NAMiDA
とても、とても久しぶりに涙が出た。
「悔しかった」とか「悲しかった」とか「痛かった」とか。そういった純粋な感情からくる涙では無くて。
なんだろう、まぁ一言でいうとするならば。
「お腹すいてた」ってことになるのだろうな、と思った。
疲れってもっとこう、波みたいにどばぁっと押し寄せてうわぁってなって、という語彙力乏しめな想像をしていたものだから、いつの間にか蓄積した疲労が身体と心とを蝕んでいることにちぃとも気が付かなくて。
よく考えたら16時半定時なのに19時退勤を「早い」とか思ってしまったり、というかそもそも4月から働いていて、16時半に出勤札ひっくり返したことが一度もなかったな、といういや~なことに気がついてしまった。
「ブラック」「やりがい搾取」世の中の人間は饒舌だからそういった言葉は腐るほどいっぱいあって。それをあげ続けて行けば本当にキリが無くなってしまうのだけれども、そんな言葉で例えてみたところでその現状はおそらく10年は変わることがないのだから。その愚痴にリソースを割くよりも、今そのバランスの悪すぎる積み木の上でどう落っこちることなく歩けるか、といった問題に対して頭を捻り続けることが大切なのにな、と思い続けてきた。というか、そうでもしないと、とてもじゃないがやっていけないのだ。
今のままでは駄目だ、という事を言われて、考え続けて、数ヶ月が経った。
「こんな俺だから、出来なくて当たり前」という考え方を捨てなければならない、ということなんだろう。つまるところ。
性格を変える、あるいは人が変わったような演技をしなければならない。
後者はとてもむずかしい。明らかにどこかでボロが出る。というより、ただでさえ疲れる中でそんな余裕はとてもじゃないが生まれない。
前者はもっと難しい。生まれてこの方の考え方を否定して行くというのはつまり自分自信を否定するという事であり、ただでさえメンタル激弱な俺がその捻じ曲がった性格のおかげでここまでなんとか生きてこられたというのに。
つまり死ねと。まぁ言い方を選ばなければそうなりますね。いっぺん人生やり直すくらいの気概でなければ、そんなもの不可能ですよ、とね。
求められていることはとてもシンプルだ。もっと子供に寄り添え、気持ちを考えろ。じゃあ僕はどうしたら良いんでしょうか。わからないよ。他人の気持ちを考えるのが苦手だから、こうして大勢となるべく関わらない生き方を選んで来たというのにな。反吐しか出ない。職種選択を明らかに間違えている。
何が涙を出させたんだろう、と考えた。やっぱり、自分の不甲斐なさ、みたいなもんなんだろうか。
方々に迷惑をかけて。子供に、親に、同じ働き手に。辛い、しんどい思いをさせて。それで何が楽しいんだろう。俺自身が一番楽しくねぇのに。楽しいとでも、思っているのだろうか。
僕は頑張りました。おそらく今、人生で一番頑張っています。その結果が、コレです。頑張りたくなんてなかった。だって結果を見るのが怖いから。頑張った先に待っていたのが良くない結果だったとき、自分が受けるダメージってとっても大きいじゃないですか。その痛みと向き合えるだけの覚悟がなかったから。そうやって逃げ続けてきた。今までは自分を磨くだけの場にいたから、手を抜いてもなんとかなった。
でも今はそれで被害を被るのが自分自身だけではないから。目の前の彼らに、そのくだらない自己防衛の巻き添えを食らわせるのはあまりにしのびなかったから。だから、少しずつ心がけた。足りないものは改善します。言われたら真摯に対応します。自分ができる範囲でカバーしていたことより外のものを行わなければいけないので、当然疲労はその比ではない。すると、今まで当たり前に出来ていたことが出来なくなっていく。常に足取りが覚束無い状態。それでもなんとか車を走らせていくが、当然一度ついたマイナスイメージは払拭されない。それどころか、疲労から来る些細なミスによって、批判の刃はどんどん鋭くなっていく。「批判の刃 無限ループ編」ですね。大ヒット間違いなし。どこにでもある当たり前の光景過ぎて、逆にウケるパターンですよこれは。
結局「不甲斐ない」って事なんだろうな。
色んな人に面倒見てもらって、裏からきっと俺が気づかないところでも沢山サポートしてもらって。それでも足りなくて。自ら蔑むことで保ってきたゴミカスみたいにちっちゃなプライドが、殊更ゴリゴリと削られて行く感じ。これはこれで病みつきになるかもね。たまらないや。情けないや。
話かけられて、心配されているのがわかった。とても優しい人だから、なるべくそういった素振りを見せないようにしてくれているのもわかった。わざと「吐き出して、スッキリしな」という場面を作ってくれているのもわかった。
でも、無理だった。
「今日は……」
声が詰まった。喉の奥に引っかかって出て来ない。言わなきゃいけないのに。「こんな事言われました。全くもって、仰る通りで間違いございません。おれが悪かったんですよ、やっぱ難しいっすね。」何も言えなかった。その代わりに涙が出てきそうになるものだから、そっちは必死に堪えた。息が詰まりそうになって、ただただ情けなくて、申し訳なくて。
結局ご飯を食べたらその場はひとつ落ち着いた。けれどもこの体験は貴重だからのこしておきたくて、こうやってキーボードを打っている。
この話を書いている途中に、また少し泣いた。家で一人、泣いている成人男性の図。気持ち悪いったらありゃしねぇ。