あの子が揺れている
梨の木にぶら下がって
あの子が揺れている
生きていた時と何も変わらない笑顔で
風に揺らされている
梨の黄緑色は
まるで生気がないように
冷たく悲しく見えるから
紅い袋をかぶせてあげよう
元気でねって
言われた気分
あの子の顔が
隠れる間際に
梅雨空は今日は晴れて
湿った空気に日を当てる
力を入れて
袋ごと
あの子をもぐと
血液の巡るような音を立てて
私の手が何かを手放した
思い出の中でも
あの子が揺れている
どこにもいなくなった
あの子が揺れている
切り取られた写真の
何も写らない空白の中で
私はべしゃりと何かが落ちる音を聞く
足下を見ると
自分の心臓がそこで潰れていた