俺の日常、俺の巨人奴隷
俺の朝は、ピィラムに起こしてもらって始まる。
「ご主人様、朝でございます……。」
ゆさゆさと、遠慮がちに俺を揺らす。
「うーん……おはよう、ピラ……。」
「おはようございます、ご主人様。お手を……。」
ピラはあだ名だ。ピィラムだと長いしピィだとただの鳴き声だし、ラムはかなり身近だし。
ピラ以外に選択肢はなかった。
閑話休題。
手を差し出されたので、握って起き上がる。
俺は朝が弱いのでとても助かる。
渡されたコップで口をゆすいで、朝食を食べに食卓へと向かう。食卓に座るのは、俺1人だけだ。
今日のご飯は、ウィーン風ソーセージとパンとサラダ、そしてフルーツとヨーグルトだ。
貴族的には質素らしいが、毎朝クリームドバドバかけたパンケーキは食べたくないので俺が頼んだ。
【食材/ウインウイィン・ソーセージ
電気羊の腸に塩漬けの肉を詰めた食材。
ウインウイィン男爵は、このソーセージの開発によって準男爵から昇格した。】
食後、ピラに歯磨きしてもらう。
使う道具は歯ブラシだ。
ちょっと優越感を感じながら歯を綺麗にした後、クグチョに朝練を手伝ってもらう。
「ご子息様、手が緩んでますよ。」
指摘されながら剣を振って、疲れが見え始めたら朝練を終了する。
ピラは指摘されなかったし疲れが見えないが、俺に合わせて朝練をやめた。
その後は、本を読み漁って勉強の時間だ。
俺が勝手にいろいろ調べるので、家庭教師とかも居ない。完全に自習だ。
ピラに教えながら勉強してたら、あっという間に昼食の時間になったので食堂に向かう。
今回は両親も一緒だ。
まず最初にサラダを食べる。今朝とは違うサラダなので飽きたりはしない。
両親は食前酒を飲んでいた。昼間なのにね。
次にスープだ。今日はコンソメスープで、シェフの気合が分かる程透き通ったスープだ。
完成された、と名乗るスープは伊達じゃない。
少し雑談を交えながら待って、次は魚料理だ。
今日はムニエルだ。両親はガッツリ食べてるが、俺は少し控えめにしてもらった。
食べ終えたら箸休めにシャーベットが出てくる。
量は少なめで、甘くて美味しい。
口がさっぱりしたところで、メインの料理だ。
今日はラムのTボーンステーキだ!俺の好物でもあるこのTボーンステーキは、毎週食べている。
しかしフィンガーボウルがあっても手が汚れるのが嫌なので、ピラの手を使って食べる。
意外にもこれはマナー違反ではない。理由は昔のとても偉大だった王がOKだと決めたからだ。
女癖以外は完璧な王で、誰にも文句を言わせず『使用人の手は自分の手なので、食事中に使ってOK』というアホなルールを通したのだ。
異世界なんだなぁ、って俺は深く思った。
肉を食べたら、デザートのフルーツを食べる。
そしてコーヒーとおやつを食べて解散だ。
ピラに歯を磨いてもらって、30分昼寝した。
勿論ピラに起こしてもらう。
一応ピラと一緒に寝るのだが、ピラは時間きっかりに起きて俺を起こしてくれる。
とても高性能な目ざまし時計だ。
昼寝が終わったら、剣術の修行だ。
クグチョは剣術が中の中なので、下の上ではとても勝てる気がしない。
LV3とLV4以上では大きな壁があり、LV3からLV4にレベルアップするのもかなり大変らしい。
それでも工夫をしながら斬りかかる。
一太刀も入らないが、経験値は多分多い。
そう信じないとしんどい修行だ。
「ご子息様、小手先の技は私に通用しませんよ。」
「ハァ……ハァ……貴公、手加減しろとは言わんが、少しは華を持たせてもいいではないか……。」
「それではご子息様の為になりませんので。」
夕焼け頃にようやく終わり、夕食だ。
夕食もかなり多く、フルコースだ。
前菜がサラダじゃなかったり、肉の後にチーズとかサラダが増えていたりする。
これをバクバク食べるのだから、両親が肥えているのも納得だ。俺は量を減らしてもらった。
チョコレートパフェを食べた後歯磨きをしてもらったら、お風呂の時間だ。
俺は両親と違って毎日湯浴みする。
日本人の大半は風呂が好きだ。そのお風呂好きを辞めることは、俺でも出来なかった。
お風呂に入る時、俺は自家製のハーブを入れている。香りがよく、気持ちがいいからだ。
ハーブは俺が育てたので、充足感が抜群だ。
「力加減は如何でしょうか?」
「うん、いい感じだ。」
ピラに体を洗ってもらって、風呂を上がる。
そうしてようやく、自由時間になった。
待ちに待ったこの自由時間は、大半が趣味である魔道具の研究開発に充てられる。
当然助手はピラだ。度々マギカ火傷をさせているが、俺はもっと多く火傷している。
今日出来たのはこれだ。
【魔道具/オートマタ・コア・ランページ
オートマタのコア。埋め込まれたゴーレムはオートマタとなり、自律行動が可能になる。
オートマタはアルベルトフォンスの発明であり、彼の知識と欲望の集大成である。】
欲望の集大成とか、酷いこと言いやがる。
……しかし、オートマタが俺の発明だったとはな。
かなり驚きだ。絶対先駆者いると思ったのに。
古い遺跡にはゴーレムが居て、操縦者も居ないのに襲いかかって来ると聞いたんだけどね。
実物を鑑定してみたい所だ。
閑話休題Part2。
就眠時間になったら、ピラが教えてくれる。
「ご主人様、就眠のお時間です……。」
「もうそんな時間か。じゃあ、寝るとするか。」
パジャマに着替えて、ベッドで横になる。
しばらく待つ。……するとネグリジェに着替えたピラが来て、俺に夜伽をしてくれる。
「ご主人様、失礼します……。」
ピラが俺の横に座る。甘い香りが漂った。
「ピラ……今日も頼むよ。」
「はい。どのご本を音読致しましょうか?」
「んー……『ドラゴンの生態調査』がいい。」
「かしこまりました。」
夜伽してもらうと段々と、うとうとしてくる。
お腹に一定のリズムでぽん……ぽん……と手を置いてくれるので、とてもリラックス出来る。
「ウィッチドラゴンのブレスは一般的なものとは違い、鼻から高温の毒ガスを噴出するもので……。」
「ピラ……そろそろ眠い……。」
「はい、かしこまりました。ご本を片付けて参りますので、しばらくお待ち下さい。」
ピラが本を片付けて、ベッドに戻ってくる。
俺はピラに抱きつき、枕代わりに使った。
ピラの体は暖かく、ほんのり光っている。
しかし汗を掻くほど熱くなることはなく、光は俺を安心させてむしろ眠りに誘う。
夏にも冬にも快眠に最適な温度を保つらしい。
ピラはもう手放せそうにない。
俺は程よい柔らかさを感じながら、眠った。
「むにゃむにゃ……。うーん……ピラぁ……。」
「……ふふっ。」