貴族が結婚したいなら不名誉があってはならない。名誉が重要なのだ。


 だから俺は今、ピラとデートをしている。

 このデートは失敗してもいいから気は楽だが、当然俺はこのデートを成功させなければならない。


 デートを成功させることができるなら、友達作りなんて北斎がへのへのもへじを書くようなものだ。

 それにこのデートには勝算がある。俺は予め町を下調べして、予定を決めてあるのだ。


 事前に下見をして、聞き込みもした。

 さらに親父から領全体の資料も借りて、徹底的にこの町について調べ尽くしておいたのだ。


 ふっふっふ……しかもそれだけではない。

 今回のためだけにデート専用のコンピュータ(オートマタ)を作り、素晴らしいデートの仕方を考えさせたのだ。


 そしてコンピュータの導き出した答えは……。

 おしゃれなサ店と、有名な作家の劇だ!


 なのでピラと向かっている先は、劇場だ。

 劇を見終えたら喫茶店で会話を楽しませる……クククッ、完璧だ……あまりにも完璧な作戦だ……!


 ……おっと、笑うのはまだ早い。

 コンピュータは、デートの相手を積極的に褒めるべきだとも言っていた。早速実践しよう。


 やはり褒めるなら服装から褒めるのが無難か?

 女性は結構気を使うっていうしな。褒めれる服装なら、そこを褒めれば問題ないだろう。


 コーディネートは白いブラウスと主張しすぎない明るさの、青緑のリボンタイと肩紐付きのロングスカート。落ち着きのあるシンプルな構成だ。


 蝋燭の灯火のようなピラの赤い髪に対して、リボンタイとスカートが補色なのも見栄えがいい。

 赤みのかかった褐色肌とも相性がよく、デートの主役として不足のない格好だ。


 靴は茶色のロングブーツだが、スカートでつま先くらいしか見えないので無骨さは感じない。

 むしろ清楚だと感じた。それに色が少し軽い感じで、ピラのお硬い雰囲気を軽減できている。


 髪型もバッチリと編み込みハーフアップで決めていて、まるで深窓の令嬢のようだ。

 まあ人間の貴族はほとんど白人なので、令嬢と勘違いされることはないだろうけどな。


「ピラ、あー……スカート、似合っているぞ。」


「お褒めに預かり、光栄です。」


 ピラは微笑み、髪先から少し火の粉を出した。

 火の巨人は喜びや戦の気配を感じると火の粉が体から出るので、おそらく褒め言葉は正解か。


 褒め言葉が成功したら、次は軽い話題で場の雰囲気を保つというのがコンピュータの指示だ。

 ウケを狙ったり真剣な話をしたりするのは、コンピュータ曰く想像を超える最悪の話題らしい。


 ならどういう会話をすればいいのか?

 簡単だ、そうじゃない話をすればいいだけだ。


「ピラ、劇は楽しみか?」


「はい。ご主人様のお側で劇を拝見できることに、私は身に余る幸せを感じています。」


「そうか。」


 ……しまった。ここから話題を膨らますはずが、ついうっかり会話を打ち切ってしまった。

 今から蒸し返すのもあまりよろしくないか?他にふさわしい話題は……何があるのだろうか。


「……。」 「……。」


 悩んでいるうちに、劇場についてしまった。

 かなりしくじったが、まだ挽回できるはずだ……デートはまだ、始まったばかりなのだからな。


「チケットを。……はい、確認いたしました。どうぞごゆるりと、劇をお楽しみください。」


 受付にチケットを渡すと、VIP席の扉が開いた。

 この劇場はネハンピの一族がパトロンをやっているので、VIP席を2個確保する程度は容易い。


 ピラをエスコートして席に座らせて、その隣に俺が座る。さて、あとは劇の出来次第だ……。

 劇場に入ったときのムードは悪くないはずだ、これでデートが失敗したら支援打ち切るからな……!




 俺の祈りが通じたのか、劇はなかなか悪くない出来栄えだった。ピラも楽しんでくれたようだ。

 これならば喫茶店で感想を話す時間が、十分有意義なものになってくれるはずだ。


「劇は楽しめたかね?」


「はい、素晴らしいひとときでした。ご主人様は、私と劇を鑑賞して……楽しかった、ですか?」


「ああ、もちろんだとも。とても楽しんだよ。……ピラは劇を見て、印象に残った場面などはあるか?」


 今回見た劇は喜劇だったので、感想を言い合って会話を楽しく盛り上げるのにはうってつけだろう。

 他の日には悲恋や活劇もやっているが、やはりデート中にシリアスなストーリーは不適切だろう。


「コミカルだったり、面白い場面もたくさんありましたが……私は主人公とヒロインの恋を邪魔する悪役が不憫だったことが、印象に残っています。」


 今回見た劇は、貴族の子息が庶民の娘に一目惚れしていろんな障害を乗り越える恋愛ものだ。

 その悪役は、何故か自分が主人公に好かれていると思っていたので嫉妬ゆえにやたら迂遠でコメディチックな妨害をするメイドの少女だったな。


 ……やっぱり悲恋物語の方が良かったのか?

 それとも主人公とヒロインの結婚式をハンカチ咥えてキーッ!ってなっている姿が哀れすぎたか?


 どっちの方向性で相槌を打つべきなんだ……?

 ……いや、ここは曖昧な返事でなんとかする!


「確かにな。実に素晴らしい演技だった。私も最後のシーンでの表情をはっきり覚えているよ。」


「……はい、とても真に迫っていました。」


 よし、なんとか楽しく話せたか?

 残りの時間もゆっくり会話をして、場をしらけさせるようなことは多分言わなかったはずだ。


 ……帰り道、俺はピラの手にそっと触れた。

 するとピラは少し遠慮気味に、俺の手を少し大きく温かい手でキュッと握り返してきた。


 そしてそのまま、手を繋いだまま屋敷に戻った。

 今回のデートは……おそらく、成功だ!




「私は……悪い子かもしれません……。」


「ん?ピラの何が悪いと?」


「!?も、申し訳ございません、独り言です!ご、ご主人様はどうか、お気になさらず……!」


「……??」




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