奴隷の格付け模擬戦
「どうした!ペースが落ちているぞ!」
奴隷の獣人たちを訓練させて数ヶ月。
今はランニングをさせているが、なかなか根性がない奴らだ。基礎がなっていないな。
最初は獣化でスタミナをごまかすやつもいたが、俺が禁止して以来このザマだ。
「ひい……ひい……!」
「ひいひい言っている場合か!走れ!走れ!」
並走しながら、獣人たちを叱咤する。
ついでに俺も並走で鍛えれるので、一石二鳥だ。
疲れている日や今日は嫌だなぁ、って日にはピラにおんぶしてもらって並走している。
こうすれば、毎日ランニングさせれるのだ。
「……そろそろいいだろう。休憩時間だ!」
そう言った瞬間、獣人たちが足を止め……。
「いきなり足を止めるな!歩けと言っただろう!」
それを俺が咎める。いきなり走るのをやめると、なんか体に良くないと聞いたことがあるからだ。
なんで良くないのかは、忘れたけどね。
そこそこ長めの休憩時間が終わった後は、今日も獣人同士での模擬戦の時間が始まる。
2チームで、4対4の対抗戦だ。
この模擬戦は、ただの遊びではない。
模擬戦での勝敗が休日等の質に関わる、いわば格付け試合なので……全員かなり必死だ。
「Aチームにおいで!今回は強いよAチーム!」
「Bチーム最強!レベル3剣術いるよ!」
チーム勧誘の時点で、試合は始まっている。
いかに強い仲間を増やして、自分のチームが苦手な敵を増やさないかが大事だ。
だが、それだけが模擬戦の全てではない。
「くくく!ピィ貨全部使って、貸しオートマタを借りたぞ……!今のあたしは最強だ!」
「何っ!私は手榴弾セットで金欠したのに!」
奴隷の中で流通させた代用貨幣、ピィ貨を使った貸出装備も試合を左右する大きな要素だ。
ピィ貨は他にも娯楽や個室の支給などの色々な使い道があるので、奴隷たちの生命線だ。
模擬戦で勝てばピィ貨がもらえるので、効率よくピィ貨を運用するために全員頭を悩ませている。
獣人たちの脳トレにちょうどいい。
……そろそろ模擬戦が始まりそうだ。
舞台は近所の森。予め親父とクグチョに許可を取ってあるので、気損ねなく使える場所だ。
それに加えて死亡事故をなくすために、予め全員に防護用の魔導具を渡してある。
この魔道具が音を出したら、再起不能判定だ。
【魔道具/シールド・リング
指輪型の魔道具で、装備したものが受けるダメージを軽減する効果がある。
設定を変更することで、魔石のマナがなくなったタイミングで警告音を出すことができる。】
「準備はいいな?位置について……始めぇい!」
さて、俺は高みの見物をするか!
俺の合図と聞いて、獣人たちが簡易的な土のうを作る。魔法による遠隔攻撃対策だ。
当然対策する理由は、遠隔攻撃が多いからだ。
「結界装置、起動しました!」
Aチームは土のうに加えて、貸出装備のポータブル結界発生装置を使用しているようだ。
「偵察機飛ばします!」
「……だめだ!今は温存しておけ。」
一方Bチームは上空待機型偵察機を使おうとしたが、チームリーダーに止められていた。
よしよし、勘がいいな。
【魔道具/ポータブル結界発生装置
白い六角形で、拳くらいの大きさの魔道具。
使用すると、周囲を覆う薄い膜を発生させる。
膜は見た目に反して頑丈で、占術や魔道具などによる盗視を防ぐ効果がある。】
【魔道具/上空待機型偵察機
タコのような見た目の魔道具。
使用すると空中に浮き上がり、周囲の様子を付属の小型モニターに映すことができる。】
結界がなくなるまで温存しないと偵察機は効果がないので、魔石の消費が無駄になってしまう。
それどころか偵察機は有線なので、どこで見ているのかが一方的にバレてしまうのだ。
「リーダー!地理的にはいい初期位置だし、張った結界が切れるまで何する?」
「……そうだな〜……2人で偵察して!なにか見つけたり、逆に見つかったらすぐ帰ること!」
「「はーい!」」
Aチームがツーマンセルで偵察をしに行く。
初手結界は能動的な行動ではないので、Aチームのリーダーはかなり慎重なようだ。
まあBチームの1人がオートマタを借りていると公言していたし、いい判断だと思う。
貸出用オートマタはそんなに強くはないが、人数差で有利になれるのが借りるメリットだ。
……さて、しばらくして。
Aチームは偵察にでかけたが、Bチームに見つかったので交戦する羽目になっていた。
「くうう!挟み打ちかっ!」
「に、逃げれるのこれ?」
「よし!オートマタ、左行け!退路を塞げ!」
2対3で囲まれて、Aチームが不利な状況だ。
機転を利かせて、不利を覆せるのか。
「……ここは私に任せて、先に逃げて!」
「っ!わかった、無事でね!」
……不利を覆すのではなく、損を減らす択を選んだようだ。当然、1対3では生きては帰れない。
あっという間に、タコ殴りにされていた。
「1人仕留めた!5対3なら、もう勝確だね!」
……生きて帰れないって言っちゃったし仕留めたとか言っているが、死んではいない。
シールド・リングがダメージを軽減したから、ちゃんと自分の足で自主退場できている。
それはともかく、試合はもう終盤戦だ。
ここでAチーム、偵察を出していたのがアドバンテージとなっている。なぜかって?
「えっと、もう少し右で……発射!」
迫撃砲があるからだ。
Aチームが貸出装備の魔法の榴弾を曲射して、Bチームを追い詰めていた。
Bチームは早めに戦闘していた位置から逃げ出しはしたのだが、離脱直前に発信機を装着されたことに気づけなかったのがミスだった。
早速Bチームは2人やられて、3対2になった。
だが同時に、Aチームの結界も終了した。
ここからは、正面衝突の時間だ……!
「砲撃の跡地に、オートマタが残っている……これを使えば、数的不利はなくなるな。」
迫撃砲は強力だからこそ、位置バレし易いというデメリットがある。これで3対3になって、なおかつBチームがAチームのいる方向を知れた。
しかしAチームも馬鹿ではないので、オートマタの回収阻害を兼ねて現地に集合している。
つまり今、Bチームは挟み打ちされている!
「今だ、撃て撃て撃て!撃ちまくれ!」
Aチームが魔法による弾幕を撃ち、Bチームが地形やオートマタを盾に魔法を撃ち返す。
お、俺のオートマタが、ただの壁扱い……。
「くそ、マナ切れか……抜剣!うおおお!」
魔法の撃ち過ぎでマナ切れして、Aチームは白兵戦を挑む。Bチームも、当然応戦する。
お互いに同数での戦いで、先に数が減った方が負けるだろう。そして先に減るのは……。
「オートマタ、倒したよ!今援護するから!」
ただの盾扱いされた。可哀想なオートマタだ。
脆いわけではない。本当だぞ?ただ、集中砲火でダメージがかさんでいたのがいけない。運用上のミスであって、仕様上ではより高耐久で……。
「に、2対1は無理……!」
あ、Bチームが総崩れだ。
最後は順当に3対1でフィニッシュした。
「……Aチーム優勝おめでとう。賞金としてピィ貨を支給しよう。大事に使い給え。」
「やったぁああ!今夜は焼肉だ!」
「ふへへ……チンチロとポーカー……どっちにしようかな……!やっぱ、安定のポーカーかな……!」
……刹那的な奴らだ。今回のチームリーダーは、ちゃんと貯金しているというのに。
まあいい。小遣いの使い道は、自由だ。
模擬戦へのモチベーションを上げてくれるなら、それに越したことはないしな。
定期的に模擬戦を見るのは最近の趣味でもある。
新しい作戦を披露したときの、ワクワク感が好きなんだ。これからも、頑張ってほしいものだ。




