令嬢の正体
文章ってむずかしいですねぇ
「ごめんあそばせ。つい癖でやってしまいましたわ」
令嬢のマッハパンチは、めちゃくちゃ痛かった。
この令嬢間違いなく殴り慣れてやがる。拳を叩き込むまでの美しい体捌きも去ることながら
ダメージを与えつつもこっちが動けるくらいの手加減の絶妙さ。けど、音はなんか凄かったのでとんでもない一撃を食らったかのように錯覚させる技術。
いや、勿論とんでもない一撃だったのだが、令嬢って言うのは思い過ごしだったか?この少女はきっと武術家か名のある冒険者の娘みたいなやつだ。
この世界には魔物と言われるモンスターが存在する。
世界に溢れる魔力が動物に悪影響を及ぼしたとか、邪神の手下とか、人間の業が生み出した生物とか色々言われているが、詳細は謎に満ちた生き物だ。
その種類は多種多様でゴブリンみたいな二足歩行の準人型みたいなのもいれば四足歩行のレッドウルフの様な動物っぽいもの、果ては鳥や虫まで多種多様である。共通するのは体内に大なり小なり魔力石があるという事くらい。外にいる魔物は大体動物型や昆虫型で大きさそれ程大きく無ければ害もさほどないし、その辺の普通の動物や昆虫と大差ないのである。
しかし、この世界に多数ある謎の空間、ダンジョンには
ゴブリンやその他凶暴な生物が沢山いるらしい。
なぜかドロップする宝箱や装飾品やモンスターの素材を集めたり売ったりするのが冒険者である。
(ばぁちゃん談)
美少女に殴られるのは、一部の界隈ではご褒美なのかも知れないが。冗談じゃないぞまったく、、、。
「いえ、、、。こちらもいきなり失礼しました。ちなみにお名前を教えて頂いてもよろしいですか?」
俺は未だに痛むお腹に苦しみつつ名前がわからないのは何かと不便だし、ついでに身分でも分かれば良いなと思い確かめる様に質問した。
「これは失礼しましたわ。あたくしの名はマリー・ド・リルエスタ。モノレ王国の侯爵家のものです。
今は訳あって家出をしているので唯のマリーですわ」
この少女やんごとなきお方でございました。
まさか侯爵令嬢だったとはおどろきである。
しかし名前の中にまでドリルがあるとか、これはもう確信犯なのでは?絶対狙ってるよね?パンチ怖いから聴かないけど!
「マリー様でございますか。侯爵家の方をこの様な狭い部屋に申し訳ございません。所で家出と言うのは何かあったのでしょうか?」
あまり聴かない方が良いのかも知れないと思ったが
あえて家出の理由を聴くことにした。
この世は助け合い。困っている人がいたら出来るなら
助けてあげなさいと、ばぁちゃんも言っていた。
直し屋という侯爵家とは比べようもない低い身分の俺だが、何か力になれるのであれば、力になってあげたいと思う。
「あなた意外と踏み込んでくるタイプですのね。
よろしいですわ。助けてくれたお礼と殴ってしまった非礼もかねてお話しますわ。実は、、、」
マリー様の話をザックリまとめるとこう言うことらしい。彼女は侯爵家に生まれて何不自由なく過ごし4歳の頃になんと王族と婚約を結んだ。そこから王族の伴侶になるに相応しい人物にならねばとプレッシャーの中、勉学や作法、ダンスに勤しんでいたという。
しかし侯爵家といえ幼い少女だ。もちろんストレスがたまる。そこでマリー様が行き着いたのが武術だったそうだ。なんでも侯爵家の老執事が昔凄腕冒険者だった様で、ストレス解消のお遊び程度にと始めた武術指導にどっぷりハマってしまったらしい。
元々体を動かすのが好きだったのだが、美しく軽やかなダンスよりも駆け引きのあり、重厚てきな攻防の武術により興味を惹かれ、段々と強くなっていく自分自身を感じるのが楽しく、自分がどこまで強くなれるのかをモチベーションに日々トレーニングに励んだそうだ。
勉強してはトレーニング、食事の前後にトレーニング
お茶会のあとにもトレーニング、もはや全てそっちのけでトレーニングと鍛えていったらしい。
侯爵様もこれは良くないと思ったのか、どうにか娘を
令嬢としてあるべき姿にしようとしてみたものの逆に
それが障害という壁になり更に燃えてトレーニングに励んでしまったと言う。たくましい侯爵令嬢だこと。
そうして老執事に教えることはもう何もないと言われ、
父に頼み込み屋敷に来てもらった名のある武道家、冒険者とトレーニングで鍛え抜かれたその体は王国一美しいとも言われるほど完成されたのであった。
そして。その過程で身につけた身体強化の魔法の極めていった時に、何故だか髪の毛がドリルになっていったらしい。 恐るべし身体強化!?
ともあれ、無事?令嬢としての教育を終えていよいよ婚約者と結婚かと言った14歳の所で、婚約者の口からダンジョンでの自分の武勇を聴いてしまい。出来心で簡単な模擬戦でもと誘ってしまったのだ。これが悲劇の始まりだった。
達人に揉まれ鍛え抜かれた者と護衛に守られながらダンジョンの浅い所でモンスター狩りをしていた者。
どちらが強いのか?圧倒的に前者であろう。
マリー様はボコボコにしてしまったのだ。手加減したが、その手加減は武術をしっかりと学んだ者にはわかる。しかし婚約者は素人、ただボコボコにされたとしか思えなかったのだ。
「こんな暴力女は私に相応しくない!!
婚約は破棄だ!!こんな変なドリルと結婚できるか!!」
そんな婚約者の言葉にマリー様は怒り傷つきながら
さらにボコボコにしてしまったのだと言う。
「このドリルはあたくしの努力の証。それを馬鹿にすることは許されませんわ!」
怒るところそこなんだ。
ともあれ、王族を戦闘不能に追いやってしまった事で正気に戻り、自分が居ては侯爵家に迷惑をかけてしまうと後先考えずその場で逃走。
丸一日間走ってここに辿り着いたものの、魔力的にも体力的にも力尽き今に至ると言う。王都から相当離れてるスポンジ町に一日でそれも走って来るとか正気の沙汰ではないのだが。馬車でも1週間は最低でもかかるのに、、。何も考えず逃げてきた為お金は勿論のことアテもないらしい。
「話してくれてありがとうございます。これからどうするのですか? 困っているのなら、しばらくここに滞在されてはどうですか?」
流石に強いとはいえ少女をこのまま放り出す訳もいかないし、曲がりなりにも侯爵家の人間だ。町の人たちに任せるのも気が重い。それなら身寄りのない俺が引き受けた方が良い。何かあっても他の誰かが迷惑はかからないだろうし。
「しかし、追っ手が来るかもしれませんし、あなたに迷惑がかかってしまいます。助けて貰ったのにこれ以上の迷惑はかけるわけにはいきませんわ。」
貴族らしい毅然とした態度いうマリー様に向かい俺は素朴な疑問を聞いてみた。
「お金はお持ちなのですか?」
「うっ!」
「宿屋の場所は?まさか野宿する気ですか?」
「ううっ!」
「庶民のルールはしってますか?水はどうされるおつもりで?食べ物は自分で確保できるのですか?」
「もうわかりましたわ!そんなにいじめないで下さいまし。分かりました、しばらくあなたの所でお世話になってもよろしくて?」
マリー様はやっと観念したようでコチラの提案を受け入れてくれた。今更ながら年頃の男女がと思わないでもないが、相手は侯爵令嬢なのだ。物理的に首は飛ばしたくないので、本当に親切心のみの滞在の提案なのだ。
「是非ゆっくりしていって下さい。改めて自己紹介を。
私は拾った物を直しては売りさばき、
その他修理修繕直せる物は極力直してお返しする
【直し屋 バーバラ】をやっておりますバルバラです。
マリー様、以後よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いしますわ。
あと、今は侯爵令嬢ではないものとしてあたくしは
考えておりますので、固い口調は結構ですわ。他の方に怪しまれてしまいますし、普段の口調で名前もマリーとお呼びになって貰って結構ですわ。」
「そっか、オッケーよろしくマリー」
「あなた少しの遠慮はありませんの!!大胆すぎますわ!!」
こうして俺と侯爵令嬢マリーとのちょっとした
共同生活がスタートしたのだった。
マリーは超スーパードリル人です。
バルバラはマジで物がそこそこ直せる以外は普通です。