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私の格好。
そう、それは
着古したグレーのスウェット上下。
腕の中には抱きしめられたままの抱き枕=小夜子さん。
ちなみに小夜子さんは全身で抱きしめられる低反発のロングタイプのもので、彼女さえいればものの数分で夢の世界へ旅立てるという優れものだ。
そんな小夜子さんの話はとりあえず置いといて。
私は、今、寝ていたのだ。
もう一度言おう。
寝 て い た の だ 。
え?
異世界転移って歩いてたら急に地面に穴が空いて〜とか、車に跳ねられて目が覚めたら〜とか、そういうのじゃないの?
いつも通りベッドに入って熟睡してる間に召喚されるとか、間抜けにも程があるわ。
おかげで訳のわからない世界に、スッピン寝起きのスウェット姿(小夜子さん付)なんかで登場するハメになったじゃないか。
神様か誰か知らないけど、もうちょっとタイミングっていうものがあるでしょうーーー
って、この人今なんて言った?
聖女様って言った?
ーーー聖女様ってあれだよね、世界の危機を聖なる魔法で救ったり、逆ハーみたいなパーティ組んで魔王を倒したりする、あれだよね?
「・・・私が聖女様?」
困惑したような表情を浮かべて顔を上げる王様ちっくさん(仮名)を前に、寝ぼけた頭が少しずつ覚醒する。
一一一無理無理無理!!!
聖女様とか無理!!
こちとら清らかな微笑みや慈悲の心なんて持ち合わせてないし、まして平和ボケした生粋の日本人の私が魔王なんて倒せるはずがない。
周りの声が色々聞こえるけど、全然頭に入ってこない。
丁寧にそっと移動を促されているのはわかるが、それどころでないのだ。
私の脳裏には、魔王と敵対して虫ケラのように瞬殺される自分の姿が鮮明に映し出されていた。