樹木ライフの幕開け
連載形式は初めてですが、短めになると思います。
おれはブランシュ・ハイアー。30......歳。いや、年なんてどうでもいいだろう。ちなみに名前の意味は、高いところの枝、みたいな意味だ。
冒険者ギルドで普通に冒険者として活動する一般戦士だ。得意な武器は斧。
ある日普通に馴染みの仲間と集まってダンジョン攻略していたら、珍しいモンスターにであった。
「くらえ、誤認の術!」
しわしわの老人のような丸っこい魔法モンスターは、杖を振り回しながら唱えた。
パーティで唯一のかよわいヒーラーをかばって、おれはそれを受けた。
痺れるような衝撃のあとよろけたが、おれはそいつに斧をまっすぐに振り下ろすと真っ二つにした。
「終わったな」
勇者とよばれるリーダー冒険者が汗をぬぐいながら爽やかに声をかける。
「ああ、はやく次へ...」
おれは言葉を返そうとした。するといつも温和で周りを気遣うタイプのヒーラーが割り込んで声を上げた。
「はい、もうちょっとでダンジョン攻略完了ですね」
「ん?あの、ヒーラーさん......そうだ、おれ、さっき攻撃を受けて......」とおれ。
「そっか、じゃあはやくたどり着くぞ。あの依頼主のことだから、いそげば報酬に色がつくかもな」
「そうですね!」
「......」おれはうっかり黙りこくった。二人ともおれが見えないのか?
「そういえば、戦士さんは?」ヒーラーが言った。見失うかよ、ここにいるだろ。
「あれ?」勇者もあたりを見渡して言った。
「やっぱり、みんなおれが見えないのか?」
すると、ヒーラーが叫んだ。おれを見て、
「きゃー、こんなところに......珍しいコインが落ちてます」
おれの足元にしゃがんでなにかすると、ヒーラーは立ち上がって勇者に近づいた。
「やったな、こんどマニアの冒険者に渡して換金しような」
やがて二人はしばらくにこにこしてから、立ち去った。すこしして、血相変えてヒーラーが走ってくる。この場で動かずじっと待っているおれもどうしたことか。
「戦士さんは!?まさか倒れたままなんじゃ!?」
「まってくれよ、ヒーラー」
勇者はダンジョンのこの階の最深部にいたドラゴンらしきしっぽを抱えて追ってくる。
二人ともきょろきょろしているが、おれと全く目が合わない。
「どこ行っちゃったのかしら」
「まいったな、一旦帰るか」
二十分ほどあたりを探して、二人は帰ってしまった。
「はあ」
おれはため息ついてぼんやりした。気づけばそこから一歩も歩いてない。あのモンスターの魔法を受けてから。
「大丈夫ですか?」
ゆっくりとまぶしさとともにやがて誰かが声をかけた。首がまわらず、光のみがわかる。
「あなたは......」
「私はこのダンジョンの泉の女神。あなたは今困ってますよね?」
「ま、まあ、そうだな」
「実はあなたはいま、木になってしまっています。ほっそーい木です。葉っぱもなく。」
「な、まさか」
「いえ、あなたはダンジョンの傍らに生えた寂しい若木です。あのモンスターは異世界からあなたを呪いにきた元少女。覚えはありませんか?」
「さあ、全く......」
「どこか、クリスマスツリーのてっぺんの星の女神あたりが、正月あたりに亡くなった少女に転生先を与えたら、どうやらモンスターと入れ違えてしまったようです。まだ鏡餅の女神ならもしくは......」
「そんな女神いるか」
「まあ、あの子は本来、あのヒーラーになりたかったのですが、ああしてヒーラーには別の魂がやどり、すごくがっかりしたようです。一緒に冒険したかった人がいたのに......」
「おれのことか」
「いえ、あの勇者です。あなたより若くてさわやかでしょ」
「おれを切り倒してくれ」
「わたしは斧を装備できません」
がっかりしたおれは勇者を呪いたくなった。
「助かる方法はあるのか」
「あなた、さっき切り倒せって」
「なんとしても助かりたいのが人間ってもんだ。はやく教えてくれ」
「はあ。はやくほかに転生したほうがまだよいのでは」
「伐られたらどうせ、痛いだろ?」
すると、話し声が近づいてきた。どうやら知らないパーティのようだ。
「そしたらさ、おれがモンスターを切って、戦闘が終わったわけ。こんなふうに」
言いながら近づいた男は、きらきらと新品のようなメタルソードを振り上げて斜めに振り下ろした。おれに。にぶいバネのようにはじけたおれの体は金属剣を跳ね返した。
「ぐわっ!」
男は手を剣から放して地面に倒れた。笑い声が響く。
「はははは、そんな木一本切れないようじゃ、お前の前のパーティでの戦いのレベルもたかが知れたな」
「ちくしょう」悔しそうな男はやがてパーティに合流しに小走りで立ち去った。パーティはすでにもうなにもない最深部に向かっていた。
「はあ。木じゃせいぜいこんなもんか」
「そんなことないですよ」女神が言った。
「じつはさっきの男は、もとは魔王を倒したパーティのナンバー3くらいのもので、いまは商売の傍ら、素材集めのために近所のダンジョンに潜っているのです。いまのパーティは間に合わせでしょうか、レベルはかなり違うのですよ」
「へえ、詳しいな。」
おれは感心した。
「にしても、おれも強いな。ただのほっそい若木じゃなかったのか」
すると、知らないパーティがまた来た。
「立て続けだな......ただの村近くのサブダンジョンみたいなところに。」
「あなた、木ですから、体感時間が違うんですよ。わたしは女神なのであれですが」
今来た知らないパーティは、少女4人の魔法パーティだった。男勝りな剣士の美少女をからかいながら、楽しそうにさわいでいる。ダンジョンだぞ、ここは。ゴブリンとか出るんだが。
「あははは、剣士ちゃんかわいー」
「う、うるさい!」
少女たちは楽しそうにはしゃいでいたが、いつの間にか物陰に潜んでいた大きめのダンゴムシたちに囲まれていた。バレーボールくらいから大玉転がしのやつくらいまで。少女たちは悲鳴を上げる。
「剣士ちゃん、守ってー」
「ちょっと、あなたいつも魔法も唱えないで隠れてばっかり、せめて杖でも振ってよ!」
「いやー」
少女たちは逃げ回っている。のそのそと追いかけるダンゴムシたちは、丸まって斜面を使い体当たりを仕掛けてきた。
「きゃー」
「危ない!」
おれの後ろに少女のひとりは隠れた。さっき隠れてばっかりといわれた子だ。おれはダンゴムシに体当たりされると、それをはじいた。
「あ、この木便利ー、剣士ちゃん見たー?」
魔法少女たちはおれを盾に魔法を唱え始めた。剣士もやがておれにダンゴムシたちを誘導してうまく倒した。回復役のいないパーティだったのか、4人の少女はかすり傷で騒ぎながら、服が汚れたと言って帰っていった。
「あんたが回復薬さっき全部使っちゃうから」
「ごめんなさい」
声が遠ざかってやがて止むと、おれはため息をついた。
「はあ」
「いい戦士っぷりでしたね、少女4人を守りましたよ」
「もう戦士というか、ただの木だがな」
もう、根をはってしまったのだろう、きっとおれはここから動けないのだ。
そんなおれが戦士として生きていくのは不可能だ。
おれはただの木だ。ダンジョンの傍らに生えた、ほっそい若木......。
でも、なんならもう少し輝きたい。夢を見すぎだろうか。まあ、少しくらいいいだろう。
「なあ、泉の女神」
「なんですか。わたし、転生者や呪われた冒険者にボーナス経験値とか、あげられないんですけど」
「そんなのがなんになる。」
「え?でも、わたし、あとは回復と、あとは人やモンスターを呼ぶくらいしか」
「じゃあそれで。」
「わ、わかりました」
「木だって経験値くらい自分で稼ぐ。じゃ、よろしくな」
こうして、おれは木としての第二の人生をはじめた。......まあ、たしかにただの木にすぎないが。その時は、おれはおれなりにがんばろうと思った。先のことはわからないが。
一応続けますが、いつ終わってもあまり困らない気がします。