表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/52

黄金の卵




 ある晴れの日、俺は土いじりをしていた。


「ふ~んふんふ~ん♪」


 ご機嫌な鼻歌を歌いつつハーブの手入れをする時間は、とても穏やかで心地がいい。

 特に今晩お風呂に入れる分を決めるのは、夜が楽しみになり1日中ワクワクできるから素敵だ。


 今日は……このリラックスするハーブにするか。

 これは香りが好きだから、摘むのは夜にした。


「んでんで~……っと。ここまでかな?」


 雑草を抜いて、水やりもやった。最近レベルが上がったので、とてもスムーズに作業は終わった。


【辺境伯の長男/アルベルトフォンス・ネハンピ

種族/人間

状態/正常


奴隷の強化と魔道具開発が趣味の人間。

自身の飼っている奴隷には、給料と称して代用貨幣を支給している。


スキル/鑑定(上の下)/魔道具作成(中の中)

剣術(中の下)/土魔法(下の中)/栽培(下の中)


レアスキル/支配の魔眼】


 剣術も中の下になったし、いい成長だ。

 できればそろそろ新しいスキルもほしいところだったが……まあ、焦っても仕方のないことだ。


「ご主人様。昼食をご用意させていただきましたので、お手を洗いましたらお召し上がりください。」


 ピラが俺を呼んだので、振り向いて後ろを見る。

 そこには広大とは言えないほどの大きさの畑があり、獣人たちが汗だくで休憩していた。


 この畑では獣人たちに土いじりや雑草抜き、防虫結界の魔石交換などをさせているのだ。

 ここで取れた野菜が獣人たちの食料になるので、獣人たちも文句を言わず頑張って作業をしている。


 だがまだ収穫は一度もできていないので、獣人たちには今のところ買った野菜くずを食べさせている。

 今も大きな鍋で作った野菜スープを、配給のように並んで受け取って食べていた。


 野菜のへたや芯なんて、煮込めば食べれる。

 燃料は獣人のマナを使えばいいし、経済的だ。


「ピラ、今日の昼食はなんだ?」


「はい。本日の献立は生野菜のサラダと、オムライス、デザートにガトーショコラでございます。」


 喜ばしいことに、この世界にも米があった。

 インディカ米系だが、米は米だ。ありがたい。


「今回も僭越ながら、ご主人様のオムライスに心の臓を描かせていただきます。失礼いたします。」


 ピラがそう言って、ケチャップを取り出した。

 そしてパティシエのように素早く精密に、きれいなハートマークをケチャップに描いた。


 この世界ではハートマークは生命の象徴であり、可愛いものや恋慕の情を示すものではない。

 なので、別にメイド喫茶的なあれではない。


 ……オムライスにハートを描くのは昔のある英雄がやったのがこの世界での原点なので、元々はメイド喫茶的なノリだったのかもしれんが。


「……お待たせいたしました。どうぞお召し上がりくださいませ、ご主人様。」


 数秒の僅かな時間で、ピラは忠誠と敬意を意味する古代の文字をトッピングして言った。


 巨人族の書く古代の文字……ルーン文字は、優秀な術者が書けば魔法効果を発揮できるらしい。

 そう考えたら、贅沢すぎるトッピングだ。


【料理/ルーン・オムライス


巨人のルーン文字を刻まれた、魔法のオムライス。

忠誠のルーンは主を闇夜から守り、敬意のルーンは主に栄光を約束する。】


 ……贅沢すぎるトッピング……だね?

 料理の領分ではない気がするんだが。これ、巨人の秘奥たるルーン魔法じゃん。魔法、じゃん!


「……お気に召しませんでしたか?」


「あっ、いや……ルーンを崩すのに、躊躇してしまってな。スプーンで割れても、問題はないな?」


「はい、問題はございません。」


 魔法のオムライスだが、味は普通だ。別段特別な味ではなく、ちゃんとしたレストランの味だ。

 素材の味をちゃんと活かしている。そのままって意味ではなく、繊細な処理をしている感じだ。


 ……素材の味……そうだ、この卵はなんの卵だ?鶏だと思うが、違かったらはずかしい。


【食材/卵


通常の鶏の卵。鮮度はかなりいい。】


 よしよし、間違っていなかったな。……だが、ちょっと気になったことがある。

 通常じゃない鶏って、どんな鶏なんだ……?


 俺は食事が終わって歯磨きしたあと、なんとなくこの世界の鶏について調べてみた。

 動物図鑑や地方の伝説……様々な本を読み漁って、俺はある1つの本で面白そうな鶏を知った。


【書物/伝説的な魔法や呪術


今では一般的ではない魔法などを記載した本。

魔法の詳細よりも、種類を多く書くことを重視して書かれている。】


 この中に、黒い雌鳥という呪術があった。


 内容としては……まず最初に限りなく黒い雌鳥を見つけて、黒くない羽を全部抜いておく。

 そうしたなら、黒い布で雌鶏の頭を覆う。


 次に、限りなくきれいな卵を用意する。

 黒い箱にわらを入れて、さっき用意した雌鳥と卵を入れたら暗くて静かな部屋に置く。


 孵化した卵が黒い雌鳥なら、成功だ。

 その雌鳥は成長したあと、金の卵を産むのだ。


 ……うーん、胡散臭い呪術だ。少なくとも魔法は理論があるが、これは道理の通る要素が一切ない。

 だが、得てして呪術とはそういうものだ。


 鰯の頭も信心から、それは何事もありがたいと思えばありがたがれるという意味ではない。

 鰯の頭も、信心を使えば有用になる……この世界ではそういった意味合いとして言えるのだ。


 俺は黒い雌鳥を探すことにした。もちろん孵化させる作業を考えたら、時間はかかるが。

 こんな世界だ、試さないのはもったいない。


 早速、鶏を買いに行くことにするか。地元の農家が普通の鶏を飼育しているはずだ。

 俺は近場の農場に行き、農家の人に聞いてみた。


「君たち、鶏は飼育しているか?もし飼育していないなら、鶏を飼育している知り合いを聞こう。」


「え?あっ!はい、うちは鶏を飼育していますよ!坊ちゃま、お買い求めでしょうか?」


「ああ。黒い雌鳥が欲しい。」


「はい、黒い雌鳥ですね!お待ち下さい!」


 農家が走って小屋に向かった。すると、小屋から大量の鶏の鳴き声が聞こえてきた。

 ……あれが鶏小屋だったのか。


「1匹いましたよ、黒いやつですよね?」


 農家が黒い雌鶏の首根っこを掴んで、俺に見せてくる。……少し白い羽もあるが、黒い雌鶏だ。


「ああ、それだ。ついでに、ちょっと小屋の中の卵も見せてくれないか?興味があるんだ。」


「はい、もちろん構いませんとも!」


 小屋の中に入ると、鶏が暴れ始めた。

 かなりうるさい。だが俺には鑑定があるので、きれいな受精卵は簡単に見つけられた。


【動物/鶏


受精卵。】


 情報量少なっ……。


「……この卵も買わせてもらう。いいか?」


「はい、問題ないですよ!」


 俺はあっさりと黒い雌鳥セットを手に入れた。

 黄金の卵を産むというのは、本当なのか。


 俺は1週間の時間をワクワクしながら過ごした。

 そしてついにその時が来たのだ。


【食材/黄金の卵


金色の殻を持つ卵。

非常に美味で、ゆで卵にする食べ方が一般的。】


 ……思っていたのと違う!黄金じゃないんかいっ!


 俺はがっかりしながらピラに頼んでゆで卵を作ってもらい、食べた。美味しかった。

 黒い雌鳥……本当だったけど、なんか違う。


 美味しいが、廃れた理由もわかってしまう。

 なんか違う。それだけで、ものは廃れるのだ。


 正しく、諸行無常ってやつだなぁ……。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ