大将とオムレツ
「「「ハァァァァッ!!!」」」
城の訓練場からは威勢のいい掛け声とともに、剣のぶつかりある音が鳴り響いている。
ドゴォォォォォンッ
また別の場所では、爆発音が絶え間なくあがっている。
クラスが召喚されてからちょうど1週間。クラスメイトたちは訓練によりかなりの力をつけていた。
その中でも頭1つ飛び抜けている者がいる。
───勇者 シン
───聖女 美香
あと2人。
───魔導師 白河 梨沙
───拳闘士 堂本 龍介
この4人で組めば、騎士団長
───名はゼノンと言うらしい
とも互角に渡り合えるほど。バランスから考えても、パーティーを組むのに最適とも言える。
このようにクラスメイトたちが順調に力をつける中、俺───真央はと言うと
「ほらそこッしっかり出汁をとるッ!!」
「「「はいッ!!」」」
「アクをとれアクをォォォォッ」
「「「すいやせんッ」」」
厨房で城の料理人たちに指導していた。
遡ること5日前。
「今日からお前はここの下働きをしろ」
城の騎士が明らかにこちらを蔑んだ目で言い放つ。つけてこられたのは厨房っぽい場所だった。なぜ、っぽいがつくかというと、
「汚ねぇ・・・」
明らかに食事を作る場所では無い程に汚れている。しかもGのおまけ付き。
ここで働いている料理人たちは皆黙々と作業していた。そうして生み出されるのが───
「なんだこれ・・・」
ひとつ、しょっぱくてテロテロした白いスープ
ひとつ、臭みだけを濃縮したような異臭を放つ魚
ひとつ、茶色に変色した、卵の成れの果て
「これ、厨房じゃないよな。絶対なにか違うし。見るからに変な怪しい実験とかしてる場所だよな」
俺は思わず呟く。今すぐ帰りたい。おうちに帰りたい。だが聞かなければならないことがある。
「ここってなんの場所ですか?」
「見てわかんねぇのか、料理作ってんだよ」
・・・・・・・・・これが?
「これは俺らや下働きの者など、立場の低い者達用の食事だ」
なるほどな。俺は今の説明で納得した。つまりこういうことだろう
───お前らなどその辺の残飯で十分だ
と。
「そうか・・・余程ひどい食材しか手に入らないのだろう・・・・・・」
「いや、材料は普通に貰えるぞ?」
・・・・・・は?
「ただ俺らが調理するとちょっと味が変わっちまうんだよ」
・・・・・・・・・は?
「なんでだろうなぁ、普通に料理してるだけなのにな。そうだろう?お前ら」
「「「そうですそうです!」」」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「・・・・・・ぇら、」
「ん?どうしt・・・」
「お前ら全員クビだァァァァァァァッ!!!」
料理人さん達がいっせいにビクッてした。その弾みでちょっと白いのがこぼれたりもした。しかしそんなことはどうでもいい。俺が今言いたいのは、
「どうやったら卵しか使ってないのにこんなダークマターが生み出せるんだよッ!!!なんで塩で煮込むだけでこんな白いドロッドロのスープが出来上がるんだよォォォォッ!!!」
そこには料理人達の手によって次々と生ゴミに変えられていく哀れな食材達の姿があった。
「お前らちょっと見てろッ」
俺は大魔王時代のスキルを総動員し、一瞬で料理人達を移動させ、厨房を新品同様に綺麗にし、時間逆行で食材達を元の姿に戻した。
「俺が今から最もシンプルな卵料理をつくるので、よく見ておくように」
まずは卵を割る
しっかりと混ぜ混ぜして
フライパンに油をしいて温める
そこに卵をいれ
軽くまぜる
いい感じのタイミングになったら
卵をくるっとする
完成。
「「「おおっ」」」
「これが«オムレツ»だッ」
とりあえず皆に一口ずつ食べさせる。すると、
「「「・・・・・・・・・」」」
見事に全員が口を開けたまま気絶した。
「「「はっ!?」」」
あ、起きた。
「「「大将ッ弟子にしてくだせぇッ」」」
・・・・・・・・・え?
※料理メインの小説ではありません