戦いは数、そして質
さて、俺は最近とても楽しい遊びがあった。
それは兵士に俺のオートマタ軍団をけしかける遊びだ。口止め料は酒だけなので、懐も痛まない。
「んで……坊っちゃん、このゴーレムの集団は一体何なんですか?術者も見当たりませんが……。」
「私が術者だ。疑問は酒で流して飲み込め。」
「へいへい!今日も坊っちゃんの奢りですね!」
兵士は扱いやすくて助かる。
しかも強いので実験相手にぴったりだ。
「今回のシチュエーションは防衛だ。兵士諸君は私のゴーレムから、木箱を守り給え。いいな?」
「「「「「うっす!」」」」」
オートマタを起動させ、戦わせる。
各々勝手に判断して、目標の木箱に向かった。
「うおぉっ!『シールドバッシュ』!」
「『スラッシュ』!右に行ったぞ!」
しかし兵士のサブスキルの威力や連携が凄く、木箱になかなか向かえない。
兵士の中には『タウント』というサブスキルを発動してオートマタを引き寄せる者もいた。
一方で俺のオートマタは連携なんてできない。
各個撃破をされていた。
「こいつ、装甲が硬い!……うおっと!」
「防御しろ!デカブツが来る!」
だがいいことも知れた。どうやらオートマタ・ブルータルが兵士にとって1番厄介な存在らしい。
【魔物/オートマタ・ブルータル
状態/防御姿勢
指定された相手を、自動で攻撃する人形。
大きな盾を2つ持ち、力任せに全てを薙ぎ払う。
スキル/盾術(下の下)】
サイズは3m強。かなり巨体だ。
「ちょっと坊っちゃん!3ヤードの岩が突進してきたら、死ぬでしょ!あれはなしで頼みますよ!」
「……確かに。」
自分の領の兵士を、無駄に殺す馬鹿はいない。
非殺傷系オートマタも作らなきゃな……。
数日後、俺はオートマタ・ブルータルとピラを戦わせてみた。単体性能テストなら、これで十分だ。
「ピラ、ブルータルの性能はどうだ?」
「質量に身を任せた突進だけでも、十分に脅威だと思います。あとは追加兵装などを装着すれば、完成度はより高くなるのではないでしょうか。」
「追加兵装か……確かに必要だな。」
そんなわけで、試しに追加兵装を作ってみた。
【魔物/オートマタ・キャノン
状態/平常
周囲の敵を、自動で攻撃する砲台。
壁や天井を自身の鉤爪で這い回ることができ、オートマタに装備させることもできる。
スキル/砲術(下の下)/土魔法(下の下)】
兵装……兵装か?これは。
多分兵装でいいだろう。装備できるらしいし。
でだ。こいつの凄いところは、レパートリーは少ないが土魔法を使用できるところだ。
以前作った追憶の魔唱石を組み込んだだけなのだが、投石の魔法を使えるのが強力だ。
「坊っちゃん、あれは何なんですか!?砲台が自分で歩いて、ストーン・アロー使うんすけど!」
「私に質問するな。正直良くわからん。」
「まあ、そうっすよね。製作者でもなければ、あんな奇妙なやつの説明できないよな……。」
製作者は俺だが、秘密にしている。本来は9歳の作れるような発明品ではないからな。
「で、強さはどうだ?」
「はい。近接戦は弱いんすけど、そこは周りのゴーレムがカバーしていて……強みといえば砲撃の鬱陶しさが半端じゃないっすね。」
「うちの領はこれで滅ぼせるか?」
「物騒っすね……まあ、数にもよりますけど、今いる倍はあっても無理ですね。カナイリナカにはクグチョ団長や領主様がいらっしゃいますし。」
個人戦力が強い世界なので、半端な性能では数を揃えても無駄らしい。恐ろしいな。
「ふむ……兵士としては、どのようなゴーレムが厄介だと思う?とりあえずなにか言ってみろ。」
「そうですね……やっぱデカさが正義っすよ。金がかかるんで、そんなにデカいゴーレムはいないんすけどね。やっぱ可能ならデカい方が強いっす。」
周りの兵士もうなずいている。ゴーレムは基本的に、デカければデカいほどいいらしい。
今はしまう場所を考えたらデカくは作れないが、俺が全力を出せばかなり大きく作れる。
このままコアの性能アップに注力したほうが多分いいオートマタが作れるだろう。
道は長いが、先が見えるのは楽でいい。
ある日、俺は天啓を得た。
そんなに実験したいなら、オートマタに自動遠征能力をつければいいんじゃね?
何故気づけなかったのか、自分でも不思議だ。
そんなわけで作ったのがこれ。
【魔道具/自動哨戒システム
オートマタに組み込んで使用する魔道具。
指定された範囲を自動的に哨戒して、発見したデータを録画などにより記録できる。】
これを作っていたら、もうそろそろで10歳になってしまいそうなほど時間がかかった。
だが精度はいいはずだ。近くの森に向けて、自動哨戒システムを早速使ってみた。
半日が経ち、オートマタが帰ってきた。
魔物の血を全身に浴びていて、戦闘を行ってきたことが一目瞭然だ。
自動哨戒システムを確認してみると……。
……うん、バッチリ森を哨戒できている。
録画にはゴブリンを一方的に蹴散らすオートマタたちが映り、俺のワクワクが止まらない。
砲撃がゴブリンの前衛を蹴散らし、ブルータルたちが屍もろとも粗末な柵を踏み砕く。
弓使いや妖術師が慌てるが、ジェノサイダーの一方的な虐殺には一切敵わない。
【魔物/オートマタ・ジェノサイダー
敵対者を切り刻む、暗殺の恐怖を体現した人形。
悪趣味なその全身の刃には、毒が塗られている。
製作者の持つ必要以上の殺意で、このおぞましい姿はかたどられている。
スキル/素手格闘術(下の中)/隠密(下の中)】
俺が、あーゴブリンぶっ殺してぇなぁ……と思いながら作ったこれは、とてもキルスコアが高い。
これは一瞬で死角に逃げて、隙をうかがう。
そして標的が目を離したが最後、いつの間にかジェノサイダーは近くにいて……。標的を、奇声をあげながらずたずたに引き裂くのだ。
奇声を聞いたゴブリンどもは、恐怖のあまりに武器を落として逃げ惑う。
それを見逃すジェノサイダーではないので、あっという間に全員皆殺しにできた。
そして魔石回収班のスクレイパーがゴブリンの魔石を抜き取って、かごに集めて帰宅した。
最高の戦果だ!素晴らしい!
初陣を遂げたオートマタたちを洗いながら、俺はオートマタの潜在能力にロマンを感じた。
「ピラ……!どうだこのオートマタたちは!」
「は、はい。素晴らしいと思います……。」
……あれ?俺、また何かやっちゃいました?
いやいやいや!ドン引きする要素ないじゃん!
「えっと……ジェノサイダーの戦闘の映像で、気圧されてしまいました……申し訳ございません。」
「ああ!なるほどな!だが戦争とはああいったもの、いや!もっと過酷なものだ!ピラもお子様だな!」
「……は、はい。そうです、ね。」
「少し吸えば穴という穴から血が出たり、頭がおかしくなるガスを作ってからが本番だ!」
「ご主人様!そのようなものを作るのは、おやめください!私の命に替えてでも、ご主人様を止めます!」
「えっ!?な、なぜだっ!?そこまで言うのか!?」
まさかのピラの反逆に、俺は泣いた。
ピラ……いつもあんなに従順なのにっ……!
「ぴ、ピラ……オートマタは問題ないよな……?」
「ご主人様……率直に申し上げますと、ジェノサイダーも過激ですので……仕様を変更しましょう。」
俺は、とても泣いた。