怪盗志望の町内警備員
幼い頃、ヒーローよりも悪役の方がかっこよく見えた。
でも、いつも勝つのはヒーローで、悪役はボコボコにされて捨てゼリフを吐いて消えていく…
そんな中で怪盗は警察の目を欺き、宝石や美術品を華麗に盗んでいく。
何度も捕まりそうになりながらも決して捕まらない姿に憧れを抱いた。それはカイトという自分の名前に響きが似ていたことも理由の一つだったかもしれない。
追っ手から逃げるための体力を付けよう。
予告状を出すときに足がつかないようにするには?警察を欺くトリックは?たくさん勉強もした。
(あと半年で卒業かぁ)あと何日この道を歩くのだろうかと頭の中で計算しながら、高校へと足を進めていると何か違和感があることに気づいた。
何かがいつもと違う。違和感の正体を確かめるため、道中の記憶を必死に思い出す。
「あっ!」
やっとわかった。(アイツ鍵かけ忘れてるよ…)
いつも飼い犬のタローに行ってきますの挨拶をした後鍵をかけているのに、今日はノラ猫に気を取られてそのまま家を出てきてしまっていた。
「ホノカ!」
数歩前を歩いていたホノカを呼び止める。
「今日家の鍵かけずに出てなかった?」
「本当だ!教えてくれてありがとう!」
幸いにも家から然程離れていなかったので、ホノカは鍵を閉めに駆け足で戻って行った。
「そそっかしいなぁ」カイトはそう呟きまた高校へと歩き始めた。
が…その日の通学路は様々なことに気づいた。
この家、2階だからって窓が開けっぱなしだけど、あそこを伝っていけば侵入できるぞ。
あのベンチに座ってるおじさん、家の人がいなくなる時間帯を探ってるな。
カイトは怪盗になるべく様々な勉強をしてきたお陰で、盗みに入りやすい場所や、悪いことを企んでいる人が手に取るようにわかるようになっていた。
「今日だけで5人、空き巣狙いの人がいたぞ…」
怪盗を目指しているのだから、カイトもあちら側の人間のはずなのだが、自分が生まれ育った町を他所者に荒らされることに何故か無性に腹が立った。
「怪盗になるのはこの町を守ってからだ!」と謎の正義感に燃えたカイトは、この町を狙う空き巣を撃退することにした。
こうしてカイトの怪盗になるために身につけた身体能力・知識を駆使して、人知れず空き巣を撃退する日々と、陰でご近所さんからニート呼ばわりされる日々が始まった。