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第4話 夜の森の死闘

「ルノワ、大丈夫か!? こいつ二本足で立ってやがる! 本当に狼なのか!?」

「うろたえるなアラタ、あいつはワーウルフのなりそこないだ。しかし、ちょっとキツイな……」


 目の前に立つ、ルノワ曰く“ワーウルフのなりそこない”だと言うその獣は、体長はゆうに2メートルを超え、先ほどの獣たちと同じように光る赤い瞳を血走らせ、腕には人の身体などやすやすと切り裂いてしまうだろう爪が光っていた。黒い毛に覆われた身体は筋骨隆々としており、爪や牙の一撃を受ければひとたまりもないだろう。


「『影よ貫け』!」

「――! グルルッ!」


 ワーウルフが一瞬アラタの方に気を逸らした隙に、ルノワが先ほどの呪文を唱えた。しかし、攻撃が読まれていたのかワーウルフは影の槍を宙返りでかわすと、アラタ達から距離をとった。


 見た目にたがわず、先ほどの狼達よりもかなりの強敵のようだ。追撃も反撃もないようなので、アラタは隣にいるルノワの様子を窺った。


「疲れているように見えるが大丈夫かルノワ? 魔法を使っているからか?」


 アラタの指摘するように、ルノワの表情からは先ほどの余裕めいた笑みが消え、明らかに疲労の色が出ている。


「大丈夫……と言いたいところだが、あの規模の影の槍は打ち止めかな。本来ならこんな事はないのだが、寝起きだからかいまいち身体のコントロールが効かんな……」


 先ほどの攻撃を警戒してか、ワーウルフは距離をとったままアラタ達の動きを窺っていた。どうやらこちらの言葉の意味が分かるほどには賢くはないらしい。


「ルノワ、このままでは2人ともあの犬の餌だ。君に出会わなければ俺はさっき食われていた。走れるか? 俺が奴に隙を作るから君は逃げるんだ」


 やはりアラタにとってルノワは命の恩人だ。訳の分からない化け物の餌になるのは一人で十分だ。どうにか時間稼ぎをしようと、アラタは手近にあった長めの木の棒を拾うと恐怖心を抱きながらもワーウルフの方に向き直り構えた。


 一発かまして隙を作って逃げる。アラタの得意とする喧嘩戦法がこの化け物に通用するかは分からないが、やるしかない。案外殴ってみたら相手は着ぐるみで、頭がスポっと取れるかもしれない。


「そう悲壮感をだすな。アラタ、お前がお人好しなのは十分に理解した。ならば2人とも助かるために手を貸してくれ」

「あるのか? 2人とも助かる方法が⁉」

「ああ、お前が奴に立ち向かう気があるなら可能さ。一瞬でいい、奴に完全な隙を作ってくれ。無茶な事を言っているのは分かるが、頼む」


 あの化け物に一瞬とはいえ隙を作るのは骨がいるだろう。だが、獣の餌になるより二人とも助かるために苦労する方がずっとましだ。この短時間でルノワのことを信頼していたアラタは、覚悟を決めた。


「俺はなルノワ、無茶でも無謀でもやる時はやるって決めていんだよ! 俺があのクソ犬に隙を作る!」


 そう叫ぶやいなや、アラタはワーウルフに向けて突進した。


「うおおおおおおおおおおおおお!」


 決して棒は振りかぶらない、隙をつくらないのは喧嘩の鉄則だ。素早く突くようにして間合いをとる。ワーウルフはアラタが繰り出した突きを身体をひねって簡単にかわすと、お返しとばかりに右手を叩きこんだ。


「――ッ!」


 風を切る音が聞こえるほど早い拳撃だ。とっさに棒を盾代わりにしたアラタだったが、棒は真っ二つに折れ、アラタは無様に吹っ飛ばされて地面をゴロゴロと転がった。


 ワーウルフはもう用はないとばかりに、ルノワの方に向き直ろうとしていた。


 ――まずい。このままでは目的を果たせない、そうしたら二人揃って獣の餌だ。


 アラタは全身が痛むのをこらえて立ち上がった。


「こっちに来いよ、犬野郎! 俺はまだ死んでねぇぞ!!」


 ワーウルフはピクリと反応し、一瞬にしてアラタのそばにまで跳躍した。地面に押し倒されたアラタの眼前には、大きく口を開けたワーウルフの幾本もの鋭く凶悪な牙が映った。


「クソが、食われてたまるか! これでも食らいやがれ!」


 アラタは半分になった棒の片方を、咄嗟にワーウルフの喉の奥に突き立てた。喉に食らった一撃に、呻きアラタから飛びのいたワーウルフは、怒りの眼差しを浮かべてアラタを見据えた。


 今のは運だ。単なる幸運で命をつなげただけだ。捕食者としての余裕を捨て飛び掛かってくる獣を、次はいなす事ができないだろうとアラタは本能的に思った。


「『影よ縛れ』! よくやったぞアラタ!」


 ルノワの救いの声と共に、ワーウルフは両手両足を機から延びた影に縛られ宙吊りになっていた。うまく注意を引けたので、魔法が決まったのであろう。自由にならない手足を乱暴に動かして影を振りほどこうとしているが、木を揺らして葉を落とすばかりだ。


「この魔法は長くはもたない! たいていの生き物は頭を揺らせば昏倒する。棒を構えて殴りやすく硬いものを想像しろ! 『影よ纏え』!」


 まだ終わっていないと、ルノワの必死さ溢れる鋭い指示が飛んだ。アラタは残り半分となった棒を構えて、目をつむり思い浮かべた。


 家族のこと、散々であろう期末テストの結果のこと、夏休みの予定のこと。とりとめもないことが思い浮かぶなかで、ふと来週友人たちと野球をすることを思い出していた。カキーンと金属バットの音が脳内に蘇る。


 目を開けると短くなっていた木の棒の先に黒い影が宿り、バット状になっていた。


「それは蛮族の棍棒か? 狩りに使う道具か?」

「バットって言うんだ。スポーツに使うものさ。本当はこんな使い方したくないけど――俺も餌になりたくはないからな! ホームランだ!」


 アラタは一度深呼吸をしてバットを振りかぶり、渾身の力でフルスイングした。黒い靄を纏った棒は、ギュンと風を切る音をたて一直線にワーウルフの頭に叩き込まれた。ゴスっという鈍い音が夜の森に響いた。


 動かなくなったワーウルフを縛っていた靄は霧散し、囚われていた巨体は地に落ちた。そして、後ろから近付いてきたルノワは、しゃがんでワーウルフの心臓であろう場所に手を当てると、小さな声で呪文を唱えた。


「『影よ貫け』」


 魔法で生成された影の刃は、確かな手ごたえと共に心臓を貫通した。ピクリとも動かなくなったワーウルフは、完全に絶命したようであった。


「いまだ完全に力が戻っておらず、動きを封じるのと攻撃するのを同時には行えなかった。ワーウルフの強靭な筋肉を貫く為には手順を分ける必要があったんだ……助かった」


 静かに立ち上がったルノワは向き直ると、いまだ残る生々しい感触に手を震えていたアラタにむかって釈明するように言った。


「お互い様だよ。まだちゃんとお礼を言っていなかったな。何度も助けてありがとうルノワ」


 夜の森での死と闘いの恐怖が過ぎ去ったことに安堵したアラタは、にっこりとほほ笑んだ。

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