«調理師»真央
調理師って憧れですね、はい。
「ようこそお越しくださいました、勇者様方」
───やっぱりか。
俺はさっきの光が止んだ瞬間から、大魔王時代の力が戻っていることに気づいていた。
しかしまた戻ってくることになるとはな。
「ここはどこだッ!?」
「俺たちを返せッ」
「異世界キタァァァァッ」
「父ちゃん...母ちゃん......」
クラス中から不満の声が上がる。1部例外もいたが。そんな時、1番頼りになるのはやっぱり
「みんな落ち着けッ」
現生徒会長であるシンだ。いやー頼りになるねー。
シンが一喝すると、途端にざわめきが収まっていく。
「とりあえずそちらの方の話を聞こう」
そう言って最初に声をかけた女の人の方に話を振る。
「ありがとうございます。ここではなんですので、玉座の間にご案内します」
玉座の間、と言ったところで、再びざわめきが起こる。
「申し遅れました、私はランド王国第一王女、アリスと申します」
そう言って少女、アリスは優雅に一礼する。この時男子の中の8割以上はその姿に見惚れていた。
余談だが、彼女がいる男子は後日頬に紅葉を付けられることとなった。
こうして、俺らは玉座の間とやらに移動することとなった。
「よくぞまいった、異世界の勇者たちよ」
そこに居たのはThe・王様って感じのおっさんだった。
「余がランド王国の王である」
たまたま先生はいなかったため、生徒代表として、シンが話し始める。
「とりあえず事情を説明してくれますか。こちらは、突然のことでかなり混乱しておりまして」
「貴様ッ、無礼であるぞッ」
1人の騎士っぽい格好をした男がシンに食ってかかる。
「良い。こちらの都合で呼び出したのだ」
どうやらこの王様は話が分かる方らしい。
「まずこの国の現状についてだが───」
ここまでで俺が感じたこと、それは
───強くなっている
真央が転生する前、人類はもっと弱かった。それこそ異界の魔物に蹂躙されるほど。しかし真央の見立てでは、この国の騎士3人ほどでも、魔物を十分抑えきれるだろう。
さらに、この城で最も強い───恐らくは騎士団長、その男の強さだけは別格だ。そいつの前では、いくら魔物が集まったところで無駄だろう。
どうやら俺のアドバイスは無駄ではなかったらしい。少し強くなりすぎな気もするが。
「それでは、諸君にはジョブの判定を受けてもらう」
ん?
「これはジョブの判定ができる宝具だ。今から順番にこれに触ってもらう」
「じゃあ俺から行きます」
やはり1番手はシン。俺の見立てだとあいつは───
「ゆッ、勇者ッ!?」
───ざわざわ
王国の騎士や、文官、王族に至るまで、全ての人が驚愕している。
「まさか、本当に存在するとは・・・」
「次は私がいきます」
次に声を上げたのは美香。
「聖女だとッ!?」
これには流石の俺も驚く。まさか勇者と聖女が同時に召喚されるとはな。
そのあとは次々とクラスメイトがジョブ判定を受ける。
結果として、かなりよかった。ほとんどがこの世界で上位や最上位とされるジョブを得ていた。
ただ問題があるとすれば───
「調理師ッ!?」
俺だな。
大魔王時代の趣味が料理で、部下に振舞っていいるうちにいつの間にか職業が大魔王から調理師になっていた。あの時はちょっと凹んだものだ。
「調理師など何の役にも立たぬでは無いかッ」
そう言ってきたのは最初に騒いでいた1人の騎士。だが口には出さなかったが、王や文官、そしてクラスメイトですら同じことを思っていただろう。
───«ハズレ»だな
「まあ、なんだ、その・・・」
「えっと、調理っ、いいと思うよっ」
こんな時でも親友の2人は励ましてくれる。良い友を持ったものだ。
「気にすんなって、調理師でも色々とできるんだぜ?」