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支配の魔眼




 俺は今、鏡の前に立っている。


 俺は今世では割と美形だと思う。

 目は凛々しく、鼻も整っている。

 子供だから頬も柔らかい。


 目は青空のように透き通る空色で、髪は白く艷やかでまるで白金のようだ。


 くすんだ白髪の親父とは違っていて、本当に両親の血を引き継いでいるのか不安になりそうだ。


 一応鏡を鑑定してみた。


【道具/姿見


大きく、品質のいい鏡。】


 普通の鏡だった。


 服装はいつもとあまり変わらない組み合わせだ。

 普通の上質な服、動きやすさ重視の革靴、大きめのリボンをつけた貴族的ポニーテール。


 むしろ親しみやすい見た目だと思う。


 ……まあ、いつまでもくよくよしてても仕方がないので、俺は今日の朝練へと向かった。




 朝練していて、気になったことがある。

 ピラのスキルについてだ。


 ピラは俺と同じくらいの知識量で雑学のスキルを持っていて、俺は雑学スキルを持っていない。


 俺も雑学スキルを習得していてもおかしくはない筈だが……スキルの習得条件がよく分からない。


 なのでクグチョに聞いてみた。


「スキルの習得条件、ですか……。私も詳しくは存じ上げませんが、個人差だと聞いたことはあります。私は昔にメイスを使っていましたが、鈍器術は習得出来ず終いでした。」


 どうしようもないらしい。残念だ。


「そうか……ところで、貴公は魔道具をどう思う?」


「魔道具……ええ、便利な物だと思っています。」


「私が魔道具を研究していると言ったらどうする?賛成するか?それとも反対か?」


「ご子息様が貴族の責務を投げ出さない範囲の熱意でしたら、素晴らしいことだと思います。」


「そうか、ご苦労。質問の意図は聞くな。」


 クグチョはクソ真面目なので、質問をする相手としてはかなり便利だ。……一応、あれも聞くか。


「……貴公は、私から威圧感を感じるか?」


「いいえ。私は騎士です、威圧感を感じることはございません。ご子息様の眼差しに気圧される者は、新兵ぐらいなものでしょう。」


「……新兵なら、気圧されるのか?新兵とは言っても、剣を持つのが初めての者とかが……か?」


「……?実戦を1度しか経験したことのない新兵ならば、気圧されると思います。」


 そ、そんな殺人的な目なのか!?

 むしろ我ながら可愛い目だと思うのだが!


 結構ショックだった。

 だが、俺は前世の知識を使って逆に考えた。


(なにアル?なぜか目だけで他人を怯えさせてしまうのを解決したい?アルそれは無理やから、逆に考えるんだ。怯えさせちゃってもいいさ、と考えるんだ。)


 俺の脳内紳士は投げやりだったが、まあなんとかなるだろうと思えた。

 ありがとう、脳内紳士……!




「そこの兵士!私の目を見ろ!」


「え?あ、はい、坊ちゃま。」


 俺はそれから兵士の目を見て実験した。

 何をしたら怯えるのかを調べたのだ。


 時には目力を強めてみたり、時には何も考えずにじーっと見つめるだけにしてみたり。

 できることは全部試した。


 そして、1番兵士を怯えさせた行動が……鑑定だ。


 そう。鑑定だった。理由も調べた。


「えっと……不敬罪になりませんよね……?」


「ならん。だから本当のことを言え。」


「うっす……あの、坊ちゃまの今の目はですね……心を見られてるような気がして、落ち着かないんっすよね……ちょっとブルっとしちゃいます。」


 アンケートした結果、最も多い答えがこれだ。


 他には「よくわからない」とか「坊ちゃまのその眼差しが、机や皿を見るときと同じ」とか。

 そして、そんなことをしていたら……。


【アンコモンスキル/魔眼


睨みつけた相手に自分の意志を送り、精神的な衝突に勝利することで対象を操ることができる。

戦士は相手を剣で殺すが、酒場の娘は目で殺す。】


 こんなものを習得してしまった。

 怯えてみろ、と念じて睨んでいたせいだろう。


 人生初のアンコモンスキルなのに、入手経路がしょぼい。一応、効果は強そうではある。


 試しに、転けろと念じて兵士を見る。


「おあっ!?ごはっ!」


 ランニング中だったので派手に転倒した。

 クグチョにも試してみた……いたずら小僧かな?


「むっ!……今のは気配は……?」


 不審そうに周りを見渡すだけだった。どうやら、効く相手と効かない相手がいるらしい。

 多分力量とかかな?もしくは心構えとか。


 とりあえず当分は魔眼で実験した。




 9歳になった。大きなイベントがないと、時間の経過は早いものだ。


 俺のスキルの成長はなかった。

 代わりに魔眼と魔道具の研究は順調だ。


 俺はその場にいた使用人を睨んだ。


「……はい……水を持ってまいります……。」


 何も言われていない使用人が動く。これが魔眼の第1の効果、行動強制だ。雑魚にしか効果がない。


 次に俺は、さっきの使用人を見続けた。


(水……水を、持ってこないと……1番近いのは……あっちの井戸……早くしないと……。)


 これが第2の効果、思考盗視だ。誰にでも効果があるが、警戒されていると効果がない。


 最後に俺はさっきの使用人を観察した。

 体の中に薄い靄が、ほんのりと存在した。


 これが第3の効果、魔力視だ。何にでも効果があるので、無機物にも有効だ。


【レアスキル/支配の魔眼


睨んだ相手を操り、心を見透かす邪悪な眼。

吸血鬼の十八番であり、彼らが脅威たる象徴。】


 これが魔眼が成長して、鬼強くなった結果だ。

 吸血鬼並の超害悪生物になってしまった。


 しかし吸血鬼に使われたときを考えると不安なので、自分で自分の魔眼を対策してみた。


【呪具/邪眼のお守り


悪意のある視線を遮るお守り。

遮れたか遮れなかったかの結果を問わず、悪意のある視線を所有者に伝える効果もある。】


 これは魔道具の親戚、呪具だ。

 呪具は魔石を使わないだけの魔道具と言える。


 作るのに非常に苦心したが、効果は覿面だ。


 これを持たせた使用人は俺の魔眼が効かなかったし、そのタイミングでキョロキョロしだした。


 その使用人曰く、お守りが突然唸り声を上げて危険を伝えてきたらしい。不気味がっていた。

 だが俺には唸り声は聞こえなかった。どうやらこの悪意感知は所有者にしか聞こえないらしい。


 どうして魔石もなしに唸り声を上げることができるのかは知らないが、便利なので良し。




 ……ピラって、普段何を考えてるんだろうか?

 ふと疑問に思い、魔眼を試してみた。


 しかし警戒心が強いのか、心が見えない。


「ピラ、リラックスしろ。一切の抵抗をやめて、私のことを心から受け入れろ。いいな?」


「はい。ご主人様。」


 ……だめだ、心が覗けない。……行動強制ならどうだろうか?もしかしたら有効かもしれない。


 ピラ、右腕を上に左腕を右に向けろ!


「……?」


 行動強制も効いていない。しかしピラは俺が魔眼を使ったタイミングでピクッと動いた。


「ピラ、今何かを感じただろう?それを受け入れるんだ。私に体を委ねろ。」


「は、はい……ご主人様……。」


 何度も試すが、ピラはピクピク動くだけで俺の魔眼に従うことはなかった。


 ピラが抵抗しているのかと思ったが、逆に抵抗させてみたら俺の目にピリッとした感覚があった。

 抵抗せずとも、本当に効かないのだろう。


 合意の上でも特定の相手には、魔眼は効果がなくなるらしい。……吸血鬼の象徴、弱くね?


 重要なことを知れた喜びはあるが、結局ピラの心を覗けなかった心残りで俺の心はモヤモヤした。


 知れる手段があると何でも知りたくなってしまうのは、恐らく人間の性だろう。

 ピラの心の中が、気になる……!


 俺は完全に脱力したピラの腕をぷらぷらと弄びながら、魔眼のさらなる強化を目指した。




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