火の巨人
奴隷販売店で会計が終わった後、ボロ布を纏った少女が俺の前に連れて来られた。
肌が黒く、髪も黒い。
近くで見ると意外と可愛い顔立ちだった。
「私が君の主だ。君の名前を聞こう。名乗れ。」
俺が少し威圧感出した態度で命じた。
「私は、ピィラムと申します。」
少し緊張しながら、俺にお辞儀をするピィラム。
「掃除や洗濯、料理は出来るか?」
「はい、簡単なものならば出来ます……。」
教育が行き届いていた。スキルを持っていないので出来ない可能性を考えていたが、大丈夫だった。
他にも少し質問していたが、だんだんボロ布を纏っている姿が気になった。
奴隷がボロ布を着ることは別に構わないけど、何かばっちい感じがして嫌だった。
「お父様、ついでにこれの服を買いませんか?」
「ん?奴隷に服を買う必要もあるまい。」
ガレー船並の労働環境が、奴隷の普通らしい。
「あー……私は見窄らしい物を手元に置きたくありません。これの服装が貧相だと、私も貧相だと思われていると感じてしまいます。」
「そうか、アルはお洒落さんじゃな。ならばあそこの店で適当に使用人服でも買うか。」
店で買ったメイド服を、ピィラムに着せる。
……うん、いい感じに清潔感が感じられる。
「今気づきましたがこの店、隣が書店ですね。」
「書店が気になるか?帰るまでに時間はまだある、書店に立ち寄っても良いぞ。」
よし!さり気なく書店に寄れた。
一石二鳥でグッドな作戦だったと俺は思う。
俺は書店を鑑定しまくって、3冊本を選んだ。
【書物/魔物大全
魔物について書かれた図鑑。
精巧な絵が特徴。】
【書物/巨人伝承
様々な巨人について書かれた本。
伝説以外にも、生態系などが書かれている。
火の巨人と氷の巨人に関する記載が多い。】
【書物/支配する者、される物
支配者のノウハウが書かれている。
基本的には恐怖と魔法で支配して、一部の者にだけ愛着や忠誠を抱かせる手法が著者の結論。】
最後の本はネタバレされているが、詳しいことは読まないと分からないので買って貰った。
帰りの時あまり揺れない馬車の中で、俺は巨人伝承を早速読んでみた。
ふむふむ。巨人伝承には火の巨人について、かなり詳しく書いてあった。
まず通称はファイヤー・ジャイアント。
知能は人並みだが、かなり凶暴な種族だ。
成人の身長は平均17フィート、約5.1mだ。
その大半が優秀な戦士の素質を持ち、古代の文字を利用した原始的な魔法が得意な個体もいる。
略奪や人質交換で生活する者が多いらしく、地域によっては魔物として扱われる。
少し赤みがかった褐色と、赤毛が特徴。
興奮すると全体の赤さが増し、場合によっては火が体から出る場合もある。
逆にテンションが低い場合や疲労している場合には、肌が焦げたように黒くなる。
総評では、非常に優秀な種族らしい。
巨人伝承では、より上位の巨人が居るがそのどれよりも恐れられているのが火の巨人とある。
因みに、もし巨人とだけ言うと別の巨人を指すらしい。その名はそのまま、ジャイアント。
ジャイアントは野蛮で粗暴なならず者で、人間の子供並の知能を持つ。
黒い肌以外、特に特徴のない巨人だ。
他の巨人はこの巨人を恥晒しだと思っている。
……ピィラムは、ひょっとして掘り出し物か?
半巨人は珍しいらしく、この本でも半巨人は巨人に襲われた憐れな娘の子とだけ書かれている。
ピィラムを売った親が火の巨人のことを話さなかったら、何の半巨人か分からないだろう。
そしたら普通は、この黒い肌のせいでただの巨人と誤認するだろう。
ラッキーでハッピーだぜ。
屋敷に到着した後、ピィラムに使用人が一通り間取りやルールを教えた。
元々貴族向けに教育してあったのか、ピィラムは一度で大体理解してくれた。
「クグチョ、剣術の指導の対象ににピィラムを加えて欲しい。大丈夫か?」
「はい。習得出来るかは分かりませんが、私の力の限りこの奴隷に剣術を教えましょう。」
ピィラムに了承を取っていないが、強制的に剣術を学ばせることにした。
戦士の才能があるのなら、何かしらの武術を学ばせないと勿体ないだろう。
それに、自衛力は身につけて欲しいしな。
勿論、俺が魔法も教える。
「ピィラム、光栄に思え。私の秘密工房に案内してやろう!ついてこい!」
「はい、かしこまりました。」
秘密工房に連れ込み、魔法を教える。
10歳未満はマナの燃焼で死亡するリスクがあるが、7歳で魔法に覚醒めた者はリスクがない。
ならば、俺の代わりに魔法を覚えさせるしかないだろう。実験台に丁度いい。
「火よ!我が魔力を糧に、我が元にその姿を現せ!クリエイト・ファイヤー!」
発火の魔法を使わせてみた。すると、ピィラムの指先からライター程の火が出てきた。
「どうだ?魔法を使った感覚は!」
「はい……かなり、疲れますね……。」
ピィラムはクタクタになっていた。
あの程度の魔法を使って、火魔法スキル持ちがこれ程までに疲労するとは。
魔法スキルを持たない子供が使うと死ぬのも、納得の消耗度合いだ。
本格的にピィラムに魔法を使わせるのは、残念ながら来年以降になりそうだった。
そんなわけで、俺はピィラムの育成に励んだ。
素直に勉強してくれるので、とても楽しい。
半年もあっという間に過ぎた。
【奴隷/ピィラム
種族/半巨人
状態/平常
7歳の時に貴族に買われた奴隷。
不満はないが、主のアルベルトフォンスに過酷な修行と異常な難易度の勉強をさせられている。
スキル/火魔法(下の中)/剣術(下の下)
素手格闘術(下の下)/料理(下の下)/隠密(下の下)
魔道具作成(下の下)/鑑定(下の下)/雑用(下の下)
アンコモンスキル/急速回復】
調子に乗って育てていたら、スキルの量が凄いことになっていた。しかもアンコモンがある。
【アンコモンスキル/急速回復
過激な労働を行っても、翌朝には回復出来る。】
24時間戦わせてみたら習得していたスキルだ。
その時は訓練所の新兵達がドン引きしていた。
対戦相手は俺のゴーレムだ。
兵士にはゴーレムを誰かが操作しているように思えたかもしれないが、実は無人だ。
【魔物/オートマタ・デスペラード
状態/平常
指定された相手と、自動で戦い続ける人形。
雑用は出来ず、只管戦うことしか出来ない。
スキル/剣術(下の下)/盾術(下の下)】
中からゴブゴブ聞こえるのは、空耳か何かだ。
「あのゴーレム、動きが雑だけど精確だなぁ。寸分も違わず武器を振ってやがる。」
「でもあのメイドすげぇぞ、昨日からあのゴーレムと殴り合ってるからな……あれ?」
「……あいつら、何時休んでんだ?怖っ!」
俺もピィラムの体力はヤバいと思う。
どうしてあんなに元気なのか、分からない。
今も、平然とメイド服で戦っていた。
髪も少し赤くなっていて、余裕が見える。
ピィラムを酷使しまくったおかげで、ゴーレムの調整がとても捗るので酷使は止めないけどね。
俺は明日も明後日も、ピィラムを酷使する。
これが、奴隷チート無双ってやつか!