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純愛に嫌われる  作者: 河篠てる
日常にサヨナラを。
6/9

 何度目かの静かな時間が流れた。

 愛した人は断罪を待っていた。彼女は、私と共に在りたいと告げた。しかしながらそれは紛れも無い侮辱である。私と會澤君と、由香への。


 私は決めあぐねていた。

 彼女の告白を聞いて私の心は彼女を、その甘い毒を受け止める気でいた。

 しかし、私の…いや、由香の父親はその毒を嫌悪していた。嫌悪などという言葉が軽く感じる。それほどに黒く、紅く、鈍く、熱く燃え盛る焔を由香の父親は抱えていた。


 だが、その焔は移り変わり、私の心に宿った。

 彼女の行為を裏切りと捉え始めた私の情けない心に。

 一方で、由香の父親は焔を失い、迷いを抱いていた。母親を失う経験を由香に強いて良いのだろうか。私の仕事が終わるまで、一人で、広く感じるようになったこの家に残すことを良しとするのか。


 私には難しい問題だった。

 どちらの私も時折彼女を求め、時折彼女を嫌悪した。


 優柔不断。今の私に相応しい言葉だった。

 誰でもいい、正解を教えて欲しかった。未来を見比べてその上で選ぶ傲慢を許して欲しかった。


 商品を選ぶかのように、メリットとデメリットだけで決められたらどれ程良かっただろう。


 そうして私が悩むと悪魔が囁くのだ。


「どちらを選ぼうと、幸福はある。そして同時に不幸もある。仕方の無い事なんだ。君の思うままに、君が後悔しない道を選べばいい」


 なんとおぞましく、唾棄すべき言葉か。


 どちらでも幸も不幸も変わらないと?

 そんな十把一絡げのように私の愛する人達を扱えと言うのか。


 仕方の無い事だと?

 そんな妥協が父に赦されると言うのか。


 思うがままに?

 思うがままにしている。思うがままに悩んでいるのだ。


 後悔しない道だと?

 そんな物があるなら教えてくれ。出来るならば私は私の五臓六腑を差し出す事も厭わない。




 私はどうしたらいい。


 愚かな私にはそれすら分からない。





「…貴方はきっと私についても、…悩んじゃうよね。貴方は思慮深くて、底抜けに優しいから」


 静寂は彼女によって破られた。ある種傲慢とも取れるその語り草はさながら蜘蛛の糸のようであった。


 何も言わずただ、俯き続ける彼女を見つめていた。高校時代、気力に溢れ、私を惑わし続けていた彼女はすっかり大人になった。今でも呆れる程に気力はあるが、昔には無い落ち着きがあった。それは母親となり手に入れたのだろうか。それとも私からか。或いは。


「貴方に、私が言うのはとてもその…狡くて、最低で、調子に乗ってると思われても当然…なんだけど」


 自虐を挟み、罪悪感と謝罪を織り交ぜ、私に少しでも嫌われぬよう語る彼女は酷く小さく見えた。先程會澤君と向き合った彼女とは別人のように思えた。


 珍しく一つ一つの言葉を悩み抜き、普段とは比べ物にならないほど愚鈍に連ねる彼女に、私は苛立ちを感じなかった。


 彼女の言葉を待ち続けた。


「少しだけ…。1ヶ月…いや1週間、1日でもいいの」


 彼女は意を決したように顔を上げた。


 その顔は酷く哀れだった。


 哀しみと恐怖と孤独感と罪悪感と…愛情を孕んだその顔から私は目を逸らしたくなった。




 私は、


 私は、



 …私は、



「…私と…また暮らして欲しい。嫌になったら、私が…当たり前だけど…許せなかったら、棄ててもいいから」



 私はその目に縋ってしまった。


 おかしな話だ。


 縋るような、雫を湛えたその目に、実は私が縋っていたのだ。



 そうすれば罪は私では無く、彼女にある事になる。卑怯にも私はそれを分かっていながら、目を逸らせなかった。







 俺だって助けて欲しいんだ。


 俺みたいな怪物にはどうすればいいのか分からないんだ。







 それでもそれを、その甘言を、完全に受け入れることが出来るほど私は強かに成りきれなかった。


「…契約をしよう」


 それが私の答えだった。

私基準ですけど、すごい反響があってビビり散らしてます、どうも河蓧です。

感想について、少しだけ。私は初め感想には全て返信を返そうと思っていたのですが、やはり話の今後に関わることは発言を控えるべきと判断致しまして、今後、話の根幹に関わる事は返信出来ないことをどうかご了承ください。



次回から、話が時間的に加速して行きます(河蓧基準)。元々長い話にするつもりも無かったのでこちらもどうかご了承ください。



追記

何となく覗いたランキングに載っていました。

嬉しい反面、緊張と期待に応えられるか少し不安になりますね。頑張ります。

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