006 未来の技術
血溜まりに倒れたオツウの体。
その近くに落ちて、オレの方を恨めしそうに見ているかの様なオツウの首。
ジョニーは、涼しい顔で血に塗れた刀を拭っている。
周りのみんなも、平然としたものだ。
「フゥー。……随分と思い切った対応ですね、それ。流石にそれはないですよ。」
オレはそれなりの驚きを隠しつつ大きく息を噴出し、冷静なツッコミを入れた。
今日は既に何度も視覚的なドッキリを経験していたので、悲鳴を上げたりしたりせずに済んだのだ。
普段だったら、酷い動揺を見せていたかもしれない。
「そうですか?女性の嫉妬は凄いというし、この位は許容範囲でしょ。スカッとすると思いますよ。」
ジョニーには、オレのリアクションの薄さを気にした様子は無い。
メインの仕掛けではないのだろう。
本当は結構ビックリしたが、黙っておく。
こういう首切断トリックは、昔から手品等でも定番といっていいかもしれない。
ちょっと出血の演出が派手過ぎるが、血が出なければオレはほとんど驚かなかっただろう。
それにしても、地面に落ちているオツウの首は非常にリアルに出来ている。
関心して、落ちた首の細部を見ようと目を凝らした時だった。
「もうちょっと驚いてくれないと、首を落とされた甲斐がありませんよ。」
地面に落ちているオツウの首が喋ったのだ。
オレは先程よりも、よほど驚いた。
こんなリアルな動き方をする作り物の顔は、正直見た事がない。
口や表情の動き方も、まるで人間そのものだ。
作り物の顔を人間の顔に近付けていくと、本物と見分けがつかない状態になるまで、不気味な顔に見えてしまうという。
そういった現象を『不気味の谷』というが、このオツウの顔は完全に『不気味の谷』を越えていた。
コレを作るのには、相当な金が掛かっている筈。
驚いているオレを尻目に、倒れていたオツウの身体が、首を拾った。
デュラハンの様に、自分の首を小脇に抱える。
「うーん、やっぱりリアルなロボット顔の存在の方が驚きですか。迫真の演技だったのになぁ。」
オツウが左手で持ったロボット顔が、残念そうな表情で舌を出した。
当然だが、やはりあの頭部は作り物なのだ。
「あんまり、何時までも血だらけってのは良くないな。」
ジョニーが手にしたハンカチで、オツウのロボット顔の血を拭った。
本物の血ではないからだろう、拭いた場所は綺麗に赤い液体が拭き取られた。
ロボット顔は、タオルで体を拭かれる子供のように、拭かれる動作に合わせて表情を変えている。
状況から考えて、発言や扱われ方に連動して、ロボット顔の表情も変わるのだ。
これは、凄いものを見てしまった。
オツウはオレに、持ってみろと言わんばかりにロボット顔を差し出した。
「えっ!?も、持てって事ですか?いいんですか?えっ、大丈夫?」
オタオタしながら差し出したオレの両手の上に、オツウのロボット顔が多少強引に置かれた。
重さは五キログラム程だろうか、本物の頭部の重さは知らないが、意外とずっしりとしていて重い。
しかし、触った感じは人間の頭をもった感じと大差なかった。
オレが顔を上に向けてロボット顔を持つと、百面相のように、表情がコロコロと変る。
これほど近くで見ても、本物の人間の顔のようだ。
まるでハリウッドのSF映画の中の出来事、未来の技術としか思えない。
「こんなロボットがあるなんて、まるで未来だなって思ってくれましたよね。じゃ予定通り、もっと未来感を出そうと思います。」
ジョニーの言葉に、オレの心臓は鼓動を速くした。
一体全体、次は何を見せてくれるのだろうか。
「と、いう事は、ついに私の出番ね。」
ダークエルフ役のカイリーが、何かをしてくれる様だ。
カイリーは、頭の無いオツウの身体の正面に移動した。
オレは息を詰めてそちらを見る。
オツウの身体の腹の辺りに、ゆっくりと差し出したカイリーの手の平が触れた。
「うわぁ、やられたぁ。」
オレの手の上にあったオツウのロボット顔が、間の抜けた声を上げる。
その瞬間、オツウの体の腹の辺りから何かが吹っ飛んだ。
「どうだ、まいったか。」
ほとんど棒読みの、カイリーの台詞。
その台詞と同時にこちらを向いたオツウの身体の腹には、サッカーボール程の大きさの穴が開いて完全に貫通していた。
その穴が本物である事を主張するかのように、オツウとカイリーが穴の中に手を入れたり出したりしている。
それを見て、オレは確信をした。
オツウは頭部だけではなく、体の部分もロボットだったのだ。